216.怪しさ満載トリオ
「僕は、元製錬都市衛兵団所属のディゼ。これより加勢します!」
ディゼは、伍分厘に襲撃されていた商隊に駆け寄りながら大声で叫ぶ。
その際ディゼは、ハツカが拘束した伍分厘を仕留めて味方だとアピールする。
これで、こちらに商隊の護衛団と、共闘する意思がある事が伝わるはず。
そう考えてのディゼの行動であったが、その直後に悪寒が走る。
それは、獲物を横取りされたハツカからの冷ややかな視線であった。
後ろを見なくとも、ヒシヒシと伝わって来るハツカからの無言の圧力。
ムッとしているハツカとディゼの様子を見た護衛団に戸惑いの色が浮かぶ。
ディゼは、格好を付けすぎた、と反省しながら冷や汗を流す。
しかし、次第に商隊の理解が追いつき、救援を求める現金な声が上がりはじめた。
「オレは護衛団長のジルム。なぜここに製錬都市の衛兵が居る? オマエ達は何者だ?」
だが、そのような歓迎の声とは裏腹に、護衛団の団長がディゼに確認を入れる。
それは当然の警戒だった。
なぜなら、ディゼが言った製錬都市とは、ここから馬車で三日は掛かる距離にある。
そのような所の衛兵が夜間に、このような場所に居るとなれば、当然疑いが生まれる。
彼の集団によって照らし出された周囲が、次第に元の闇に浸食されていく。
その間にジルムは、ディゼの後方に怪しい三人組と小型の魔獣の姿も確認した。
冷静さを保持したジルムが、ディゼを無条件に受け入れなかったのは当然の事だった。
「僕達は冒険者です。回復魔法の使い手もいます。ケガ人がいたら言って下さい」
「味方と言う事で良いのだな?」
「はい。こちらには獣人や蜥蜴人、犬の使い魔もいます。攻撃をしないで下さい」
ディゼが、後方にいる蜥蜴人やチワワ獣の事をジルムに伝える。
その事でジルムは、彼らが交戦中の者が混乱する事を避けて取った配慮を理解した。
「了解した。助力に感謝する」
ジルムは、簡潔にディゼに返答をする。
そして、伍分厘と交戦する集団の力を素直に借りる事を決断した。
◇◇◇◇◇
「どうやら無事に話がついたようですね」
「では、ワレらも参ろうか」
商隊の救助に入ったディゼ達先行組から遅れているフード付きと蜥蜴人と包帯男。
商隊の護衛団の団長からも、一発で不審がられた怪しさ満載トリオ。
そのサントスは、ディゼ達と護衛団の動きを見て、話が付いた事を察する。
同様に、交戦中の者達の動きから疲弊具合を察したイグナスも即時行動を起こした。
一応、護衛団からの誤射を警戒しながらイグナスは、先陣を切って駆ける。
その後ろには、サントスとチワワ獣。
バンテージは三者を追い、周囲に視線を走らせながら、そのあとに続く。
弓銃を使うサントスを中心に、前後を近接戦を主体とする二人が挟む。
その陣形は、中心に遠隔攻撃を行うものを置く至って基本的な布陣。
それゆえに三者は、いつもと変わらぬ自らの役割を迷う事なく遂行する。
そしてバンテージは、視界に入って来る魔物の姿を確認して率直な感想を口にした。
「それにしても魔物の数が、また増えてないか?」
「さっき程の魔術師殿の光が、近くの魔物を呼び寄せたのかもしれぬな」
「あのコウヤが、その事を考慮に入れていなかったとは思えません」
「元から、こちらに集まって来ていた集団、って事か?」
バンテージは、コウヤが、そのような事を危惧する話をしていたな、と思い返す。
この間も灰色狼は、周囲を駆け、遠巻きに、こちらの様子を覗っていた。
灰色狼達が積極的に襲って来なかったのは、こちらが武装した集団である事。
そして、先にマサトが言ったように、珍種のチワワ獣がいた為のようであった。
灰色狼達は、武装したバンテージ達よりも明らかにチワワ獣の事を警戒していた。
灰色狼にとっても、チワワ獣は珍しい存在として映っているらしい。
それは、他と比べて明らかにチワワ獣との間合いを広く取っている事からも窺えた。
救助する商隊の者達からの警戒を避ける為に持ち場を離したチワワ獣。
だが、これなら商隊の馬車の近く番犬として配置した方が良かったのではないか?
と、そんな考えがバンテージの中で浮かぶ。
しかし、これはマサト達が、いまある戦力と状況を考慮して判断した領分。
それを部外者の立場にあるバンテージが、いまさら口に出して言って良い事ではない。
ゆえにバンテージは、大人しく最後尾で背面からの襲撃の警戒を担当した。
「急ぎ、加勢せねばな」
「そうですね」
「ワウッ!」
「あっ、そのケダモノは、そちらにお貸しします。存分に使ってやって下さい」
だが、そんなバンテージの考えとは裏腹に、サントスはチワワ獣の運用を放棄した。
チワワ獣は、愛嬌たっぷりにサントスを追うように駆けている。
しかし、サントスはと言うと、ものすごくイヤそうにチワワ獣の事を敬遠していた。
そんなサントスの様子を見てイグナス達は、これからの戦いの事を思い悩む。
「なんだ、オマエは犬が苦手なのか? そんなんで灰色狼と戦えるのか?」
「失敬な。灰色狼に遅れなど取りはしません!」
「だが、サントス殿は、この小型の魔獣は苦手なのであろう?」
「どうにも、そのケダモノの恐ろしい顔だけは、生理的に受け入れられません」
「そうであるか? 確かに、なかなか精悍な顔立ちではあるがな」
「ワウッ!」
「えっ? マジかよ。こんなチワワ顔がか?」
チワワ獣が構って欲しそうにしているのに対して、サントスは常に距離を離す。
傍から見ていると、なんとも微笑ましい光景なのだが、本人にとっては恐怖そのもの。
サントス達三人の感性は、それぞれにかなり異なったものとなっていた。
「でも、コイツもオマエの仲間だろ。生理的に無理、とか女みたいな事を言うなよ」
「な、何をいきなり変な事を言うんです! いまのは、さすがに不愉快です!」
ゆえにバンテージは、女々しい事を言い出したサントスに呆れる。
すると、その一言が琴線に触れたサントスは、ムキになって抗議した。
「ヌシ達、それくらいにせぬか。個人の感性は。そうそう変えられるものでは無いわ」
「まぁ、そうだな。俺が悪かった。すまない」
「いえ……自分も変にムキになってすみません」
イグナスは、少々険悪な雰囲気となった場に割って入って事を終息させる。
対してバンテージは、軽口のつもりの一言でサントスを不快にさせた事を反省した。
そしてサントスは、女性だとバレたのかと焦って大袈裟に反応した事を反省する。
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