248.違えた動向
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「雷鳴の収穫の連中が動いたか」
コウヤは、立て続けに消えた五体の猪頸鬼の反応から、彼らの機微を察する。
少々離れた一画で起きた異変の中心には、見知った反応が三つ固まっていた。
最初の二体の猪頸鬼は、直後に、その場から離れた猫盗賊が仕留めていった。
そしてマサトとハルナは、その場に留まり続ける。
そこに、突如、魔力が膨れ上がり、その前後で再び三体の猪頸鬼の反応が消えた。
その事から、二人が噛砕巨人戦同様に何かを仕掛けた事。
また、同じ撤退計画を描いていた彼らが、違えた道を選択した事をコウヤは察した。
マサトとハルナは、コウヤ同様に紅玉を持つ転移者。
この世界に転移して以降も同じ道を歩んで来た幼馴染の二人。
二人は噛砕巨人戦で、危険を伴う連携技を見せた。
それは、強い信頼関係が築かれている二人だからこそ可能とした業。
その時と同様に、二人が仕掛けた、と言う事は、切り札を切った、と言う意味を持つ。
そんな二人には、目に見えて分かる弱点が存在している。
マサトの宝刀は、敵を斬れない超が付くナマクラ刀である事。
ハルナは、現状の保有魔法に対して魔力制御が追いついていない事。
それらはマサトが、もっぱら仲間に魔物を倒す事を任せている、と言う事実。
ハルナが、得意とする水属性の魔法ですら大雑把な運用をしている事から読み取れる。
そのような二人だが、時として、その弱点を互いに補い、敵を凌駕する力を発揮する。
その力の根源にあるものは、二人の間で無言で交わされている意思の疎通。
彼らは、互いに相手の意思を汲み取り、能力を最大限に高め合う事が出来た。
それは、仲間となって一月と経たないコウヤとハツカでは遠く及ばない、彼らの強み。
「だが、このあと、どうするつもりだ?」
コウヤは魔力探知で、ハルナの魔力が底を尽き掛けている事を把握していた。
猪頸鬼達は二人を警戒し、戦力を彼らに向けて投入していく。
いままで以上に猪頸鬼の注意を集め、厳しい状況となっていく二人。
そんな中、二人の下から離れたベスは、他の馬車の援護に駆け回っていた。
複数の猪頸鬼達を引き付け、硬直状態に持ち込んだマサト達。
対してベスは、仲間のディゼ達ではなく、むしろ彼らから離れた馬車の援護に回る。
その事から、少なくとも彼らだけで、この窮地を脱しようとしていた訳では無い。
何かしらの方法で、全員を離脱させようと計画を立てていた事が窺えた。
コウヤは、彼らが、あえてパーティを分散させ、戦力を分けた意味を考える。
だが、コウヤに、その真意を読み解く事は出来ない。
彼には、その考えに辿り付く為の決定的な情報が欠けていた。
ルネサンズは雷鳴の収穫に比べると、パーティとしての練度で一歩劣る。
それは、各々が持つ最大の攻撃が何であるか?
と言う問いによって、浮き彫りにされる事実。
そして、それは同時に、パーティの在り方の違いも如実に示すものとなる。
ハツカの最大の攻撃技は、大荒鷲戦で見せた頴転突貫。
コウヤの最大火力を誇る魔法は、百舌鳥に放った炎熱旋風。
そのどちらも、強敵を単身で倒す事を目的として生み出された大技であった。
対してマサトであれば、先に猪頸鬼を倒した武零駆。
ハルナであれば、噛砕巨人に放った流水圧砲が最大の攻撃魔法となる。
しかしながら、彼らには、その上をいく技があった。
そして、それらは単身による攻撃技ではない。
それが、ハルナを軸とした合流挟撃や空間跳車と言う連携技。
そして彼らには、まだコウヤ達に見せていない隠し技も持っていた。
これらの技から読み取れるのは、各々の意思疎通の水準の違い。
ルネサンズは、ハツカにしろコウヤにしろ基本的に個人の能力に依存した戦闘を行う。
そんな彼らも、互いに相手の思考を読み合い、連携は取っている。
しかし、その多くは意見を交えたものではない為、すれ違いを多々起こしていた。
ゆえに、彼らの連携は、基本的な技を単純に続けて放った程度のものに留まっている。
マサト達のように、大掛かりに仕掛けた攻撃が存在してはいなかった。
対して雷鳴の収穫は、互いに相手の長所を汲み取った連携を見せる。
それは、普段から交わされている何気ない会話から深められてる意思の疎通。
その事によって、彼らは相手の呼吸を読み取り、補強する事で連携の精度を高める。
雷鳴の収穫の強みとは、その中心にいるマサトとハルナが示したものと同じ。
いや、彼らが大切にしているものが反映されているからこその強みと言えた。




