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004.縁故採用

「シロさん、お話があります」


 それは、いつものように早朝の採取活動を終えて教会に戻って来ていた午後の事。

 シロウは、教会の裏庭の隅に設置した格安テントによる自室でルネと向き合っていた。


「えーと、ここ狭いんだけど、改めて二人揃って何かな? 」


 ルネの後ろには、ハツカが控えて一緒に入って来る。

 そのハツカからは、シロウに冷たい視線を向けられ、室内の様子を(うかが)われていた。


 ハツカさん、俺は別にルネと二人っきりになりたいとか、そう言う考えは無いですよ。

 むしろルネには、この男の居城には入って来て欲しくないです。

 なんの為に、ここを作ったと思っているんですか。

 お願いですから、チョコチョコと探し回ったり、ニオイを嗅ぐのは止めて下さい。


 素朴なルネの背後で、現代知識を保有しているハツカが暗躍していた。

 シロウは、ハツカの行動に恐怖で身を震わせる。


「シロさん、落ち着かない様子ですが、大丈夫ですか?」


「だってハツカが、さっきから、いろいろと物色しているのが気になって……」


「こちらの事は、お気になさらずに」


「いま何かを手にしたよね。返して下さい。そして、大人しく座っていて下さい」


「大丈夫です。ちゃんと廃棄しておきますから」


 ハツカは、手にした木彫りの人形を見下ろしていた。


 それは、シロウが空いた時間で彫った木彫りの女神像。

 最初は、お世話になっている教会への感謝の気持ちから手習いで彫って納めた物。

 しかし、教会の片隅に奉納されたその一体は人の目に止まり、求める者が現れだした。

 ゆえに、密かに作り続けて小遣い稼ぎを目論んでいたのだがバレてしまった。


「やっぱりシロさんは、ハツカさんの事が……」


 ハツカが発見した女神像。その姿には、どこかハツカの面影がある。

 それを見てルネは、本題を忘れて話題が横道に()れていった。


「いや、物静かな雰囲気を参考にさせてもらっただけだから」


「ハッキリ言って、不愉快です」


 その後、シロウは必死に弁明と謝罪を繰り返す。

 しかし女神像は、ハツカの宝鎖によって、ことごとく発見されて破壊された。


「ヒドイ……かなり時間を掛けて彫ったのに」


「さて、思いがけない物の発見で話が逸れてしまいましたね」


 そしてルネは一区切りつけて、思い出したかのように当初の目的を話し始めた。


「以前に、食事の際に話題になった近隣の街での祭事の事は覚えていますか?」


「え~と、南部地域の国境の街での武術祭ってヤツの話か?」

 

「そうです。そこに今回、修道士のファロスさんが(おもむ)く事になっています」


「はぁ? なんで教会の修道士が武術祭なんかと関わって来るんだよ?」


「武術祭には良くも悪くも、いろいろな人や物、そしてトラブルが集まって来ますから」


「つまり教会が、どうこうって言うよりも、トラブル発生時の対応要員って感じか?」


「それに近いです」


 修道士のファロスが呼ばれている理由は二つあった。

 一つ目には、回復魔法が使える治癒師である事。

 二つ目には、教会の人間である事。


 武術祭ともなれば、その程度の差はあれ、負傷者が多く出る。


 武術祭自体は、ある意味で国策であった。

 ここでの催しとは、国境の防衛に当たっている駐在兵達の鬱憤(うっぷん)晴らしの場である。

 と同時に、優秀な人材の発掘も兼ねていた。

 その為、負傷者への対応として治療部門による充実した対応も準備されている。


 しかし、武術祭の人員を一つの街と駐在兵達で、全てを執り行う訳にはいかない。

 ここは国境の街なのだ。それでは肝心の国防が(おろそ)かになる。

 だから、周囲からの協力も同時に(つど)っていた。


 その協力者の一つが教会である。

 教会からは、治癒師や薬師と言った者達が多く派遣されていた。

 これは教会に身を置く者達にとっては一種の修行である。

 彼らにとっての武術祭とは、互いの癒しの業を学び合う場とされていた。


 そして発生したトラブルを仲介して治める事は、人を説く事に通じる。

 彼らはこうして人々との交流を通して、人に物を説く事を学ぶ。

 人々の方はと言えば、教会の治療師や薬師には、そうそう手が出せない。

 その結果、彼らが仲介に入る事は一定の治安が守られる事に繋がっていた。


「ファロスさんは治癒師ですが、一緒に薬草の事を教わった兄弟子にあたります」


「えっ、じゃあ、ルネのような変な薬も作るの?」


「変な薬なんて作りません、ちゃんとした薬です」


「あのいきなり火が着く危ない薬の事だよ?」


「危なくもありません。ちゃんとした調合薬です」


 ルネは魔物を追い払うのに、よく発火薬を使用していた。


 冒険者としてのルネは、護身用に長杖と盾を携帯しているが戦闘能力は、ほぼ皆無。

 魔法も生活魔法と呼ばれるものが使える程度。

 あくまで薬草を見分ける知識を頼りに活動をしている薬師であった。

 しかしその腕は、まだ一人前とは言えなかった。


 ルネは、採取依頼で稼いだお金で、少しずつ自分用の調合器具を揃えている。

 そして採取依頼での納品基準から弾かれた薬草類は持ち帰っていた。

 それらはルネの練習用として丁寧に処理され、自分達用にと調合されている。

 話題となった発火薬も、そんな調合薬の一つであった。


 ルネは、一定の気温を超えると発火しやすい分泌液を出す植物があるのだと言う。

 その植物の分泌液を調合して詰めた物が、その発火薬であった。


 ただ、ルネからの説明を聞いたシロウは、扱うものが火だけに不安に感じる。

 だから、ルネの腕と薬品の良く分からない部分を変と言って危険視していた。


「話しが逸れています」


「「あっ、はい」」


 ハツカが、説明が上手く出来ない者同士の会話をバッサリと断ち切る。

 そして調合薬については、ルネに任せるのが一番だと、さっさと結論付けた。


 ルネはハツカに言われて、ちょっとムキになった自分を反省する。

 そして、逸れまくっていた本題に話しを軌道修正した。


「要するに、ファロスさんの護衛任務を私達で受けようと思います」


「それって身内仕事になって、報酬が出ないんじゃないの?」


「いいえ、今回は国からの補助も出ています。ちゃんとした教会からの護衛依頼です」


「……で、それを縁故採用で受けるって事?」


「シロさんは人聞きが悪いです」


 ルネは、目的地が同じ商隊がいる場合、一定の料金を支払って同行するのだと言う。

 こうする事で、商隊は移動しながら商売を行う。

 旅の同行者は、商隊が提供する食事と護衛力による安全を買う。

 教会の修道士達は、道中での治療と言う形で安全に協力をするのだと説明した。


「つまり道中は、商隊からの食事や護衛が受けられるツアー旅行って感じか」


「ただし護衛とは言っても限度があります。あくまで自衛が基本です」


「まぁ、そうだよな。とんでもない数の暴力から守ってくれと言っても無理だろうしな」


「なので基本的には、ファロスさん専属の護衛依頼と思ってくれれば良いです」


「ふ~ん、別に問題はないんじゃないか? なんでそんなに改まって言ってるんだ?」


 シロウが聞き返すと、ルネは小声で申し訳なさそうに答えた。


「この時期に他の護衛依頼を受けた場合、もっと報酬が良いらしいので……」


「ああ、結局は報酬面で折り合いが付かなくて、いつまでも受注されなかった依頼か」


 シロウはルネが教会の懐事情を知った上で、仕事を受けようとしているのを理解した。


「でもですね、護衛依頼は冒険者ランクの昇格条件って話しですから……」


「ああ、そう言うのは、どうでも良いよ」


「どうでも良いって……」


 ルネは必死に護衛依頼を受ける意義を()こうとした。

 しかし、その論法はシロウには通じない。

 シロウは冒険者ランクの昇格には、面倒くさい義務が付いて来る事を知っていた。

 だから、強制依頼と言う(かせ)が付いて回るギルドのランクシステムには興味がなかった。


「それで、目的の国境の街では、そこの教会の部屋とかは借りられるの?」 


「ええ、それは大丈夫です。宿代わりに使って下さいと言っていましたから」


「それなら護衛依頼を受けて良いと思うんだけど、他に問題があるのか?」


 シロウは武術祭の為、宿屋が埋まっていて泊まれない状況が一番最悪だと考えていた。

 だから、その心配がないのなら、十分に受ける価値がある依頼だと考える。


「いえ、報酬の低さから依頼を受けてもらえないって話しを、よく聞いていたので……」


「でも、俺より先に話しをしたハツカには、断られなかったんだろ?」


「たぶんシロウと同じです。問題はありません」


「えっ、なんですか、その通じあっている感」


「単純な損得勘定の一致だよ。報酬が高くても滞在費が掛かりすぎたら利益が減るだろ」


「でも、大商隊の護衛依頼ともなると、滞在時の費用を持つ依頼主もいるそうですから」


「えっ!」


 ルネが、この時期の護衛依頼の実情を素直に話すと、シロウは固まった。


「ハツカ、もしかしたら、もう少し条件の良い依頼があるかもしれない」


「シロさーん!」


「そう言う所は、護衛経験がない者を雇わないと思います」


「うっ、分かっていたさ。ちょっと言ってみただけだよ」


「とにかくシロさん、この事は、もう決定ですからねっ!」


 ルネは、これ以上シロウが心変わりするのを抑える為にも、強い口調で決定を下した。


「分かったよ。それで出発は、いつになるの?」


「二日後に国境の街に向かう商隊があるので、そちらに同行する予定となっていました」


「だから慌てて話を持って来たのか、じゃあ、必要な物を買って来ないといけないな」


「そうですね。それではシロさん、今から買い物に行きましょう」


 そう言うとルネは、テントから出てファロスに護衛依頼を受ける事を伝えに行った。

 それに続いて狭っ苦しかったテントから出たシロウは、背伸びをしてハツカに訪ねる。


「それでハツカ、必要な物って、何があるかな?」


「まず前提として、馬車で二日の旅程になるので、野営を一泊する事になるそうです」


「そうなると、馬車で寝泊りが出来るとしても、毛布代わりのマントは必要になるよな」


「備えとして最低限の携帯食料と飲料水、食器類に衣類、雨具あたりでしょうか」


「それなら雨具はマントと兼用が出来る物を探すとして、タオル類が多目に欲しいかな」


「ポーションを始めとした薬品類は、ルネに任せれば良いです」


「まぁ、街道での旅程になるなら、こんなものか。あとはハツカの武器だよな」


「私には、別に武器は必要ありませんが?」


「ハツカの宝鎖は特殊すぎる。対外的に分かりやすい擬装用の武器を携帯した方が良い」


「分かりました」


「お待たせしました。それではギルドで護衛依頼を受けてから買い物にしましょう」


 ルネはハツカの腕を掴んで、横に並んで歩き出す。

 そして楽しそうに、何を買おうかと、ほぼ一方的に話し掛けていた。

 教会では、チビ達のお姉さんとして振舞っているルネ。

 そんなルネが、ハツカと一緒だと年相応の無邪気な反応を示す。

 シロウは妹のように思っている二人の後ろを歩きながら、その様子を微笑ましく見る。


 ああ、あれはハツカが迷惑がっているな、と。


 時折ハツカが、助けを求めるように後ろを向いてシロウの事を見て来る。

 それは、ルネがギルドに最初に訪れた時に、シロウに助けを求めて来た時と同じ視線。

 だからシロウは、手を振って応えた。


 (ルネが友達付き合いが出来るのは、ハツカくらいなんだから、仲良くしなよ)


 それを見て、感情表現の乏しいハツカの表情が、ピクリと反応した。


 (ルネが私に構うのは、シロウへの好意の裏返しだと気づいて下さい)


 ハツカは、どちらに対しても言う事が出来ない言葉を飲み込みながら状況に流される。

 その間にルネは、ハツカへと手を振っているシロウに気づいて思う。


 (また、シロさんと通じあっている感じのハツカさんはズルイです)


 だからルネは再びハツカの腕を引いて、一方的に、お話しを続けた。

 そんな様子をシロウは、女の子同士が仲良くしているのって良いなぁ、と見守った。

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