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026.手品師

「やぁ、キミ達も、これから夕食かい?」

「よくよく顔を合わせますね、もしかしてウチらの事をつけているのですか?」

「まぁ、今晩の所は、本戦に出場が決まったオレ達の事を祝う事で見逃してやるぜ」


 相変わらず、マイペースで我侭な連中だった

 シロウは周囲の様子を覗うも、空いているテーブルはトムヤンクンの隣しかない。


「わぁ、みなさん、おめでとうございます」

「立派な装備に助けられたのでしょう」

「おめでとう、いやぁ悪いな、奢ってもらって」


 ルネは素直にトムヤンクンを祝福し、ハツカは冷静に分析して隣のテーブルに座る。

 それに続いてシロウも席に座ると、祝福と引き換えにメシを(たか)った。


「うん、ありがとう」

「ちょっと待て、なんでオレらが奢る事になってるんだ!」

「アナタ達、あんなボッタクリ商売をしておいて、ずいぶんとセコイ了見ね」


 イサオはルネに返事を返すが、トムは祝福を強要したクセに、そちらには反応しない。

 ヤンに至っては、卵焼きの販売をボッタクリとさえ言ってきた。

 卵焼きのセットは、材料費だけを見れば、かなり高額な値段に設定してある。

 あれは、実演販売をする際に必要となる機材や燃料費などの経費を見越しての設定だ。

 更に加えるなら技術料も含まれている。

 ゆえに現状だと、ボッタクリと言われても仕方がない側面はあった。

 ただ誤解があったので、その点だけは訂正しておく。


「あれは孤児院がやってる出店だから、俺達には全く金は入ってないぞ」

「そうです、あれは子供達が働いて稼いだ物です」

「依頼の報酬も現物支給なので、お金は全くもらっていませんよ」


「何それ、自分達でやった方が儲かったんじゃないの?」

「武術祭のような大きな祭りだと、簡単には出店の許可が出ないんじゃないかな」

「それでショボい依頼をこなしているって事か、ご苦労な事だな」


「そう思うなら、リーダーのルネに言ってくれ」


 ヤンが率直な感想を言ってきたが、イサオが言う事が正しい。

 飛び込みで商売が出来る場所なんて残ってはいないし、下手をすれば捕まってしまう。

 そしてトムがショボい依頼だと言ったが、それも違う。

 報酬が孤児院からの現物支給品だと聞けば、普通はそう思うだろう。

 しかし今回の報酬は、本来なら高額かつ入手難易度が高いマジックバック三人分だ。

 ショボい所か、非常に美味しい依頼となっている。

 ただ、シロウは、この点の誤解を訂正するつもりはない。

 トムの指摘への返答は、依頼を受けようと言い出したルネに丸投げするのみである。


「えっ? リーダーってシロさんですよね?」


 いきなり話を振られたルネは困惑する。

 それはそうだろう。いつの間にかパーティのリーダーに祭り上げられていたのだから。

 しかし、シロウもハツカも、リーダーはルネだと思っているので、そう主張した。


「何を言っているんだ? いつも依頼を決めてるのはルネじゃないか」

「でも今回の依頼を受けたのって、シロさんでしたよね?」

「ルネが依頼を決めたのをシロウが一旦断って、その後でルネの希望が通った感じです」

「俺がしたのって、報酬の交渉をした事だよ」

「毎回依頼を探して来て、決定をしているのはルネです」

「言われてみればそうだったような……」


 ルネは、シロウとハツカに言い包められて、流されるままにリーダーにされる。


「そう言う訳でトム、あまりうちのリーダーをいじめるなよ」

「ちょ、ちょっと待て、オレは別にソイツを責めてた訳じゃあ……」

「か弱い女性を責め立てるとか、最低ですね」

「えっ、もしかして私って、責められてたんですか?」

「トム、見損ないました、ウチは、もっと男気のある人だと思っていました」

「まぁまぁ、その話は、もういいじゃないか、みんなで楽しくやろうよ」

「ちょっと待て! なんでオマエ達まで、そんな目でオレを見てるんだよ!」


 トムは味方であるヤンからも白い目で見られてブチ切れる。

 そうなるとイサオのフォローも虚しく、女性陣三人を敵に回した形となる。

 こうなると、もうトムに勝ち目は無い。


「おいトム、こう言う時は気前良く一杯奢って、謝っとくのが最善だぞ」

「なんでオレが、そんな事をしなくちゃいけないんだ!」

「トムは素直じゃないだけなんだ、気を悪くしただろうけどゴメンね」


 シロウが女性側に加勢した事で、トムが一気に悪者にされていく。

 その後、イサオがフォローを入れて、トムに代わって一杯奢って場を落ち着かせる。

 ついでにシロウは、ドサクサに紛れて注文を入れて、ちゃっかりと奢ってもらう。

 そして運ばれて来た料理を食べながら、トム達の試合話を延々と聞かされる事となる。

 シロウは、これは奢ってもらった料金だ、と思って、これを適当に聞き流す。

 こうして平和裏に、ゆっくりと時間が流れていった。


「テメェ、コイツらとグルで何か魔法を使ってたんだろっ!」


 しかしそれも、店内に響いた怒声によって終りを迎える。


 声の出所は、店内の一角にあるテーブルの一つ。

 そこには、確かに魔法使いのように見えるローブ姿の人物がいた。

 いや、それは、よくよく見ると見覚えのある青年。

 今日、出店にパンを買いに来た炎を操っていた青年の姿であった。


「なんだオマエは? おれは一人でメシを食ってただけなんだが?」


「ウソつくんじゃねぇ、テメェは、ずっとソイツをいじってたじゃねぇか!」


 青年に絡んで来た男は、テーブルに散らばっているクルミの殻を指差していた。

 その不可解な様子に興味を示したシロウは、同様に興味を示した者達と様子を見守る。


「これか? これは暇つぶしに転がしていただけだぞ」

「それで毎回、変な場所から豆を出してただろ! こっちはそれで大損こいてんだよ!」

「なんだ? 横から覗き見をして、仲間内で賭けでもしていたのか? アホらしい」


 青年は、男の勝手な言い分に呆れ果ててテーブルから立ち上がる。


「逃がしやしねぇぞ、テメェらがグルなのは分かってんだ」

「おっと失礼、ちょっと見させてもらって良いかな?」


 男が青年の胸ぐらを掴もうとした所をシロウが止めに入る。

 そして青年とテーブルの上を見て、面白い物を見つけたと顔を(ほころ)ばせた。


「ああ、やっぱり今朝のお客さんじゃないですか、こんばんわ」

「オマエは……卵焼き屋か」


 青年もシロウの事を覚えていたらしく、少々不本意な名前で覚えられていた。

 

「これってモンテ系にもある『シェルゲーム』だよな、よく友人にからかわれたよ」


カード(トランプ)のスリーカードモンテの事か、あれもシンプルで分かりやすい良い手品(マジック)だ」


「もしかして、オマエって手品(マジック)が出来る人?」

「おれの数少ない趣味の一つだ」

「おおっ、すごい! おーい、面白いヤツが見つかった、ちょっと見せてもらおうぜ!」

「待てや、コラッ!」


 シロウが青年をテーブルに誘って連れて行こうとすると、男が怒り狂って来た。


「テメェもコイツの仲間か!」

「いや、今朝が初対面だ、ただ面白い事が出来るらしいから俺が客になるって話だよ」

「何が客だ、場違いだ、引っ込んでろ! 」

「オマエこそ手品師(マジシャン)相手に、見料が払えないなら出しゃばって来るなよ」

「いま魔術師(マジシャン)って言ったよな? やっぱり魔法を使ってオレをハメたんじゃねぇか!」

「おれを酒の肴にして、勝手に賭けをしていたクセに、なんて言いぐさだ……」

「よし、それじゃあ、ここは俺に任せろ」


 シロウは青年に、ニヤリと笑い掛けると男に訊ねた。


「所でオマエの名前は? ちなみに俺はシロウだ」

「オレは、バダックってもんだが、オマエはさっきから、なんなんだ?」

「じゃあバダック、オマエをハメたって言う連中を連れて来なよ」

「はぁ? またオレをハメようって魂胆か?」

「もしかしたら損失を取り戻せるかもしれないぞ?」

「よし、ちょっと待ってろ、いま引きずって来てやる!」


 シロウは、バダックを一旦引き離すと、青年にも同じ質問をする。


「それで、あとはオマエの名前を聞いてない訳だけど?」

「……『手塚巧哉(てづかこうや)』だ。これで満足か?」

「オーケー、それじゃあコウヤ、まじめにゲームをしようじゃないか」


 そう言うとシロウは、コウヤがいた店の角のテーブルにトム達も呼び寄せる。

 そしてバダックが隣のテーブルから連れと戻って来た所で、シロウが口を開いた。

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