214.再合流
◇◇◇◇◇
「やっと追いつきましたね」
「ダーハちゃん、ただいまぁ」
「おねえちゃん達、お帰りなのです」
「ルネは無事ですか?」
「はい。ハツカさんの方こそ大丈夫でしたか?」
日が暮れて、かなり時間が経った頃、サントスが操車する古馬車がルネ達と合流した。
そして、互いに相手の無事を確かめ合い、そこでようやく一安心する。
「すぐに食事と睡眠が取れるように準備してあります。どうしますか?」
ルネは、すぐに休みたい者もいるだろう、とハツカ達に訊ねる。
「いや、いますぐ移動する」
「え? どうしてですか?」
だが、そこでコウヤから返って来たのは、別の選択肢であった。
その事にルネが疑問を抱いて訊ねると、コウヤ達は、ここまでの経緯を説明した。
「ここに来るまでに、かなりの数の魔物の反応があった」
「うむ、魔術師殿がいなかったら、どれだけの敵と遭遇していた事か……」
「全部相手にしてたら、まだまだ時間が掛っていたと思うよぉ」
「加えて、いま活動しているのは夜行性の魔物だ。そんな集団とは戦いたくない」
コウヤの探知に掛った反応からイグナス、ハルナ、マサトと、状況の危うさ示唆する。
「そうですね。衛兵時代に何度が夜戦の経験はありますが、夜目が効く魔物は厄介です」
「この中だと夜目が効くのは、私と子狐、あと駄犬くらいかにゃ」
「私は菟糸を使えば、暗闇でも問題なく敵を捕捉出来ます」
「ハツカさん、それでも魔物が集団で襲って来たら危険ですよ」
「ダーハ達の炎なら光源は確保出来るが、戦闘を避けて今晩中に狩猟都市まで向かうぞ」
「みんな魔力を消耗しているからねぇ」
「と言う訳で、荷物は自分が全て収納します。ディゼは御者を頼みます」
「はい」
マサトが狩猟都市への強行を決めると、サントスが収納外套で荷物の回収に回る。
慌しい撤収準備に入り、ルネとダーハもマジックバックに料理を収納していく。
そして、御者台にはディゼ、サントス、ダーハ。
全員が乗るには狭い古馬車からは、ベスだけが屋根上へと退避する。
その有無を言わせぬ手際にバンテージは、見慣れぬ霊体馬への説明要求を保留にする。
最後に、ハルナが流水で焚き火を消すと、野営地をあとにした。
◇◇◇◇◇
ディゼが走らせる古馬車には、11名の者達が乗り込んでいる。
全員の乗車が可能だったのは、マジックバック等に荷物を収納して空間を確保した事。
そして馬車を引いているのが、疲労を知らない霊体馬であった為である。
本来ならばパーティメンバー以外には秘匿していた雷鳴の収穫の隠し玉。
宿馬召喚は、ある一件で悪目立ちをしてしまった為、表には出せない切り札だった。
しかし、マサトは噛砕巨人戦の最中に過ぎった不穏な感覚から、それを解禁していた。
そして、その直感が悪い意味で的中する。
マサト達は、わずか四半時程の道程で、その現場に遭遇する事となった。
「伍分厘と灰色狼の集団が商隊を襲っているにゃ」
コウヤが捕捉し、ベスが目視で確認した街道近くの休息地。
そこで野営をしていた小規模の商隊を伍分厘と灰色狼が襲撃していた。
「護衛の者達が応戦しているが、数が多すぎて押されているようだな」
「サントスさん、すぐに加勢に行きましょう」
ベスの視線の先をイグナスとディゼも即座に確認する。
そして生来の真摯な性格から、真っ直ぐに彼らの救助を選択する。
「マサト、どうします?」
「下手に近づくと、野盗と間違われて攻撃されるかもしれないにゃ」
しかし、前回以上の数の魔物の混成集団を前に、サントスはマサトの判断を仰ぐ。
そしてベスも、夜戦である事を考慮して、魔物の伏兵と護衛団の混乱を危惧した。
「でも、放っては置けないのです」
「周囲に他の魔物の集団もいる。あちらが囮になっている隙に進むのも手だが?」
「コウヤさん、なんて事を言うんですか!」
ダーハもまた、ディゼ達と同じ気持ちである事を伝え、コウヤは冷静に計算をする。
この場で魔物の規模を正確に把握しているのはコウヤのみ。
それゆえの言葉であったのだが、ルネは感情的にコウヤの方針を否定した。
「霊体馬は悪目立ちして護衛達に警戒される。ここからは走るぞ」
「じゃあ、コウヤくん、明かりをお願いねぇ」
マサト達は噛砕巨人との撤退時にコウヤが使った照明弾の打ち上げを頼む。
そして、古馬車を送還して救助に向かう事を決めた。
「それだと奇襲の利を失う事になるが良いのか?」
コウヤは、マサトが救助を選んだ事に反論はない。
コウヤもマサト達同様に、助けられるものなら助けたい気持ちはある。
だが同時に、照明弾を上げる事で、こちらに駆けつけて来る魔物の数にも予想がつく。
その最大規模を考慮した場合、奇襲の利を失う事は大きな痛手であった。
ゆえに、照明弾を打ち上げた場合に被る不利益の把握をマサトに問う。
「ベスにゃんが言うように、救助に向かって護衛さん達に攻撃されるよりはマシだよぉ」
「まぁ、そう言う事だ」
「そっちの不利益の方を大きく取るんだな?」
マサトの意を代弁したハルナの言葉を受け、コウヤは思案する。
いまの話も先の霊体馬の事も、共に護衛団から受け入れられる事を最優先した選択。
ディゼやダーハのような感情論は論外。
だがマサト達は、合流時に余計な時間的ロスが無ければ、対処が可能だと読んでいる。
コウヤの中でも、それに近い戦力分析はされていた。
だが、先の大荒鷲と噛砕巨人の時のように、戦闘時は何が起こるか分からない。
その為、コウヤは、マサト達が思う以上の許容範囲を取ろうとしている。
ゆえに、ギリギリの戦いは避けたい、と言う考えが、どうしても尾を引く。
しかし、それも多数派が占める中で主張した所で、聞き入れられるとは思えない。
「分かった。あとの対処は考えよう」
ゆえに、コウヤは考えを切り替え、ダーハを呼び寄せて次の対策を講じ始めた。




