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247.刀使い

 ハルナの水没牢結界(ドラウンケージ)とマサトの刃路軌(ハジキ)によって、周囲の猪頸鬼(オーグス)達の動きが鈍化する。

 彼らは警戒心を高め、自衛を意識するがゆえに、互いの援護(フォロー)が行き届かなくなる。


摩施(マッセ)


 その鈍化した猪頸鬼(オーグス)達のスキを突いて、マサトが一体目に仕掛けた。


 そこでマサトが仕掛けたのは、刃路軌(ハジキ)の変形技である摩施(マッセ)

 直線軌道で不可視の剣閃を放つ刃路軌(ハジキ)に対して、摩施(マッセ)は自由軌道を取る。


 曲射が可能となる摩施(マッセ)の軌道を捕捉する事は、ほぼ不可能。

 その奇襲性の高い攻撃をもって、マサトは猪頸鬼(オーグス)の背後から脚を刈る。

 完全に不意打ちを食らった猪頸鬼(オーグス)(ひざ)が折れる。

 マサトは素早く間合いを詰めると、崩れ落ちた猪頸鬼(オーグス)の上半身に蹴りを入れた。

 バランス崩していた猪頸鬼(オーグス)は、その蹴りを左腕で、かろうじて防御(ガード)する。

 しかし、更に加重を加えられた事により猪頸鬼(オーグス)は、仰向けに転倒した。


 猪頸鬼(オーグス)は倒れながら手にしていた棍棒を放棄し、右腕を伸ばしてマサトに掴み掛かる。


武離路(ブリッジ)


 だが、マサトの不可視の突っかい棒(ブリッジ)が、猪頸鬼(オーグス)の両腕の可動域を閉ざす。

 それは、猪頸鬼(オーグス)に対して、一秒も耐えられるかどうかも(あや)しいの防御障壁。

 マサトは、自身を守る薄氷はくひょうが砕かれる前に決着を着けるべく猪頸鬼(オーグス)の頭上を抑える。

 そして──


武零駆(ブレイク)


 猪頸鬼(オーグス)の口に振り下ろした宝刀をもって、その生命(いのち)を絶った。


 宝刀に六発分の刃路軌(ハジキ)の剣閃を装填し、刺突攻撃と同時に開放する技『武零駆(ブレイク)

 それは、宝刀でありながら刃が無く、殺傷能力が皆無なマサトの唯一にして最大の技。

 敵の身体を刺突攻撃で貫き、体内から肉体を破壊をする絶技。


 一瞬のうちに体内から内部を破壊された猪頸鬼(オーグス)は、無残な姿となって地に還る。

 そのあまりにも凄惨(せいさん)な光景に、水没牢結界(ドラウンケージ)以上の衝撃が猪頸鬼(オーグス)達の間を駆け巡る。


「どうやら、こちらを十分に警戒してくれたようだな」

「そだねぇ、このままスローペースになってくれると嬉しいかなぁ」


 マサトが一体、ハルナが二体。

 猪頸鬼(オーグス)に対して戦果を上げた二人の周囲に、新たな三体の猪頸鬼(オーグス)が、にじり寄る。


 しかしながら、そのいずれも二人と距離を取ったまま見構え、大きな動きを見せない。


 直前の凄惨(せいさん)な光景を目の当たりにした猪頸鬼(オーグス)達。

 その足取りは当然の如く、非情に慎重なものへと変わった。

 いままでのように、一気に間合いを詰めるような動きを見せない猪頸鬼(オーグス)

 その変化を見てマサトは、思いのほか威圧(ハッタリ)が効いているな、と内心で胸を撫で下ろす。


 二体の猪頸鬼(オーグス)を仕留めたハルナの水牢結界(アクアケージ)溺死(ドラウン)の併用。

 それを(もと)に新たに生み出した水没牢結界(ドラウンケージ)


 しかし、その波紋を広げた魔法の威力とは対照的に、ハルナの魔力は尽き掛けていた。

 それも、そのはず。

 ハルナは本日、昼間に馬車へ奇襲を掛けて来た大荒鷲(ウィングラプター)以降、三連戦をしている。

 その間に、ほぼ攻撃に未参加だったとは言え、回復魔法を継続的に行使していた。


 そんなハルナが、現在(いま)行使している魔法とは、最初の流水(ストリーム)を除けば全て同じ魔法。

 それが、水牢結界(アクアケージ)溺死(ドラウン)であった。


 流水(ストリーム)は、魔力を使って放ってはいるが、言ってみれば水流を叩き込む打撃攻撃。

 その為、一度放ってしまえば、敵に打撃を与えると同時に霧散して消耗している状態。


 対して、現在(いま)行使している水牢結界(アクアケージ)溺死(ドラウン)は、敵を捕らえて水没させる為の魔法。

 それは、一種の陣地作成(ロケーション)魔法と言える。

 その為、いくらかの水量は敵の体内に吸収はされるが、大半は水球として回収が可能。


 この一度魔力が(かよ)った水球を回収する事で、ハルナは魔力の消耗を対外的に誤魔化す。

 と言った、ちょっとした裏技を猪頸鬼(二体目)を相手に実験していた。


 そして、そこでの実験結果からハルナは、魔法の発動の効率化と魔力消費の軽減化。

 水球の回収率の向上、と言う要素を追加して、新たな魔法を構築したのであった。


 対して一体の猪頸鬼(オーグス)を打倒したマサト。

 こちらには、猪頸鬼(オーグス)を一撃で倒せる武零駆(切り札)があった。

 しかしながら、こちらには、かなり深刻な問題点があった。


 それは、宝刀に六発分の刃路軌(ハジキ)の力を装填(チャージ)する必要がある事。

 そして、マサトの宝刀が壊滅的に殺傷能力が無い、と言う事。


 マサトの宝刀は、他者を斬る事が出来ない超が付くナマクラ刀。

 その為、剣閃を飛ばす刃路軌(ハジキ)にも殺傷能力は無く、吹き飛ばし(ノックバック)効果があるのみ。

 単純な力勝負の戦いに持ち込まれると、その弱点は容易に看破されてしまう。

 そうなると敵は、死への危険性が(いちじる)しく低い為、なんの(うれ)いも無く攻勢に出る。

 それは、マサトが一番恐れる戦闘の流れ。

 特に決闘(タイマン)形式の戦いでは、何がなんでも、その事実を敵に気付かせてはいけない。

 これは、マサトにとって大きすぎる縛りと言えた。


 そして肝心(かんじん)武零駆(切り札)の攻撃力とは、結局の所、敵を吹き飛ば(ノックバック)させる刃路軌(ハジキ)六発分相当。

 それを、敵体内で刀身から放ち、内部破壊を起こす事で必殺の域へと昇華している。

 だが、それは敵の防御を貫けなければ、格段に威力が落ちる、と言う意味でもあった。


 マサトは、確かに猪頸鬼(オーグス)武零駆(ブレイク)で仕留めはしたが、敵の防御を突破した訳ではない。


 彼がしたのは、武離路(ブリッジ)摩施(マッセ)で転倒させ、猪頸鬼(オーグス)の口に宝刀を突き刺立てた事。

 つまり、武零駆(ブレイク)での追撃は完全な過剰攻撃(オーバーキル)

 それが無くとも、あの時、猪頸鬼(オーグス)を仕留める事が出来ていた。


 それでもマサトが、あえて猪頸鬼(オーグス)武零駆(ブレイク)を放ったのは一種の威嚇。

 下手に向かって来るのなら、無残な死に体を晒す事になるぞ、と言う威圧。


 一見するとマサトもハルナも猪頸鬼(オーグス)に対して優位に戦闘を進めているように映る。

 しかし、その実は、両者共にハリボテの優勢を演出しているに過ぎない。

 猪頸鬼(オーグス)達は、武を重んじる一方で魔法に対しての知識は(うと)い。

 その事が(さいわ)いして、ハルナの厳しい実情が猪頸鬼(オーグス)達に知られてはいない。


 二人は、その持てる力を駆使して、貴重な好機(チャンス)を最大限に活かす。

 猪頸鬼(オーグス)を委縮させる威力の技を、鮮烈に脳裏に叩き込む事で動きを封じ込める。


 マサトは、歩幅が狭まった猪頸鬼(オーグス)に、威嚇するかのように宝刀で空を斬る。

 その動きに猪頸鬼(オーグス)達は、不可視の剣閃(ハジキ)が向かって来るのか、と身を構えた。

 だが、それは不可視の突っかい棒(ブリッジ)を設置し、宝刀に刃路軌(ハジキ)を装填する動作。

 猪頸鬼(オーグス)達は、ものの見事に二人の威圧(ハッタリ)()まり、後手に回っていった。

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