042.ネコレンジャー
放たれた光の軌跡が、日中のように周囲の様相を浮かび上がらせる。
その一瞬の稲光が如き閃光がハツカを照らし出し、シロウにその安否を確認させた。
どうやらハツカは、砲撃の直前に再び菟糸を壁面に撃ち込んでいたようだ。
その命綱によって自分を引き寄せさせて、回避軌道の修正を行って難を逃れていた。
「まるでサルか曲芸師だな」
「コウヤ、それをハツカの前で間違っても言うなよ」
「分かっている。それよりも、あのバカげた連中を、どうするつもりだ?」
「……バックレたい」
「と、とにかくケットシーの事を報告しないといけません。一大事です!」
シロウもコウヤもルネの意見を、もっともだ、と認める。
しかしその場合、あのネコレンジャーからどうやって逃れるか? と言う問題がある。
「キャハハ、キャハハ」
シロウは、ハツカに陽気に捕まっている子ネコを渡せばどうか? と考える。
しかし、子ネコが人質になっているにも関わらずネコレンジャーは砲撃した。
シロウは一瞬の光の中で見た、山頂部を抉った砲撃跡を思い出して唸る。
ネコレンジャーは、子ネコを追っていたが、その生死には興味がないのかもしれない。
そうでなければ屋根どころか、遥か先の山頂を抉った、あの砲撃を撃てる訳がない。
「人質がいたのを忘れてたにゃ!」
「あっ、うっかりにゃ」
「うっかり、うっかりにゃ~」
「でも、ちゃんと避けたみたいにゃ」
「じゃあ、のーぷろぶれむ? なのにゃ~」
ネコレンジャーから信じられない会話が聞こえて来た。
「おいルネ、アイツら本当に大丈夫か?」
「だから言っているんです。ケットシーは、まともに相手が出来ないんです!」
しかしさすがに反省したのか、ネコレンジャーは砲撃武装を解除して武装を持ち直す。
そして再びハツカに群がっていった。
「ハツカ、そいつらは、その子ネコを迎えに来ただけのようだ。返して……」
【キサマら、そこで何をやっている!】
シロウの声に、何者かが大声で被せて来た。
その声にシロウ達はもちろんの事、ネコレンジャーも反応した。
「ヤバイにゃ!」
「あんみつ行動がバレちゃうにゃ!」
「それを言うなら、おんみつにゃ!」
「大臣さんに怒られるにゃ!」
「さっさと、救助して逃げるにゃ!」
ネコレンジャーは、駆け寄って来た国境警備隊の存在に気づく。
そして、本来の目的を思い出したネコレンジャーは、慌てて子ネコの奪回に動いた。
ネコレッドが、ピコタンハンマーで殴り掛かり、ハツカを燕麦の防御越しに押し込む。
その間にネコグリーンが、おでんの槍を投擲する。
さらにネコピンクによる追撃のメカジキの大剣も振り下ろされた。
ハツカは、両者の攻撃を菟糸の自動防御で対応する。
その対応能力と強固な守りは、ロウに鉄壁と言わしめただけの事はあった。
しかし今回は相手が悪かった。
防御したメカジキの大剣に、おでんの槍の具からダシが滴り落ちて臭いが充満する。
なかなかに、いやらしい追加攻撃を食らったハツカの表情は、不快感に満ち満ちる。
ネコイエローは、その一瞬のスキを突いて、羽付き靴の能力で飛行しながら接近する。
そして勢いをつけた飛び蹴りを繰り出して、子ネコを捕縛していた菟糸を攻撃した。
「はにゃ~!(あせあせ)」
ハツカは、気がそれたのと同時に攻撃を受けた事で、菟糸の拘束力を緩ませてしまう。
それにより子ネコは、菟糸の拘束から解放されて空中へと放出された。
「オーライ、オーライにゃ!」
ネコブルーが、空中に放り出された子ネコをキャッチする。
それを確認したネコレンジャーは、攻撃の手を止めてネコブルーの下に集結した。
「オーケーにゃ!」
「捕まる前に戻るにゃ!」
「撤収にゃ!」
「けって~い!」
それぞれが好き勝手を言ってるネコブルーを急かす。
「ドロー!」
ネコブルーのボイスキーに左腕に保持されている奇妙なカードの束が反応を示す。
左腕の射出口から、一枚のカードが射出させる。
それは、一日に一枚射出される補充カード。
右手でキャッチした一枚を、カードホルダーのカードに加える。
手にしているカードは七枚。それが現在使用可能となっているカードであった。
七枚のカードを扇状に広げて、その効果を素早く読み通し、一枚を選び出す。
そしてカードをベルトのバックル部にある読み取り機に読み取らせて発動させた。
『凱旋』
機械音によるガイド音声と同時に、カードが効果を発現させる。
能力を解放したカードは、その形を光へと変えて子ネコとネコレンジャーを包んだ。
「鬼ごっこ、面白かったのにゃ(あせ) また遊び来るにゃ!(あせあせ)」
そして楽しそうな子ネコの言葉を最後に、光は収束してケットシー達の姿が消えた。
先ほどまで騒がしかった空間が、一瞬にして静寂を取り戻す。
その光景にシロウ達も国境警備隊も呆気に取られた。
「『凱旋』か……集団転移、いや集団帰還と言った所か?」
コウヤが、カードが使用された現場を観察して、その効果を推測する。
その様子で我に返った国境警備隊が、ハツカとコウヤを捲し立てた。
「我々は国境警備隊。オマエ達は何者だ? ここで何をしていた!」
「いきなりですね。私は、あの者達に急に襲われたので身を守っただけです」
「おれは魔術師だ。痕跡が残っているうちに検分が出来た事に感謝してもらいたいな」
「なんだと? ケットシーが興味を持ったと言う事か? 怪しいヤツめ!」
「おい、それってヒドイ言いがかりだな」
「アナタ方が国境を守る兵士なら、侵入を許した自分達を恥じたらどうですか?」
「止めておけ、国境突破と集団帰還の手段を持つ相手だ。もう雑兵じゃ相手にならない」
「キサマら! 言わせておけば!」
「まさかケットシーと何かしらの関わりを持っているんじゃあるまいな!」
「そう言えばケットシーが、また遊びに来る、とか言っていたぞ!」
「これは国防に関わる問題だ、オレ達の指示に従ってもらう」
「四人とも同行してもらおう。下手な抵抗はしないでもらいたい」
国境警備隊は完全にハツカ達を怪しんで、冷静な話し合いが出来る状態ではなかった。
ハツカ達からすれば当然の見解を述べたに過ぎないが、彼らからすれば別である。
すでにネコレンジャーによって二度、派手な現象が引き起こされている。
これはもう隠しようのない国防の失態なのだが、いま公にする訳にはいかない。
彼らは、少しでもケットシーの侵入があった事実を秘匿しようと努める。
それは彼らの中にある国防に対する使命感によるもの。
一般人に知られて混乱が増長される事を危惧しての処置である。
彼らは彼らなりに、自分達の失態を認めた上で、今回の事態の終息に努めていた。
しかし実際にケットシーと遭遇して、そのデタラメさを目撃してパニックになった。
そこに的確な指摘を突きつけられた事で、彼らは反射的に反発してしまう。
使命感と自尊心との均衡が保てなくなった彼らは、支離滅裂となった。
そしてかろうじて残っていた使命感をもって、彼らはシロウ達を連行する。
それはハツカの不信を買ったが、シロウとルネは仕方がないか、と諦めて協力する。
そしてコウヤも、別の意図をもって彼らに協力する事を認めた。
こうしてシロウ達は、長い事情聴取を受ける事となった。




