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027.スリーシェルゲーム

「これはスリーシェルゲーム。クルミの殻の中に隠した豆がある位置を当てるゲームだ」


 シロウは、コウヤに代わってバダック達にゲームのルールを説明する。

 テーブル上にあるのは、三つのクルミの殻と一粒の豆。

 それらの道具を使って、シロウが一度、実演をして見せる。


 横に三つ並べられた殻を、以降左から順に①②③とする。

 シロウは、三つに並べられたクルミの殻の真ん中の②に豆を入れてスタートする。


  ①  ②  ③  

 ┌─┐┌─┐┌─┐

 │ ││ ││ │

     ● 

 ─────────


     ー

     ▼


  ①        

 ┌─┐ ②     

 │ │┌─┐             

  ↑ │ │ ③ ・①を前に出す。

     ↑ ┌─┐・②を前に出す。

       │ │ 

 ───────── 


     ー

     ▼

 

     ② 

    ┌─┐  

  ↓ │ │─┐          

  ①     ↓ ・①を手元に引く。

 ┌─┐    ③ ・③を中央にの位置に移動させる。

 │ │   ┌─┐・②を右端に移動させる。

     ← │ │ 

 ─────────


     ー

     ▼  

           

  ①  ③  ② ・横一列になった①③②のどこに豆があるか選択する。

 ┌─┐┌─┐┌─┐・②のクルミの殻を持ち上げると中から豆が姿を現わす。

 │ ││ ││ │

        ●

 ─────────


「これが、このゲームの基本的な動きだ。簡単だろ?」


「テメェ、オレ達をバカにしてんのか?」


 シロウが実演をして見せると、ハツカとイサオ以外が同じ感想を持ったようだ。

 それを直球で言ってくれるトムの存在は、こちらとしては実にありがたい。


「そうは言うけど本当にこれだけだし、バダックは外しまくったんだろ?」

「まぁ、確かにそうだ。だから魔法を使ってたんだろって言ってんだよ!」


 バダックは、未だに手品(マジック)魔法(マジック)だと思い込んでいる。


「店内で魔法に精通している方は、魔法が使われたと感じたなら教えて下さい」


 シロウは店内の客を巻き込んで、祭りを彩るイベントにしてしまう。


 あと、これで賭けをするのなら自己責任で勝手にやってくれ、と前置きをした。


 シロウは、コウヤが見せる手品とは、あくまで『意外性』と言う現象を見せるもの。

 それは見ている者を楽しませるものであって、騙すものではない、と宣言する。

 その上で、この一時を面白かったと思えたなら、この芸に見料を支払って欲しい。

 そう伝えたシロウは、そこから先はコウヤに託した。


 その結果──


「クソッ、全然当たらなくなったじゃねぇかっ!」

「これ、絶対おかしいわよ!」

「そうだろ、ぜってぇ魔法を使って誤魔化しているに違いねぇだろ?」

「それは有り得ないと思うよ。まわりの誰も、魔法の発動を感知していないからね」


 イサオに突っ込みを入れられたトムとヤンとバダックが、仲良く荒れる。


「おいテメェ、オレの負け分が戻って来るんじゃなかったのかよ!」

「そう思うなら、みんなで同じ所に賭けるなよ。賭け自体が成立していないだろ?」

「そうは言うが、どう見てもあそこしか有り得なかっただろ!」

「って言うかさぁ、最初から、みんなで当てるか、外すかしかしてないじゃないか……」


 誰も勝てない状況が作り出されていた。

 それは見ている者達が、勝手に賭け事にしてしまったがゆえの盲目。


 彼らは、目に映っているクルミの殻の動きにしか注目をしていない。

 その為、目で追った殻と違う所から当たりが出ても、それは自分のミスだと思う。

 シロウは、そうじゃないんだよなぁと思いながら、踊らされている人間を見て楽しむ。


 参加者達は、不思議と全員が外している事をおかしいとは思っていない。

 むしろ、誰かが一人勝ちしなかった事にホッとしている。


 ゆえに彼らは、外れが重なっていくも、次第に他の場所に賭けられなくなっていった。

 自分一人だけが、負けを被る事を避けようとしていく。

 その積み重ねによって、この状況が生み出されていた。


「最初に、これは『意外性』を楽しむものだって言っただろ?」


 シロウは、このあまりにも停滞した状況に、変化を求めて助言を挟む。

 殺伐とするなよ、この不思議さを楽しめよ、と。


「そうですねシロさん、意外な所から当たりが出てきますよね」

「ルネが一番、正しい楽しみ方をしています」


 ハツカの言う通り、ルネの素直さが眩しい。

 他人が踊らされている様子を見て、内心で楽しんでいた自分が今更ながら恥ずかしい。


「そうだね、トムもヤンも、あまり賭け事に熱くならない方が楽しめるよ」

「ちくしょう、ならせめて最後にもう一回当ててやる!」

「では、これをラストゲームにしよう」


 かくして、トムの意地が込められたラストゲームが、コウヤによって宣言された。


 コウヤは、最初にシロウが見せた実演をなぞった手順を行う。


  ①  ②  ③  ・コウヤは、中央の②に豆を入れる。

 ┌─┐┌─┐┌─┐

 │ ││ ││ │

     ● 

 ─────────


     ー

     ▼


  ①        

 ┌─┐ ②     

 │ │┌─┐             

  ↑ │ │ ③  ・①を前に出す。

     ↑ ┌─┐ ・②を前に出す。

       │ │ 

 ───────── 


     ー

     ▼

 

     ② 

    ┌─┐  

  ↓ │ │─┐          

  ①     ↓ ・①を手元に引く。

 ┌─┐    ③ ・③を中央にの位置に移動させる。

 │ │   ┌─┐・②を右端に移動させる。

     ← │ │ 

 ─────────


     ー

     ▼  

           

  ①  ③  ② ・①③②のどこに豆があるか選択してもらう。

 ┌─┐┌─┐┌─┐

 │ ││ ││ │

 ─────────


「これは最初に見たやつだ、②に決まってんだろ」

「さすがに、ここまで移動回数が少ないものなら見間違いなんてしないわよ」


 トムとヤンは②を選ぶ。他の参加者達も全員が②を選んだ。


「そうだな、さすがにこれは見間違いのしようが無い」


 バダックも②に賭けようとする。

 そこでシロウは、最後に一声掛けた。


「最後くらい、大穴狙って他に賭けなよ」


 それは、ある意味、挑発であった。


「全員が同じ所に賭けたんじゃ、結局は払い戻しにしかならいだろ?」

「バカ言え! あんなあからさまに最後は当てさせてやる、って言うものを外せるか!」


 結局バダックは、②を選択した。

 シロウは、ヤレヤレと思って、最終結果を待つ事にする。


「では最後ですし、私が①に賭けましょう」

「じゃあ、ボクも①に相乗りしようかな」


 そこに、いままで賭けに参加しなかったハツカとイサオが参入した。

 二人が①に賭けた事に周囲は驚くも、少なからず賭けが成立した事を喜ぶ。

 その結果──


  ①  ③  ② 

 ┌─┐┌─┐┌─┐

 │ ││ ││ │

  ● 

 ─────────


 オープンされた①のクルミの殻から当たりが現れた事で、店内に阿鼻叫喚が渦巻いた。


「だからなんで、そんな所に当たりがあるんだよ! 魔法だろ、ぜってぇ魔法だろ!」

「いや、魔法の兆候は無かった、それは絶対だ!」


 ラストゲームを見守っていたギャラリーから魔法による関与が否定される。

 最終勝者となったハツカとイサオは、集まっていた賭け金を二人で山分けする。


「ハツカさんスゴイですぅ!」

「あっぶねぇ! イサオ良くやった、危うく持っていかれる所だったぜ」

「いやぁ、運が良かった。ハツカさんの賭けに乗ってみて正解だったよ」


 イサオの勝利に大喜びするトムとは対照的に、バダックは呆然としていた。

 そんなバダックにシロウは声を掛ける。


「バダック、だから最後くらい賭けに出たらどうだって言ったのにな」

「分かってたんならハッキリ言いやがれ!」

「いや俺は、このゲームの主催者的な立ち位置になってたからな。あれ以上は無理だ」

「なんてこったぁー!」

「オマエ、賭け事に向かないから、もう手を出すなよ」


 シロウは、最初にバダックに言ったように損失を取り戻すチャンスは与えた。

 それを手に掴めなかったのは、彼自身の選択によるもの。

 ゆえに、これ以上の肩入れするつもりは無かった。

 シロウは、コウヤの手品を十分に堪能すると、見料を支払って声をかけた。


「おつかれさん、いやぁ、最後のは、なかなかに悪趣味だったな」

「何を言ってるんだ、最初にそれを示唆(しさ)する実演をして見せたのはオマエだろ」


 コウヤは、シロウが最初に見せた実演後の言葉を復唱する。


「おまえは、ゲームの基本的な『動き』と言ったが、普通は『流れ』が正解だ」


 そう、あの場面では『ゲームの基本的な流れ』と言った方が適切である。

 しかしシロウは、そうは言わなかった。


「あれは、スリーシェルゲームにおける、ゲームの基本的な『トリックの動き』だ」

「ああ、そうだな、よく友人に見せられていたよ」


 コウヤが指摘すると、シロウは悪びれた様子もなく、そうだな、と認めた。

 あの動きとは、クルミの殻を真っすぐに前後にスライドさせる動きにこそ意味がある。


 クルミの殻を前に動かす時、その手前には当然、自身の手がある。

 そこは、クルミの殻を浮かせてスライドさせた際に、小さな豆が滑り込める脱出経路。

 こうして手の中へとお宝は隠されて、別の殻の下へと移送される為に待機される。

 そして次に、殻を手前に引き寄せる動きで、手から殻へとお宝は隠蔽されるのだ。


 これがスリーシェルゲームにおける基本的なトリックの仕組みである。


「だから、ラストゲームで賭け金を全て巻き上げるつもりなのかと思ったんだがな」


 コウヤは、そう思いながらも傍観者に徹して様子を見ていた。


「そんなつもりは無いよ。ついでに言うと勝った二人にもネタ晴らしはしていないぞ」


 それはシロウも同様で、コウヤを始めとした面々の様子を傍観する。

 これは、互いに相手を見定める試金石であった。

 ゆえに、互いに目先の損得を考慮しない。

 自身の利益を優先するのであれば、それが本質なのだろうと判断するだけの事だった。


「なら、あの二人は偶然当てたと言うのか?」

「いや、少なくともハツカは場所を特定していただろう。そう言うのが得意だからな」

「……そうか」

「イサオは『勝てないゲーム』って所までは知ってたかもな。その上での便乗だろうな」


 シロウは、テレビでもネットでもネタがバラされているものだしな、と付け加える。

 そしてコウヤに、首から下げている紅いプレートを見せた。

 それを見てコウヤも、同じく紅いプレートを提示する。

 互いに薄々、相手が同じ紅玉を持つ転移者だろうとは気づいていた。

 その上で、互いに諸々の確認と通過儀礼を済ませた事で、シロウは本題を切り出した。


「とりあえず顔見せは済んだ。俺とハツカ、イサオとの間での揉め事は無しにしような」

「良いだろう、おれも(わずら)わしいペナルティは受けたくない」


 こうしてシロウは、コウヤと親交を結ぶ。

 その裏では、ハツカが巻き上げた賭け金を全て酒代に換えて店内にバラ撒いていた。


「ギャンブルで得た金は下手に持っていると逆恨みを買います。みんなで飲んで下さい」

「姐さん、最高じゃー!」


 なかなかに男気が溢れる金の使い方に、周囲は大盛り上がりを見せていた。


 それ、元々はオマエ達の金だからな?

 シロウは、ご機嫌に酒を飲んでいる連中を見て、思わずツッコミを入れたくなる。


 最終的にイサオの勝ち分も上乗せされた酒宴となり、店内は活気づいていた。

 実質、儲けを得たのは、飲食代で稼いだ店主と見料を得たコウヤのみ。

 しかしその夜は、店内に居た誰もが満足して帰路についていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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