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021.迷走する会話

「ルネ、落ち着いて下さい、卵焼きを売りに出す事には問題があります」

「問題ですか?」

「販売時に卵焼きを入れる容器などが必要になってきます」


 ハツカに指摘されて、シロウも盲点に気づかされた。


 ゆで卵やサンドイッチであれば、購入者も手掴みで食べるつもりで買って行くだろう。

 ゆえに、作り置きをした物を販売時に手渡しする事も出来た。

 しかし卵焼きとなると、そうはいかない。

 作り置きした物を、まるまる手渡しして販売する事は出来ないだろう。

 つまり販売用に容器や皿が必要となってくる。


 そうなると商品の販売価格に容器の値段を上乗せする事になる。

 目新しさで客を呼び込めたとしても、必要以上に値段が高くなれば客足が鈍る。

 結局に所、容器に詰める作業が増えた上に利益を減らすリスクも(ともな)う事に成り得た。


「それなら切り分けた物を、串焼きのように刺して販売するのはどうですか?」


 ルネが、ハツカが懸念した問題点の解決策を提案する。

 シロウ達の頭に、串を持った時に断面が見える卵焼きが連なっている様子が浮かんだ。

 それは単純明快ではあったが、シロウ達からすれば盲点だった。


「なるほど、爪楊枝(つまようじ)で刺して食べる感覚の延長線と考えれば有りだな」

「ただ、卵焼きを刺した場合、崩れ落ちそうです。それに一本分は刺せないでしょう」

「ハツカさん、それなら一切れ単位で販売すれば良いと思います」

「一切れの大きさを統一出来るのであれば可能ですが、それは難しいのでは?」

「そこはペーパーカッターようなガイドラインとなる定規を使えば良いだろ」

「なるほど、それなら両端の切り落としはサンドイッチの具材に回せば……」


「「あっ!」」


 そこでシロウとハツカは気づいた。


「それならパンケーキを皿の代わりにしたセット販売で良いじゃないか!」


「あっ、なるほど、それなら全部食べられて、ゴミも出ませんね、シロさん」


「材料費も、ゆで卵とサンドイッチを一緒に売った場合と大して変わりませんね」


「卵焼きの出来や切り分けも気にしなくて済む。両端の部分も横に添えれば良いよな」


「少しだけ調理の難易度を下げられ、オマケ感が加わりますね」


「そして普通に、値段を少し高く設定しても文句は言われないだろう」


「それにしても、抱き合わせでパンも一緒に売ろうとするとは、シロウはあくどいです」


「おい、ちょっと待て、それに気づいたのはハツカも同じだったよな?」


「さぁ、なんの事でしょう」


「ちょっと二人とも、分からない言葉を使ったりして急に通じ合うのはズルイです」


 エレナの目の前で、冒険者達が目まぐるしく状況を変化させていった。


 当初エレナは、今までと少しだけ変えたいと思っていた程度のつもりでいた。

 それは孤児院を運営する為に、市場などでの出店による収入が必要だったからである。

 しかし、その収入は毎回減少傾向にあった。

 ゆえに、三年に一度訪れる武術祭で、がんばって少しでも良くしたいと思っていた。


 そんな時に、朝食にもたらされた見慣れない卵の料理と出合った。

 エレナは、うっすらと浮かび上がっている黄金の年輪に目を奪われる。

 今まで見た事の無い不思議な姿をした料理は、口に入れると簡単に、ほぐれていく。

 そして卵とは思えない甘味が口の中に広がってきた。


「これはっ! 卵の料理に砂糖ですか!」


 エレナの常識が崩される。

 ゆで卵に目玉焼き、スクランブルエッグ。そのどれもが塩分による味付けだった。

 卵はクッキーなどで、繋ぎとして使われた場合に砂糖と組み合わされる事はあった。

 しかし、この甘い卵の料理は、砂糖との単純な組み合わせも正解だと主張している。

 それは目の前で大喜びしている子供達も証明していた。


 そして、なぜか二つに分けられていた、もう一つの大皿の料理を口に入れて再び驚く。

 こちらは、今まで通りの塩味の物だった。

 しかし、シンプルではあるが、他の卵の料理とは違った味わいを持っていた。


 子供達は食べる手が止まらなくなる。

 二つの大皿に伸ばされた手が止まったのは、料理が消失した時。

 そこで初めて自分達の満腹感に気づかされる事となる。

 ただ同時に、一度に食べてしまった事による喪失感の方が大きかったようだ。

 なぜか、お腹を膨らませながら絶望感を漂わせている子供の姿も出てくる。

 卵焼きは、栄養価の高い料理であった。

 しかし、甘味と塩味と言う二種類が同時に存在した事が問題を起していた。

 恐るべき中毒性と依存性を発揮したのである。


 見かねたファロスが、卵料理のお礼を兼ねた頼み事をしに行ってくれる運びとなる。

 人見知りを(わずら)わせていた子供達も、わずかな理性を保ちつつゾンビの如く付いく。

 朝食の後、後片付けをしていたエレナが、その知らせを聞いて慌てて後を追った。

 子供達が失礼な事をしては大変だ、と。

 その時に出会い、頼る言葉を伝えれなかった者達が、いま親身になってくれている。

 エレナは、これが運命の女神様の導きなのだろうと感謝の気持ちで満たされていた。


「う~ん、でもこれは計画倒れになりそうなので、この依頼は辞退します」


「「なぜです!」」


 シロウの言葉に反応して声を揃えたのはエレナとルネ。


 エレナに関しては、急な運命の転換に対する女神様への訴え掛けも含まれていた。

 

「やっぱり、パン皿一個に対して卵焼き一本だとバランスが悪い」

「そして、子供が作った卵焼きだと串に刺した時に崩れて、落ちる可能性が高いかと」

「あとは、先行量産してストックしておくにしても、保管方法や場所の問題がある」

「そうですね、食べた人が、お腹を壊しては問題になります」

「それに卵焼きは卵の消費が激しい。材料があっという間に底を尽きるぞ」

「この環境下だと、調理時の火加減の調整も難しいです。普通に難易度が高い料理です」


 シロウとハツカが問題点を次々と挙げていった。


「シロさんもハツカさんも、なんでですか、やりましょうよ」

「協力出来る事なら、なんでもします。どうか助けると思って協力して下さい」


 ルネとエレナが必死に懇願するも、具体的な解決策は出てこない。

 ただただ神頼みをするのみであった。

 仕方が無いので、シロウは問題の解決の為に改善点を模索する。


「まずは卵の賞味期限の問題だよな」


「スーパーなどで売られているニワトリの卵は常温保存です。実はそれなりに持ちます」


「そうなのか?」


「25度以上の夏場でも、産卵後二週間が消費期限の目安にされていたと思います」


「あ~、そう言えば母親が、放し飼いされた動物園のニワトリの卵を拾った事があった」


「いきなり、なんの話ですか?」


「いや、結局ポケットに入れたまま持ち帰ってしまって普通に料理して食べてたな、と」


「あなたの母親は何をやっているんですか?」


「ちなみに田舎のじいさんの所で、雑種のイヌを飼っていたんだけど……」


「いえ、そんな話は聞いていません」


「山に散歩に連れて行って逃げられたと思ったら、キジを捕まえて戻って来たんだよ」


「……それで?」


「つまり、桃太郎に出てくるお供は、みんなイヌと仲が悪いって事じゃないか!」


「確かに犬猿の仲と言う言葉もありますが、そんな事は知りません」


「あっ、ちなみにキジは、肉屋に持ち込んで(さば)いてもらったのを俺以外で食べてた」


「どうでもいいです、話を戻しますよ」


「大人しく聞いていれば、なんなんですか! 二人にしか分からないお話は禁止です!」


「とにかく、いま教会にある卵は全て使えると言う事で良いのでしょうか?」


 シロウが、完全にモチベーションと集中力を欠いた事で、場がカオスと化した。

 そこで一旦休憩を取ってから、再度話し合いの場を持つ事にする。

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