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200.置き土産

「ネコ殿、上だ! 気を付けろ!」


 逡巡(しゅんじゅん)したベスをイグナスの声が現実に引き戻す。


【ドサッ!】


 イグナスの声に反応したベスは、突如、上空から襲って来た人影を避けて難を(のが)れる。

 そして、上空から飛び掛かって来た襲撃者を警戒して短剣を構えた。

 だが、ベスを狙って飛び掛かって来た人影が、以降、動きを見せる事は無かった。

 なぜなら、それはすでに息を引き取った伍分厘(ゴブリン)の成れの果てだった。


 伍分厘(ゴブリン)の集団に襲い掛かり、舞い戻って来た大荒鷲(ウィングラプター)

 その(さら)って来た伍分厘(ゴブリン)を、まるで壊れたオモチャのように振り回して(あつか)う。

 それがベスを襲った襲撃者であり、肉弾として扱われた物の正体だった。

 その置き土産(みやげ)の正体を知って、おぞましい未来が頭を()ぎる。

 もし、それが見知った者であったなら、と言う考えが、否応なく精神(こころ)(えぐ)る。

 それは、近くにいたハツカにも同様の影響を与えた。

 そして、そうなった時に、そこに身を置く事になるのは、戦闘経験の(とぼ)しい者。

 つまり、ダーハやルネが、その対象になる可能性が非常に高かった。


「巨人を(しの)ぐだけなら問題ありません。ルネの事を頼みます」

「正直、(しの)ぐのも厳しい相手だが、それゆえ退路の確保は重要。行くが良い」


 ベスの気掛かりに反して、ハツカ達はマサトに異を唱える事無く、むしろ(うなが)す。

 余計なわだかまりを(かか)えられずに済むのであれば、ベスとしても後顧(こうこ)(うれ)いは無い。

 ベスは、大荒鷲(ウィングラプター)の介入で分断されたサントス達の援護に回る事を、ここで決める。


 ただ、そこでベスは、一考したのちマサトに視線を送る。

 それは、ガブリエルを連れて行く事の意味を、マサトに再確認するものだった。

 ベスの視線の意味を受け留めたマサトは、その意図を汲み取り、(うなず)いて(こた)える。


「(ふむ、それほど向こうの方が状況が悪い可能性を見ている、って事かにゃ)」


 ベスは、マサトが(みずか)ら苦しい選択をした意図を察する。

 そして同時に、行った先での判断を任された事を確認した。


「なら遠慮なくいかせてもらうにゃ」『隠伏(ハイド)


 そう言うとベスは、噛砕巨人(ギガントゥース)の視界から姿を消した。


 突如、視界からベスの姿を消えた事で、噛砕巨人(ギガントゥース)が標的を探して視線を彷徨(さまよ)わせる。

 しかし、噛砕巨人(ギガントゥース)は、その巨躯ゆえの死角も多い。

 そして、一度見失ったベスを噛砕巨人(ギガントゥース)が捉える事は困難だった。


【ドガッ!】


 完全にベスを見失った噛砕巨人(ギガントゥース)の脚に衝撃が伝わる。

 そこで噛砕巨人(ギガントゥース)は、足下に別の存在がいた事を再確認した。


「逃げた魚ばかりを追い駆けていては、足下(あしもと)のコケに足を(すく)われるぞ」

「そこは逃げたネコなのでは?」


 それは、巨木を叩いたような衝撃を受けるイグナスとツッコミを入れるハツカだった。


「さて、ネコ殿に無事に務めを果たしてもらう為にも、気合を入れねばな」

「人手が減った分、アナタにもしっかり働いてもらいます」


 イグナスの一撃で体勢を崩した噛砕巨人(ギガントゥース)の腕をハツカが菟糸(とし)で拘束する。

 

【グォーーーッ!】


 噛砕巨人(ギガントゥース)は咆哮を上げ、地面から伸びた菟糸の拘束を力尽くで破ろうとする。

 それをハツカは無理に力で対抗せず、菟糸の射程距離が許す限り伸ばして受け流す。


 いままでのような強固な拘束力頼みでは通用しない、と悟ったハツカの操鎖。

 それは、菟糸の破壊によるダメージを回避する事。

 力で勝る相手の動きを長く阻害する事を第一とする事。

 その二点を重視して、押し相撲で相手の力を受け流すようにして体勢を崩させる。


 ただし、それを実行するには菟糸の射程距離に余裕を持たせておく必要がある。

 その為、ハツカは噛砕巨人(ギガントゥース)の一部にのみにしか菟糸を絡められない事となる。

 結果、噛砕巨人(ギガントゥース)の片手か片足しか捉えておく事が出来ない状態。

 ハツカは、菟糸の複数展開を封じての戦いを余儀なくされる。

 それは、ハツカの攻防の選択肢を狭め、敵に付け入るスキを与える事にも繋がる。

 しかし、いまのハツカには、それが必ずしも不利には働かない。


【ザシュッ!】


 なぜなら、現状のハツカが、攻撃に菟糸を使う必要性は低かった。

 ハツカが噛砕巨人(ギガントゥース)の態勢を崩すと、そこに別の攻撃役(アタッカー)が刃を振り下ろす。


「ウキャキャキャキャ、いままでの鬱憤(うっぷん)晴らしにゃ」


 ただし、それはハツカが思っていた相手ではなかったが……


「ネコ殿、まだいたのか!」

「アナタは、こんな所で何をしているのです!」


 イグナスとハツカは、援護に行ったと思ったベスが巨人に一撃を入れた事を非難する。


「いや、だから『遠慮なくいかせてもらう』って言ったにゃ」

「アレは、そう言う意味だったのか?」

「どう聞いても、ルネ達の援護に回る、と言う意味でしょう」

「え~、でも、私も一発くらい意趣(いしゅ)返ししておかないと気が済まなかったにゃ」


 ベスは、その為だけに姿を隠し、虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた、と悪びれも無く言った。


「あ~、ベスにゃんって、そう言う所があるよねぇ」

「ベス……もう気が済んだだろ。本当にダーハ達の援護に向かってくれ」

「オーケーにゃ。駄犬、付いて来るにゃ」

「ワウッ!」


 ベスの行動にハルナが(あき)れ、マサトもハツカ達に悪いと感じながらベスに懇願した。

 そこでようやく、ベスの気が晴れてチワワ獣(ガブリエル)を連れて離脱する。


 戦闘中に訪れた一時の弛緩(しかん)

 それは本来、高まった集中力を欠かせ、戦闘の流れの機微を(さっ)する能力を低下させる。

 しかし、人間の集中力とは長くは続かず、緊張状態が長く続けば疲労が加速する。

 それが、ベスの暴走によって、一度落ちた事で気持ちの立て直しがされた。

 すると、いままで見えなかったものが見えて来る。


「ウォリャーーーッ!」


 イグナスが、気合を込めた槍斧(ハルバード)を叩き込む。

 その一撃が、ベスが噛砕巨人(ギガントゥース)の脚に刻み込んだ斬撃痕に十字となって重る。

 イグナスの手には、相変わらず巨木を叩いたような衝撃が跳ね返った。

 だが、問題は、そこではない。

 重量武器であるイグナスの槍斧(ハルバード)が叩き込んだ斬撃。

 その一撃より、ベスの軽量である短剣が刻み込んでいった一撃の方が深いかった点。


 ベスの短剣は、転移者が持つ宝剣の一種である。

 その威力は、並みの武具を凌駕する性能を持っていた。

 しかしながら、物は、あくまで短剣である。

 それが、重量武器である槍斧(ハルバード)より深く刻み込み、大ダメージを与えている。

 それは、至難の(わざ)であり、異常な出来事。

 そして何より、あの一撃以外の斬撃痕は、遥かに浅く刻まれたものばかりだった。


 その事からベスが最後に放った一撃とは、それまでのものとは異なるもの。

 何かしらの技を使った一撃だったのだと、イグナスも察する事が出来た。

 そしてそれは、いまも噛砕巨人(ギガントゥース)の動きを鈍らせる要因となっていた。


「(ネコ殿のアレは、ワレらへの助力の一撃であったか)」


 イグナスは、その置き土産(みやげ)から、ベスの行動の真意と技量を察して、いたく感動する。

 だが、それはイグナスの過大評価であったかもしれない。

 実際は、本当にベスが気まぐれと腹いせが目的で、やり返した可能性が大いにあった。

 結局、その真意は、ベスにしか分からない事。

 しかし、イグナスは自分を基準として、好意的にベスの行動を捉える。

 そして、大荒鷲(ウィングラプター)追跡時に見せた実力の事もあり、畏敬(いけい)の念を(いだ)いたのであった。

200話まで読んでいただき、ありがとうございます。


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