041.ミラクルシューティング
◇◇◇◇◇
一部を除いて和やかに過ぎた祝勝会が滞りなく終わり、それぞれに帰路につく。
トム達は護衛の依頼主が用意した宿屋へと戻り、コウヤは教会まで連れ立って歩く。
それはコウヤの宿泊先が、教会の裏手に位置する宿屋だったからだ。
少々熱気が残る暖かな空気が、満腹感に満たされた脳に眠気を催させる。
緩んだ心地でいる身体には、昼間の疲れが、うつらうつらと忍び寄っていた。
船を漕ぎ始めたルネを、ハツカが支えながら歩を進める。
そんな穏やかな時間の流れに、一つの物音が紛れ込んだ。
「ハツカ、いま何か聞こえなかったか?」
シロウが、違和感を感じてハツカに訊ねる。
するとハツカは、すでに宝衣・燕麦を展開してルネを抱きかかえていた。
「何か大きな物が崩れた感じの音がしましたが、周囲には怪しい動きはありません」
「いや、おれの魔力探知には引っ掛かっている。どうやら捕縛劇が行われているようだ」
防衛の為に範囲を絞っていたハツカの探知範囲外での出来事をコウヤが探知する。
その事にハツカが少しムッとしていたが、それも急接近した者達によって留められた。
ハツカの宝鎖・菟糸の捕縛圏内に何者かが飛び込む。
その無作法者をハツカが、許容するはずもなく容赦なく捕縛した。
「キャハハ、キャハハッ!」
しかし、その捕縛者は、なぜか菟糸に絡みつかれた状態で無邪気に、はしゃいでいた。
「子ネコ?」
「か、かわいい……」
それは美しい金髪の毛並みを持った二頭身から三頭身くらいの小さなネコの獣人。
その愛くるしい姿と無邪気さに、ハツカが抱きしめたそうな挙動を見せた。
「おい、来たぞ!」
コウヤの警告が飛び、子ネコを捕縛したハツカに、小さな五つの影が襲い掛かった。
ハツカは、菟糸の自動防御と燕麦のガードで、ルネを守りながら影を迎撃する。
その間にコウヤは影に炎弾を撃ち込み、シロウも影へと殴り掛かる。
それはハツカへの追撃を牽制する為の攻撃だったが、どちらも影にカスリもしない。
標的である影が、とにかく小さくて素早いのである。
五つの影が、隣接する店舗の屋根上に集結する。
そして、シロウ達を見下ろして叫びだした。
「悪党め、そこまでにゃ!」
唐突に人聞きが悪く、そして頭の悪そうな語尾の言葉が飛び込んできた。
「おまえ達こそ、何者だ?」
コウヤが冷静に、小さな影達を問いただす。
「トォーッ!」
すると小さな影達は謎の掛け声と共に、積み上げられていた集積物の上に降り立った。
影達はシロウ達の視線より、少々高い位置に着地すると、なぜかライトアップされる。
(シュタッ!)「ネコレッド!」
(シュタッ!)「ネコブルー!」
(シュタッ!)「ネコグリーン!」
(シュタッ!)「ネコイエロー!」
(シュタッ!)「ネコピンク!」
「「「「「五人そろって──」」」」」
『ポイポイ戦隊・ネコレンジャー』
ヒュ~ン……【パン、パン、パン、パン、パァーンッ!】
五つの影が各々にポーズを決めると、背後で打ち上げ花火が上がった。
そのあまりにも唐突な出来事に、目撃した者達は言葉を失う。
よく見ると花火は、ネコレッドの足元から伸びた導火線伝いに点火されていた。
どうやら、最初と最後の名乗りが終わるまでの時間差を使って仕掛けたようだ。
なかなかに手が込んだ演出である。
だが、シロウ達が言葉を失った訳は他にもあった。
目の前に現れた未知なる存在は、どう見ても子供である。
頭部は、ネコ耳が付いたフルフェイスのヘルメット。
全身は、それぞれの名前が一目で分かる着色が施された全身スーツ姿。
そして当然のように背後には、ネコの尻尾が左右に揺れていた。
「か、かっこいい!」
「か、かわいいです……」
「キャハハ、キャハハ!」
「おまえ達、正気か?」
ある意味、少し離れた位置から見ていたコウヤが、最も早く現実に戻った。
いや、まだ本当に現実と向き合っているとは言えなかったが……
一連の攻防を経て尚、子猫はキャッキャッと簀巻き状態で、はしゃいでいた。
対して、おネム状態だったルネは、いまはハツカの懐に包まれて寝息を立てている。
もう、なんでも有りのカオスな状況であった。
「やい、悪党ども!」
「ア……その子に、な~に、やっちゃってくれてるにゃ!」
「もう、やっちゃう? やっちゃって良いかにゃ?」
「反論は受け付けにゃ~い!」
「けって~い!」
どうやらネコレンジャーとやらは、この子ネコを追っていたようだ。
しかも話の内容的に襲撃や拉致とかではなく、保護や護衛と言った感じに見える。
そう考えた場合、シロウは振り返って、ハツカを見直して思う。
子ネコを鎖で簀巻きにしたハツカの姿は、どう見ても、まともな人間の対応ではない。
ある意味、ネコレンジャーの主張が正しく見える。
「ニャンダー・ピコタンハンマー!」
「ニャンダー・ストレンジデッキ!」
「ニャンダー・オーデーンスピア!」
「ニャンダー・エリアルシューズ!」
「ニャンダー・ソードフィッシュ!」
ネコレンジャーは、それぞれに武装を展開して地面に降り立つと臨戦態勢に入る。
すでに話し合いをする気などないようだ。
ネコレンジャーは、ハツカをターゲットに定める。
「おい、あいつらの持っている武器……見た目からも、ものすごく嫌なものを感じるぞ」
コウヤが、ただならぬ力を感じる、ふざけた武器を警戒する。
しかし、シロウ達は本気加減は分かるが、どうにも愛くるしい姿に見えて仕方がない。
「はれっ? すみません居眠りをしていたようで……【きゃぁーーーっ!】
そこに、うたた寝から目覚めたルネが、目の前の光景を認識して悲鳴を上げた。
「な、なんでここに『ケットシー』がいるんですかぁ!」
「ケットシー?」
「聞いた事がある。ここの国境で侵入を防いでいる、お子さまの国の住人と言うヤツか」
「ずいぶんと、かわいらしい種族がいるのですね」
「のん気な事を言わないで下さい。ケットシーは、無邪気で危険な種族です!」
「無邪気で危険?」
ルネは血相を変えて慌てているが、どうにも意味が分からない。
要は子供のような種族って事だろ? と言うのがシロウの認識であった。
そう、この瞬間までは……
『合体!』
【ピカーッ!】
眩い光がネコレンジャーを包む。
その光は五つの武装を取り込み激しい光へと昇華したのちに収束して消える。
そして、光の収束をもって五つの武装は、一つの巨大な兵器へと統合された。
「完成!『ネコレンジャーキャノン!』」
「か、かっけぇー!」
「キャハハ、キャハハ!」
「……明らかに物理法則を無視しています」
「おい、どこをどうしたら、そんな物が出来上がるんだ!」
「ヒヤァー!」
シロウと子ネコは、興奮冷めやらぬ状態で目を輝かせた。
しかし、ここでハツカは一定の冷静さを取り戻す。
目の前に出現した物は、特撮ヒーローが持っていてもおかしくないロマン砲。
ネコレンジャーに思わずツッコミを入れたコウヤも、ある意味で猛者であった。
そしてルネは、突然出現した巨大兵器を前にしてパニックになっていた。
「正義の力は無限大にゃ!」
「信じる心は力になるのにゃ!」
「ちょっと待てぇ!」
「そんな事を言えば、なんでもかんでも許されると思ったら大間違いです」
「だからケットシーは危険なんです。一匹見つけたら三十匹はいるんです!」
「キャハハ、キャハハ」
コウヤが、あまりにもの常識外れの力にキレ始め、ハツカも思わずツッコミを入れた。
そしてケットシーの恐ろしさを知るルネが、ゴキを見たような狼狽ぶりを見せる。
その頭上では、ハツカに簀巻きにされている子ネコが、楽しそうに笑っていた。
「問答無用!」
「ターゲット、ロックオン!」
「エネルギー充填、120パーセント!」
「おい、本気でヤバイぞ、ものすごく濃密な魔力が生成されている!」
「ハツカ!」
「シロウ、ルネを頼みます。アレは私が引き付けます」
「キャハハ、キャハハ」
ハツカはルネをシロウに預けると、菟糸を壁面に撃ち込み、屋根上へと舞い上がる。
それに対してネコレンジャーは、再びハツカを照準に捉えて攻撃態勢へと入った。
ハツカは、誘導によって射角が上がり、シロウ達が射線軸から外れた事を確認する。
あとは自分が建物の影に隠れて、やり過ごすのみ。
そう思って退避行動に移ったハツカに言い知れない悪寒が走る。
チラリと振り返った先でネコレンジャーが、照準をハツカの少し前方に修正していた。
それは動く標的に命中させる為には必須の『偏差射撃』と言われる技能。
要は、標的までの銃弾の到達時間を考慮して、少し前を狙って撃ち込む事をこう呼ぶ。
命中出来なくとも、進行方向に銃撃を先に置いておけば、足止めの効果も期待出来る。
これが見越し射撃とも言われる、この射法の利点でもある。
ただこの場合、問題なのは、その銃口が建物に狙いが定められていた事であった。
ゆえにハツカの中で、恐ろしい未来の状況が頭をよぎった。
「キャハハ、キャハハ」
そんな状況下でも、簀巻きの子ネコはアクロバティングな逃走劇を楽しんでいた。
「ウチらのこの手が真っ赤に染まる!」
「オマエを倒せと轟き叫ぶ!」
「くらえーっ!」
「愛と怒りと悲しみのぉ!」
「必殺・ネコレンジャーキャノン!」
「「「「「ミラクルシューティング!」」」」」
【ズドォォォーーーーーンッ!】
ネコレンジャーの雄叫びが、電光石火の一撃を呼ぶ。
ネコレンジャーは子ネコ救出すべく、ハツカ目掛けて、子ネコ諸とも砲撃した。
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