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284.房髪熊

「一体、何に追われて……」


 ルネは、三人が大森林から出て来た場所に視線を向ける。

 そして、大森林から飛び出して来た魔物の姿を確認して絶句した。


「ド、房髪熊(ドレッドベア)? なんでこんな所に!」


 それは大森林の内部で目撃される、頭部に房状の髪を持つ凶暴な巨熊(おおぐま)の魔物。

 その房髪熊(ドレッドベア)が自分の縄張りを大きく越えて狩猟都市まで足を延ばして来ていた。


「あの三人は、そんな奥から房髪熊(ドレッドベア)を引き連れて……」


 逃げて来た? と考えた所で、ルネは衛兵が話していた魔物の話を思い出す。

 そして、あの魔物の話が、ルネが遭遇した街道の事だけではなかったのだと気づいた。

 ルネの脳裏に、門の中に入る為に長蛇の列を作っていた人々の姿が浮かぶ。


「このまま門の所まで行かれると、多くの人が巻き添えに……」


 房髪熊(ドレッドベア)ほどの魔物となると、門に居る衛兵だけでは対処が出来ない。

 そこで暴れられると通行人や商隊への被害が拡大する。

 三人を追う房髪熊(ドレッドベア)は、まだルネに気づいていない。


「倒す事は出来なくても、足止めだけなら……」


 三人や門の近くにいる人々を逃がす事。

 衛兵や商隊の護衛が戦う態勢を整える時間を稼ぐ事をルネは考える。

 そしてマジックバックから長杖を取り出すと、房髪熊(ドレッドベア)の足止めに掛かった。


「えーいっ!」


 ルネは、房髪熊(ドレッドベア)との距離を、長杖とヒモを使ったスタッフスリングの射程で埋める。

 調薬瓶を装填したスタッフスリングを頭上に構え、房髪熊(ドレッドベア)に向けて一気に振り下ろす。

 その勢いで射出された調薬瓶が飛翔(ひしょう)し、房髪熊(ドレッドベア)の進行上に着弾する。

 着弾の衝撃で破壊された調薬瓶は内容物を散布し、房髪熊(ドレッドベア)を待ち構える。

 脚を止める事が叶わなかった房髪熊(ドレッドベア)は、その粉塵に突っ込む。

 そして、そこで激しい刺激に襲われ、目や鼻に異常をきたし、のた打ち回り始めた。


 それは、ルネ達が国境の街へと向かった馬車の中で話題に出ていた調薬。

 猪頸鬼(オーグス)との持久戦では、自分への被害を警戒して使用を控えた催涙薬だった。


「こ、これは……」

「一体、何が起きたの?」

「あなた達、いまのうちに門にいる衛兵に連絡を入れてください!」

「お、おう、分かった」


 まともに目が明けていられなくなり、その場で悶え苦しみ出す房髪熊(ドレッドベア)

 ルネは、戸惑っていた三人に衛兵への連絡を(うなが)して追加の催涙薬を散布する。

 念入りに房髪熊(ドレッドベア)の目と鼻を潰してまともに攻撃が出来ないようにする。

 そして次にボーラを足に放って、その機動性を封じていく。


「(私に出来るのは、ここまでですね)」


 ルネは三人を無事に逃がした事で十分に役割を果たした、と考える。

 そして、いくつか周囲の草むらに石を投げ入れ、聴覚で位置が特定されるのを妨ぐ。

 火炎瓶を投擲する事も考えたが、本格的に狙われると一人では対処が出来ない。

 自分に出来るのは、房髪熊(ドレッドベア)を足止めして援護を待つ事。

 そう割り切って、この場での戦い切り上げて様子見に回る。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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