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025.屋台の料理

 孤児院に戻ったシロウ達は、子供達に少々のお小遣いを渡して街中に放流する。

 予定外ではあったが、当初考えていた販売数は消化していたので、まぁ、ご褒美だ。

 せっかくの武術祭なので、楽しんで来させる。

 武術祭は6日間もある長丁場だ。嫌な思い出は、さっさと上書きして来てもらおう。

 そして子供達を送り出した後に残った四人で、明日の予定について話し合いを始めた。


「それで明日からですけど、どうします?」


 エレナが、今日のトラブルを思い出して心配そうに訊ねた。


「野外用の調理器具を借りられる資金は稼げたんだ。予定通り実演販売に切り替えよう」


 シロウは、今日の売り上げで道具を借りて、明日以降は実演販売をしようと提案する。


「シロウ、それでは何かあった時に子供達が矢面に立たされます」


 しかしハツカは、今日の事を思い出して、子供達の事を心配して消極的だった。


「いや、実際に作るのに掛かる時間が分からないから、客が勝手な事を言い出すんだよ」

「シロさんの言う事も一理ありますね」

「確かに、子供達が作っているのを見たら、そんな事を言える人が出るとは思えません」


 シロウの説明に、ルネとエレナは納得を示した。

 そこで、ハツカを納得させる為に更に説明を続ける。


「それにこれは、客引きと同時に飽きさせない為の一種のパフォーマンスになる」


 売り出した卵焼きは、予想を上回る売れ行きで消費されていった。

 それは人々に十分な興味を持たせ、その調理方法にも興味を持ったはずだ。

 だから、調理をしている子供達の邪魔をするような者は出ないだろう。

 仮にいたとしても、こちらが遠慮を(うなが)せば、周囲の者達も同調してくれる算段が高い。


「つまりこれは、周囲を巻き込んで子供達の安全を確保する為の布石だよ」


 シロウはハツカに思わくを説明すると、その点に関しては理解を示してくれた。


「しかし、それは同時に卵焼きの製造方法を教える事になります」


 卵焼きは、現在シロウ達の独占販売の状態である。

 しかし、その材料や製造方法は意外と単純だ。

 ベテランの調理技能を持った者達ならアッサリとコピーしてしまうだろう。

 そうなると、翌日からでもコピー商品が出回る事になる。

 ハツカが指摘した問題点とは、エレナ達の利益が損なわれる事への懸念であった。


「その事なんだけどハツカ、確かこう言うのがあったと思うんだけど、あってるか?」


 そう言ってシロウは、ハツカに質問をした。

 その内容とは、明日以降の販売戦略。

 話を聞いたハツカは、シロウの単純かつ悪戯心満載の対策に呆れながらも感心する。


「シロウ、確かにそれなら、こちらに不利益は生じないでしょう」

「じゃあ、決まりだな」


 シロウはハツカの調理技能に対しては、味付けの事を除けば高い評価をつけている。

 そのハツカからのお墨付きを得た事で、この計画は上手くいくだろうと確信した。


 シロウ達は子供達が戻って来るまでの間に、明日以降の準備に入った。

 エレナには明日以降、作り置きの物を古い順から販売するように確認を入れる。

 ルネとハツカには、新しく作り置きをしておく卵焼きの調理を任せた。

 実演販売をすると決めたとは言え、全てを子供達に作らせるつもりは無い。

 それでは子供達に掛かる負担が大き過ぎる。

 要所要所でマジックバックから補充をして、負担の軽減を施す予定だ。

 そしてシロウは、マジックバックを担いで材料の補充へと走った。


 ◇◇◇◇◇


 窓の外は赤く染まり、夕暮れ時となる。

 満足げに帰って来た子供達と入れ替わりに、シロウ達は街中へと足を運ぶ。

 買い物の為に商業ギルドに行ったシロウとは違い、ルネ達は、ほぼ調理場にいる。

 だから、せめて夕食くらいは外で食べようと、のんびりと連れ立って歩いていた。


 ルネは、目に映る珍しい品や料理に興味を引かれてフラフラしている。

 その後ろをシロウが歩いていると、フルーツ串を購入して来たハツカが訊ねてきた。


「それでシロウ、商業ギルドではどうでしたか?」

「ああ、やっぱり砂糖が少し値上がりしていたよ」

「まぁ、そうでしょうね」


 シロウは、ハツカから一本もらったフルーツ串を食べながら出店状況を観察する。

 やはり食べ歩きがしやすいからなのだろう。串料理を出している店が多かった。

 その筆頭は、やはり肉や魚を焼いた物。そしてハツカが購入して来た果物などもある。

 それ以外となると、やはり小麦粉を使ったパン類が多くなっていた。


 小麦粉とココリコの卵は、まだその影響を受けずに物価は安定している。

 しかし砂糖は、すでに値上がりの傾向を見せていた。

 

 ゆえにシロウは商業ギルドで、砂糖を優先的に補充しておいた。

 ココリコの卵は特産品だけあって、基本的に安価で流通している。

 そうそう物価上昇はしないだろう。


「シロさん、いくつか鳥の串焼きを買って来ました」


 ルネが、ヤキトリやカラ揚げの串焼きを買って来て手渡してくれた。

 ここにもココリコと言う魔物が料理として多く活用されている。

 

 シロウは串焼きを食べながら、次の料理を物色する。

 ハチミツがたっぷり塗られたバンや、ふんだんに香辛料が使われている肉料理。

 目に入ってくる料理は、どれも魅力的に映る物ばかりだった。


「胃もたれしそうな料理ばかりです」


 しかし、フルーツ串を抱えているハツカの言葉が、かなり的確だった。

 どれも武術祭らしい豪快なボリュームと、極端に強烈な味付けの物が多い。

 つまり、甘過ぎるか辛過ぎるか、油ぎっているか、刺激が強いか、である。


 シロウは、昼間に出店に現れた青年の言葉を思い出す。

 あの青年もまた、ハツカと同じ感想をもって、子供達のパンを求めてやって来ていた。


「ルネ、もしかして、こう言うゴリ押し感の強い味が好まれるものなのか?」


 シロウは、これがこの世界の常識的な味覚なのかと疑問を持ち始めた。


「それは違います。ただ特別感を出そうとして調味料をふんだんに使った結果かと……」


 ルネから見ても、これらの料理は、やり過ぎのようだ。

 ただ周囲の人達は、これはこう言う物だと受け入れている。

 この世界の人間は、ある意味シロウ達よりも味に対して寛容のようだ。


「舌がバカなのですね」


 シロウが必死に言葉を選んで解釈したものを、ハツカはバッサリと切り捨てる。

 それをルネは、ただただ苦笑いを浮べて応えていた。

 屋台の料理では、なかなかきつい事が分かったので適当な飲食店を探す事にする。

 そして店の扉を開けた先で、見覚えのある三人組、トムヤンクンと出くわした。

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