218.乱戦対応
チワワ獣がイグナスに付いて行った事で、サントスは人心地ついて落ちつく。
そのサントスは商隊の外周に位置取り、まずは弓銃で伍分厘達へ先制攻撃を仕掛ける。
突如、仲間が倒れた事で奇襲を知った伍分厘が、反転して標的をサントスに変える。
だが、その伍分厘の反撃は、冷静に迎撃に当たるサントスの射撃。
その前方で槍を振り回して叩き飛ばすバンテージによって最終地点までは届かない。
槍を棍のように振るうバンテージが前衛、弓銃を使うサントスが後衛。
先の伍分厘の集団からの撤退戦時の経験もあって、両者の立ち位置は自然と機能する。
バンテージの伍分厘の阻止率の高さに、サントスに射撃の集中力が高まっていく。
そうなると初撃以外で、そうそう狙いが定められない射撃に良い当たりが混じり出す。
敵を弱らせて戦いを優位に運ぶ戦法を得意とする両者の思考と視野。
そこにサントスの『観察』の能力が加わる事で、弱った伍分厘が逐次退場させていく。
商隊から離れて戦えば、魔物達の攻撃が馬車に及ぼす被害が少なくなる。
しかし、その分、戦う者は広い守備範範囲を任され、他者との連携が取れにくくなる。
バンテージ達は現在、この多大な負担が強いられる距離で戦っていた。
だが、この場所には、背後を取られる危険性が少ない、と言う利点もある。
バンテージ達は、この利点を活かして外周から魔物達の切り崩しを敢行していく。
対して、商隊との合流を優先したディゼ達は、どのような方針で戦闘に応じるか?
その問題点には、コウヤとダーハが対策を講じて、すでに行動に移っていた。
『炎壁』『砂維陣』
コウヤは、周囲に炎壁を張り巡らせる事で、光源の確保と魔物の分断を両立させる。
そこにダーハが、砂維陣で堀った堀を炎壁の内側に形成していく。
更に、掘り起こした土砂を積み上げて防壁を形成し、その高低差で防御陣地を形成。
これにより伍分厘達の進行ルートを限定していく。
また、強引に炎壁を突破した者達は堀に落とされ、護衛団によって撃退されていく。
コウヤとダーハ。そのどちらも火属性魔法を得意とした魔術師。
そして消費魔力が軽い軽量級魔法と高火力の重量級魔法を持つ、と言う共通点がある。
ただ、ここには、乱戦状態で取り回しが良い魔法が無い、と言う負の共通点もあった。
両者の基本にして軽量級魔法である炎弾と狐火。
それを両者は、同士討ちを避ける為、味方との交戦中には滅多に使わない。
いや、正しくは、そのタイミングで使えるだけの命中精度が無い為、使えない。
と言った方が正しい。
これらの基本に位置する魔法は、発動自体は容易だった。
しかしながら、これらの魔法には敵を追尾するような性能は無い。
そこから敵に命中させるには、魔力による制御が必要とされる。
自分の魔力制御で制御下に置く。
または、新たな魔力構造式を組み込んで再構築した魔法を運用する。
そのどちらを選択するかは術者の考え方次第。
そして、その時、そこにどれほどの性能を要求するかも術者次第だった。
この問題点に当たった際、両者は攻撃範囲が広い魔法の取得を選択していた。
それがコウヤの場合、連弾である散炎弾や敵を取り囲む包囲型の炎熱旋風。
ダーハの場合は、コウヤの炎壁に酷似した火至把手が、それにあたる。
これらは、個人もしくは身内集団での戦闘でなら活用のしようはあった。
しかし、今回のような敵味方が入り乱れる乱戦状態では有効に働かない。
このような場合、ダーハは、そもそも魔法ではなく、槍を使った近接戦闘で対応。
コウヤに至っては、ほぼ何もしない状態が常。
その中で、スキを突いて魔法を放つ、と言う選択が成されている。
両者は共に、乱戦時に敵だけを攻撃する魔法技術面において大きな問題を抱えていた。
その為、今回は直接戦闘に加わるのではなく全体の戦力差を埋める役割に回っていた。
「ケガをしている方は、こちらに」
「軽傷で戦える人は、こっちで回復を掛けるから、他はルネちゃんの方で、お願いねぇ」
「はい」
そして、商隊まで辿り着いたハルナとルネは、ケガ人の治療に対応していく。
ハルナは、護衛団の負傷者の回復に対応して、戦力と士気の維持に務める。
対してルネは、非戦闘員の治療に対応して、商隊の不安の除去に務めた。
四人の対応によって、当初、商隊および護衛団にあった混乱が収まっていく。
そして、その遅効性の効果によって、次第に魔物を撃退する圧力が増していった。
「良し、いけるぞ。このまま押し切れ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
一時は夜襲で全滅も覚悟した集団が、体勢が立て直った事で勢いを取り戻す。
そして護衛団に、後方に回復役が控えている、と言う安心感が生まれていった。
そうなると彼らの意識は、負傷の損害よりも敵を倒す勝機に向かう。
その結果、守勢に回っていた護衛団の動きが自然と攻勢に転じた。
果敢な攻め出た護衛団は、傷つきながらも魔物達を徐々に間引いていく。
そして、その成果は、次第に彼らの目にも見え始めた。
彼らは、この終息が見えた機に、一気に魔物達の掃討に出る。
しかし──
「ディゼ、ここまでだ。護衛達を引かせて撤退に入らせろ!」
そこでコウヤが、勢い付いた護衛団の攻勢に逆行するように待ったを掛けた。
「コウヤさん、どうしたんですか?」
「新しい集団反応が近づいて来ている。あれに加わられると全滅しかねない」
コウヤが、この場の騒ぎに引き寄せられた新たな魔物の襲来を捕捉し、撤退を促した。




