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211.回復魔法

 回復魔法とは、身体を負傷する以前の状態に戻す復元の魔法だとハルナは言う。

 その文言(もんごん)はイグナスも、いままでに何度か耳にした言葉だった。

 その効果は、身体を瞬く間に正常な状態に戻す、と言う正に奇跡の御業(みわざ)

 この魔法によって、多くの者達の命が救われてきた場面をイグナスは見て来ている。


 だが、そこにはハルナが言うような代償(デメリット)がある、と言う話は聞いた事が無かった。

 そして、その素晴らしい魔法(奇跡)に、代償(デメリット)がある可能性も考えはしなかった。


 少なくともポーションは、金銭を出して購入する事で、その効果を享受(きょうじゅ)出来る。

 回復魔法も重度の症状に対しては、高位の使い手に多額の治療費が支払われる。

 だが、軽度の処置に対しては、ポーション程度の対価も支払われる事は(まれ)であった。


 その要因となるのは、教会が定期的に治癒の処置を(ほどこ)している事が上げられる。

 教会は、所属する治癒師や薬師の修行と信仰の流布を目的とした治癒活動をしていた。

 それは教会が、先の武術祭の治療部門へ多くの者達を派遣した事にも繋がる活動。


 貧する者へ救いの手を差し伸べ、富める者からは運営の資金の援助を(つの)る。

 そう言った方法で教会は、人を育て、人心を掴み、信仰と勢力を拡大していく。


 その教会のやり方に染まり、影響を受けた者からは、勘違いをするものが現れる。


 回復魔法が使える者は、その力を行使して、人命を救うのは当然。

 ポーションでの治療ならいざ知らず、なぜ魔力で簡単に治せる者が対価を求める?

 教会は、無償で治療をしてくれるのに、オマエは人でなしだ!

 と、そう言った態度を取る者が世の中には現れる。

 そのような者は、治療と言う結果だけを見て、回復魔法をポーションの代わりと考えた。

 しかし、そこまでではなくとも多くの人々は、両者の違いを意識した事など無かった。


 だが、回復魔法がハルナが言うような仕様なら、冒険者にとっては話が変わってくる。

 対象者は『治療』と言う結果に対して『経験値(成長)』と言う対価を支払っている事になる。

 それは、戦闘前に比べて、身体能力にマイナスは無くともプラスもない事を意味する。


 回復魔法と言う大きな恩恵を受けている事に対する、この世に蔓延(まんえん)する無知蒙昧(むちもうまい)

 回復魔法の仕様を知らずに頼りきり、その使い手を軽視する者達──

 そのような安易な考えを持つ冒険者達は、成長の機会を大きく失っている事となる。


 一戦ごとの人の成長幅は、それほど大きくはない。

 しかし、それが積み重なれば、いつしか大きな差となる事は想像に(かた)い。

 ただでさえ、その寿命が短い人間種。

 これが、回復魔法を安易に頼っている冒険者が、決して大成する事が無い要因。

 そして、魔法を使う人間よりも魔物の方が強靭な身体を持つ要因の一つであった。


 逆に言えば、この事に気づいている冒険者には、大きく成長する未来が見える。

 ゆえに話を聞いたイグナスは、先の戦闘の事も含めて、この者達に(いた)く興味を持った。


「どうやら、ベスが上手く街道までルネ達を脱出させる事に成功したようだ」


 魔物を避けながら誘導していたコウヤが、先に逃した一団を捉え、その動向を伝える。


「そうか。向こうにはガブリエルがいる。魔物も街道まで出て来て襲う事は無いだろう」

「ふむ、あの変わった小型の魔獣か。確かに面妖な魔力の持ち主であったな」

「そだねぇ。だからガブリエルがいると大抵の魔物が避けてくれるんだよねぇ」

「そうですか。それでルネが無事なら問題ありません。私達も早く合流しましょう」


 マサトは、ベス達が街道まで出た事を知ると、その後の一団の安全を示唆(しさ)する。

 ハツカは、その意味をハルナが補足した事で、わずかに安堵の表情を浮かばせた。


「いえ、この先は木々の間隔が狭く馬車が通れません。一度下車して歩きですね」


 しかし、ハツカの希望は、サントスの一言によって少々時間を要する事となる。



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