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240.土台

 猪頸鬼(オーグス)の攻撃を横に擦り抜けるようにして(かわ)すハツカ。

 と、その時、相手が猪の魔物である為か、気持ち分、横の移動が鈍い事に気づく。

 試しに、数回様子を見たのち、反撃の剣を打ち込む。

 その剣は猪頸鬼(オーグス)に命中する──が、当たり所が悪い。

 まともなダメージとしての痕跡を残す事なく、体表で止められる。


 剣の扱いに慣れていないハツカの攻撃。

 それは、猪頸鬼(オーグス)体捌(たいさば)きによって、斬撃ではなく打撃として受け止められてしまう。

 ただ、ここでハツカは、猪頸鬼(オーグス)を相手に自分の剣が届く事を確認する。


 ハツカにとって、全く相手にならない程の力量差が無い事が確認出来たのは好材料。

 少なくとも、攻撃が当たるのであれば、いつかは倒せる見込みがある。

 だが、猪頸鬼(オーグス)の死角に回り込んだ攻撃が、いとも簡単に防がれた事には不満がある。

 冷静な自分と荒ぶる自分が、再び猪頸鬼(オーグス)を凝視する。


 不慣れな剣で猪頸鬼(オーグス)を相手に立ち回るハツカ。

 だが、いくら猪頸鬼(オーグス)に横の動きにスキがあるとは言え、それだけでは通用しない。


 猪頸鬼(オーグス)が持つ戦闘経験によって、単調なハツカの動きは先読みされる。

 その結果、基本的にハツカの攻撃は、ことごとく出鼻を潰されていく。

 何度かは、猪頸鬼(オーグス)の身体に届く攻撃も混じりはした。

 しかし、それも体捌きで打撃点をズラされて有効打を無効化されてしまう。


 猪頸鬼(オーグス)は、攻撃能力に優れた魔物ではある。

 しかし、だからと言って防御能力が劣る魔物ではない。


 彼らには鍛え抜かれた筋肉と、その身に(まと)う毛皮の鎧がある。


 この鎧は、針蜘蛛(ディスパイダー)のような甲殻とまではいかないが、ヤワな剣など意に介さない。

 そこに、猪頸鬼(オーグス)の戦闘技能が加われば、容易に突破が出来ようがない。

 少なからず、真っ当に武器が扱えない者の攻撃など通用しない。


 ハツカが(たずさ)えている剣の技量は、実は薬師であるルネと大差がない。

 それは、その用途が主に拘束した魔物のトドメ用であった為。

 磨かれた剣技ではない、と言う点で、その差は無いに等しいものだった。


 ハツカは数度、剣での戦闘を経験はしている。

 しかしながら、それは、あくまで菟糸(とし)による攻撃を主力においてのもの。

 その為、そこで振るわれた剣は、刃の軌道が意識されていない無法の剣。


 それでも、ある程度通用していたのは、転移者に備わる身体強化による恩恵の賜物(たまもの)

 言ってみれば、力に任せて振るっている暴力。

 極端に言えば、バットを片手に持って振り回しているのと変わらない打撃と言える。

 その為、ハツカは剣は所持しているが、その技量の向上は成されていない。

 そのような剣の腕では、猪頸鬼(オーグス)の鍛えられた肉体美(防御)を打ち破るのは困難。


 ゆえに、噛砕巨人(ギガントゥース)程ではないが、ハツカにとって猪頸鬼(オーグス)は、相性の悪い相手と言えた。


 そうなると、猪頸鬼(オーグス)の一方的な攻撃がハツカを襲う。

 ──かと言われれば、そうでもない。

 剣が通じなくとも、猪頸鬼(オーグス)の攻撃もハツカには届かなかった。


 ハツカは、燕麦の助けがあったとは言え、多くの攻撃に対する防御経験がある。

 ある意味、ハツカほど短期間で多くの攻撃を受け、見る経験を積んだ者はいない。

 そこで(つちか)われた目は、確実に猪頸鬼(オーグス)の攻撃を捉える。

 そして、燕麦の防御障壁で耐え、反撃する戦闘スタイルだったハツカには、もう一つ。

 敵の攻撃の前に立ち続けられる胆力が(つちか)われていた。


 敵の攻撃に晒され続ける、と言うのは精神をゴッソリと削ぎ落す。

 人間の集中力は、いつ終わるか分からない攻撃を受け続けられるほど長くは持たない。

 そして、ある一線を越えた時、その精神(こころ)は折れ、ミスを誘発して終焉を迎える。


 しかし、ハツカは岩鼠(ロックチャック)の大群を前にしても立ち続けた。

 その時に、限界を超える負荷を負いつつも、その一線を乗り切った経験を持つ。

 その経験があるがゆえに、現在(いま)のハツカは、ズバ抜けた胆力を有している。


 自身の弱さを隠す虚勢()を補強するかのように身に着けた胆力(外殻)

 それは、防御を固めた体勢から踏み出したハツカの攻撃性を支える土台となる。


 敵の攻撃を回避出来なくとも、燕麦の防御で対応が出来る、と言う自負。

 それがあるからこそハツカは、積極的に攻めに転じる動きの模索が出来る。


 ハツカの目が猪頸鬼(オーグス)の動きを捉え、猪頸鬼(オーグス)の棍棒が燕麦を殴打する。

 猪頸鬼(オーグス)の攻撃を完全には回避しきれないハツカだが、戦い方を変える気はない。

 燕麦で守りを固めてしまうと、目の前の視界が塞がれて剣での攻撃が困難になる。

 そうなると菟糸を主軸とした攻撃を(おこな)う事となり、宝具の破壊の危険(リスク)(かか)える事となる。

 ハツカは、抱える危険度(リスク)を天秤に掛けつつ、回避を主体とする戦い方を──

 より猪頸鬼(オーグス)への攻撃を重視した方向に移行していく。


 菟糸と燕麦による二重防御に代わる、回避と防御と言う二段構えの守り。

 それらが有効に機能した事で、攻めへの積極性が後押しされる。

 そして、そこには、その片翼である回避を支える転移者に反映されている身体強化。

 その実感が、ハツカの判断に大きく影響を及ぼしていた。


 転移者に反映されている身体強化。

 それは、各々(おのおの)の資質に応じたものが反映されている。


 その法則と思われるものの傾向は、

 魔法特性が強い者は、魔法強化の倍率が上がる。

 魔法特性が弱い者は、身体強化の倍率が上がる、と言うもの。


 ハツカはシロウほどではないが、コウヤよりも強く身体強化の恩恵を受けている。

 その為、子猫達(ネコレンジャー)との遭遇時や隣国での活動時に軽快な身のこなしを見せている。

 この恩恵と燕麦(えんばく)の防御。

 新たに開拓した二段構えの守りがある、と言う事がハツカに精神的な余裕を持たせる。


 守りに自信があるからこそ、積極的な攻めが可能となる。

 そして、それが結果的に不慣れな剣で反撃を猪頸鬼(オーグス)に届かせてる要因ともなっていた。


 思わぬ副産物として得た命中率の向上。

 ここでようやく、ハツカは猪頸鬼(オーグス)と対等に渡り合えるだけの土台(武器)を手に入れる

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