274.邂逅
「私にとってルネ達の安全が何よりも優先されます」
「……そうですね。自分も同じ立場なら、そうするでしょう」
戦えない仲間を二人抱えた状況。
その仲間を危険が伴う場所に連れて行く事など出来ない。
サントスは、自分も同じ立場ならハツカと同じ決断をしただろう、と考える。
ゆえに、包帯男を見捨てる形になるも、ハツカを責める気など無かった。
ハツカは、再び古馬車の進路上へと意識を向き直す。
と、その時、古馬車の周囲を探知していた菟糸に、ある反応が返って来た。
「えっ?」
「どうかしたんですか?」
ハツカが零した驚き声にサントスも反応する。
そして、その目に、驚きの余り棒立ちとなったハツカの姿を捉えた。
【ドガッ!】
その直後、古馬車の近くで大きな音と共に巨体が飛ぶ。
それは、古馬車へと迫った猪頸鬼が、地面へと叩きつけられた際に生じた音。
そして、その実行者は、夜の闇に紛れて次の獲物を狙う。
「こ、これは……」
ハツカは、なぜ、この反応を見逃していたのだろう、と身を震わせる。
だが、これは冷静になって考えれば、導き出せた答えだった。
ハツカとサントスは、古馬車の進路上に接近する敵の排除に努めていた。
だからこそ、その探知範囲外となった後方への警戒が疎かとなった。
包帯男の行動を見逃した。
同様に次点で包帯男の捜索の為に後方の探知を優先した事で、それ以外が疎かになる。
ゆえに、古馬車の左右への警戒が常に手薄になっていた。
だからこそ見逃した。
これほどまでに近くに居ながら、気づけなかった。
いや、これは菟糸の臭気探知を熟知していたからこそ巧妙に掻い潜られたのだ。
思い返してみれば、自分に前方から迫る敵の探知を任せようとしたのは彼だった。
それが自分の能力だったから──
敵を捕捉する役割が自分に振られた事に疑問を持たなかった。
自分がするべき役割だと自然と考え、受け入れた。
しかし、コウヤの探知とは違って菟糸の探知能力を彼の前で使って見せた記憶が無い。
それなのに彼は、なぜかそれが出来ると知っていたかのような作戦を立てられたのか。
あの時に感じた、何か引っ掛かったような感覚。
その正体が、この事だったのだと今更ながら気づく。
菟糸を通じて、混じり合ったニオイがハツカに告げる。
それは、キツイ薬草と獣のニオイが混じり合ったもの。
「な、なんですかこれは!」
サントスも、ようやく、この異変に気づき、闇夜の中で暗躍する獣の姿を捉える。
「人狼? いえ、これは……」
「黒爪狼!」
ここに至り、ハツカは包帯男の正体に辿り着いた。




