269.回収
【ブガーッ!】
一際大きな雄叫び上がる。
それを機に猪頸鬼達が、一斉にサントスが駆る古馬車に襲い掛かった。
「く、くそっ、待て!」
主任猪頸鬼を支えるバンテージの目の前を、猪頸鬼達が素通りする。
彼らにとってバンテージの事は、すでに眼中になくなっている。
猪頸鬼達にあるのは、彼らの逆鱗に触れた冒涜者への制裁。
彼らは、先の雄叫びによって同胞を呼び寄せ、古馬車の退路を絞りに掛かる。
「ちょっと、何をしたんですか? こっちに猪頸鬼達が集まって来ています!」
「文句があるなら、大物を仕留めるのを邪魔した、あの包帯男にして下さい」
「そんな事よりも、いまはこっちだ。ルネの姿を確認した。ハツカ、回収を頼む」
「了解です、行きます」
サントスが、明らかに自分達へ敵意を向けた猪頸鬼の動向を荷台の二人に問いただす。
それに対してハツカは、元凶が包帯男である事を告げ、コウヤはルネを目視する。
コウヤはハツカにルネの事を任せると、集まって来た猪頸鬼達を炎弾で迎え撃つ。
その二人の掛け合いに合わせて、サントスも古馬車を旋回させて猪頸鬼の接近を阻む。
ハツカは二人の援護を受けて馬車の残骸の下に降り、菟糸の探知能力を使ってルネを回収。
そして、サントスの最接近を探知して古馬車に菟糸を撃ち込み、荷台へと舞い戻る。
「ハツカ、ルネは無事か?」
「負傷していますが、大丈夫かと」
「では、包帯男を回収して撤退します」
サントスも御者台から、弓銃で牽制しながら古馬車を旋回させる。
古馬車は、押し寄せる猪頸鬼達の間を抜け、包帯男へと寄せる。
そのわずかに交差した好機に合わせて、包帯男が荷台に飛び込む。
「良し、こっちの回収も終えた。サントス、出せ!」
「了解、振り落とされないでください!」
「ルネを助けてくれた事には感謝しますが、アレは、どういうつもりですか!」
「それはこっちのセリフだ。窮地に、わざわざ敵を増やすようなマネは止めてくれ……」
そして合流と同時に、それぞれの思惑が交差した。




