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029.お兄さん方

「よぉ、姐さん!」


 針のムシロとなっていたシロウの目の前で、ハツカに声を掛ける者が現れる。

 それは、順番待ちを守らなかった肥満児達を鎮圧してくれていたお兄さん方。

 お兄さん方は、気安そうにハツカに話し掛ける。

 その様子にシロウは、ギョッとした。

 ハツカは、こう言う馴れ馴れしいタイプを煙たがる。

 いままで協力的だったお兄さん方と、ハツカが衝突する未来が見えたシロウは焦った。


「姐さん所の子供達の邪魔をしそうな連中は、黙らせといたぜ」

「そうですか……やりすぎて、アナタ方が怖がらせるような事はしないで下さい」

「そうなるようなら、迷惑を掛けないように近寄らないようにしておくぜ」

「分かりました。ありがとうございます」


 お兄さん方は、ハツカと短い会話を交わすと、再び人混みの中に散っていった。

 そのなんとも言えない光景に、シロウは唖然とする。


「あの人達とは知り合いか?」

「昨晩、飲食店に居た、その他大勢です」


 シロウが恐る恐る訊ねると、ハツカは何事も無かったかのように答える。


「いやいや、それなら、なんで親しそうな上に、話が噛みあってたんだよ?」

「それはルネが、この出店の話をしていたからです」


 どうやらハツカが得た賭け金を、酒に変えて振舞った際に知り合った連中だった。

 その時ルネが、この出店の事を話したと言う。

 そこで彼らは、ハツカが出店で働いていたのを思い出したらしい。

 彼らは、オレ達に任せろ、と言って気を使ってくれたのだと言う。


 よく見ると彼らも近くで、それぞれに出店していた。

 そんな事もあって、彼らも昨日のトラブルについては良く知っていて協力的だった。


 何か不穏な動きを見せる者がいると、自分の店を放り出して駆け寄ろうとする。

 たった一回、酒を振舞われただけなのに、なんと言う忠犬っぷりだろう。

 見守られている対象が、女性と子供達なので、ありがたい事には違いない。


 シロウは、彼らをまとめていた男性がやっている出店に礼を言いに立ち寄る。

 そして、みんなで食べて下さい、と伝えて卵焼きのセットを差し入れておいた。

 その男性、オーリスからは、暑苦しいガタイと爽やかな笑顔で、応援してもらう。

 シロウは、周囲の店とは良い関係を持てているようだ、と一安心する。

 そして交代要員が来ているので、休憩させる子供達を連れて孤児院へと戻った。


 ◇◇◇◇◇


 孤児院に戻ったシロウは、先程まで出店で働いていた子供達を休ませる。

 そして留守をしていたルネと相談を始めた。


「シロさん、おつかれさまです」

「ルネもおつかれ、それで準備の方はどうなってる?」

「はい、最初は上手く作れなかった子も、だいぶん作れるようになりました」


 ルネは形が崩れた卵焼きを一つ出してシロウに見せた。

 それは、明日以降の販売を考えている新しい味付けを施した物。 

 シロウは、一口に含んで味見をする。

 口の中には、甘さと共に旨味が溢れ出して広がっていく。

 シロウは、形が崩れている点を除けば問題のない仕上がりとなっている事に満足した。


「ああ、良いね。でも、まだ上手く作れる子が少ない感じか?」

「そうですね、形が崩れやすくて難しいですから……」


 ルネが苦心しながら、子供達に教えていた様子が覗えた。


「まぁ、作り置きには余裕があるし、いまから俺も作るから、なんとかなるよ」

「そうですね、みんなで、がんばりましょう」


 ルネと話をしていると、一緒に戻って来た子供達も、それを食べたいと言ってきた。

 これは、この後で子供達にも作ってもらう物なので、良い機会だと思う事にする。

 休憩兼試食会と言う事にして、お茶を入れて、みんなで失敗作を処理していく。


 自分達で作っている物が、どう言う物かを知ってもらうのは悪くない。

 美味しいと思ってもらえたなら、それは意欲にもつながる。

 単純に子供達が前の物と比べて、どう受け取るかにも興味がある。


 結果から言うと、みんな美味しいと言ってくれた。

 甘いとか、柔らかいとか、好きとか、子供ゆえの直球な答えが返ってくる。

 前の砂糖だけを加えた物の方が受けが良いかも、と思っていたが杞憂(きゆう)だったようだ。

 手を加えて味に深みが出た物は、ちゃんと受け入れられていた。


 ただその分、調理難易度が上がると言う問題点も抱えている。

 シロウは休憩を終えるとルネに子供達への指導を任せて、黙々と卵焼きを焼き始めた。


 ◇◇◇◇◇


 孤児院に篭って、せっせと卵焼きを焼いていると入り口の扉が開く音が聞こえて来た。

 気づけば本日の予定分を販売したエレナ達が戻って来る時間となっている。

 その頃には、新しい卵焼きを上手く作れる子供が何人かいた。


 夕方までには時間があるので、再び子供達を街中に放流して祭りを楽しんで来させる。

 そうして作った手が空く時間を使って、エレナ達と打ち合わせを始めた。


「すごいです。たった二日間で、いままでの何倍もの収入になっています」


 エレナが、改めて本日の売り上げ結果を知って目を丸くしていた。

 前日も、かなりの利益は得ていた。

 しかし商業ギルドから機材を借りる事を念頭に置いていた為、その分の経費があった。

 その資金稼ぎと言うのがあった為、昨日はまだ不安を抱えていたのだろう。

 いまになって心底安心して喜びに身を置いたようだ。


「どう見ても何十倍って規模だと思います」


 それはルネも同じで、なんでうちの孤児院で同じ事をしなかったのか、と聞かれた。


「大前提として、卵が安価で大量流通している場所だったから出来た商売だからな」

「武術祭が、人の目に止まりやすく、購買意欲を高くしている影響があるおかげです」

「普通に売り出していたら、最初に買ってくれる人を見つけるのが難しかったかもな」

「そう言うものなのですね」


 相変わらずルネは、簡単に人の言葉を信じてしまう。

 目新しさだけでも十分に商売は出来たと思う。

 だがその場合、ここ孤児院のような労働力がない。

 短期決戦での勝負が出来る武術祭と言う舞台でなら利益は出せる。

 しかし普通の商売となると、タネがバレてしまった後では、ジリ貧になってしまう。

 なぜなら、家庭でも簡単に作れてしまって、買い手が減少してしまうからだ。


 だからこそ、シロウとハツカは、その対策を講じていた。

 それが、ルネに子供達を指導してもらっているものである。

 そして、武術祭が終わるまでの間、このペースを維持する為の戦力強化でもあった。


「明日の準備は出来ているし、材料の補充をしたら、今日は上がらせてもらうよ」

「シロさん、いまから商業ギルドに行くのなら私も行ってみたいです」

「では私も行きます。そのまま夕食を取って来ましょう」

「分かりました。こちらの後片付けは私の方でやっておきます」


 シロウがマジックバックを担ぐと、ルネとハツカも同行する事となった。

 エレナが一人だけ残って後片付けをすると言うのはどうなんだろう、とも思う。

 しかしエレナは、これくらいは平気です、と逆にこちらを気遣ってくる始末。

 それはシロウ達の協力を得られた事で幸運に恵まれた、と言う気持ちの表れだった。


「武術祭は、まだ続くんだ、あまり無理はするなよ」

「はい、大丈夫です」


 シロウは、エレナの厚意を受け取りながらも一声掛けて出かける。

 その後を、ルネは、いつものようにハツカに話しかけながら付いて行った。

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