197.人間の特殊能力
「ルネに、あんな事をさせて、どうするつもりです!」
サントスは、まさかルネを囮にするつもりか、とバンテージに詰め寄る。
「いまは、反撃が返って来る事も、覚悟も出来ている。自分の事に集中しろ」
しかし、バンテージは、逆にサントスを嗜め、ルネの行動に理解を示した。
そのバンテージの先見の通り、ルネは伍分厘からの反撃の投石を盾で防ぐ。
そして、そこからルネは、伍分厘に投石を当て返していった。
「グバァ!」
ルネの投石は、思いのほか伍分厘を捉え、周囲に怒号が響く。
決して威力が高い訳ではないルネの投擲攻撃。
少しでも、サントス達を援護が出来れば、と試みたルネの抵抗。
それが伍分厘の不快と負傷を確実に蓄積させていく。
ルネの行動は、伍分厘に、敵にも投石手がいる事を強く印象付け、警戒させる。
伍分厘は、いままで気も留めなかった攻撃に注意せざるを得なくなり、攻撃が雑になる。
それは、これまでサントス達が、一方的に負わされていた不利そのものだった。
そして、これを機に状況が変わっていく。
ルネの投石は、威力こそ伍分厘に及ばないが、その命中精度は遥かに高かった。
それは投石攻撃が、人間のみが持つとされる特殊攻撃である事に起因している。
哺乳類である動物の中で、足が速いもの、と言われれば何を思いつくだろうか?
多くの者は、その答えをチーターやライオンと答えるであろう。
ならば、跳躍が得意なもの、力が強いものは何か?
その答えに、カンガルーやゴリラを想像する者が多いと思われる。
では、投げる、と言う事を得意とするものは何か?
こう聞かれた時、人はサルをイメージする者が多い。
しかし、哺乳類と言う分類の中で、最も投げる動作を得意としているのは人間であった。
サルと人間との大きな違いは、四足歩行と二足歩行。
サルを含めた四足歩行の動物は、腕や前足を下から上にしか上げる事が出来ない。
対して、二足歩行である人間は、腕を後ろに回して上にあげ、振り下ろす事が出来る。
前者は、犬のお手の動作や、泳ぐ時の犬かきの動作。
後者は、野球のピッチャーが、大きく振りかぶって投げる投球のイメージである。
これらの違いは、それぞれの肩甲骨の構造の違いによる肩の可動域の相違によるもの。
サルは、サルカニ合戦のような物語にあるように、確かに物を投げるイメージがある。
しかし、その投げる動作は、犬がお手をした後、前足を降ろす動作と変わりはない。
手の力だけで投げる、手投げ、と呼ばれる動作な為、大して飛距離も威力も伴わない。
それに対して人間は、腕を後ろに引き、勢いを付ける予備動作を入れる事が出来た。
それは手や腕の力だけではなく、全身を撓らせて更に威力を乗せる事が出来る機能。
この機能を有している事で人間は、投擲の精度も向上させる。
つまり人類は、生物としての決定的な性能差によって、投擲の技能を獲得している。
これが、投擲攻撃が人間特有の特殊攻撃、と言われる所以であった。
「エイッ!」
ルネの投擲攻撃が、一つ、また一つと伍分厘に命中する。
基本的な身体能力の差によって、魔物である伍分厘にルネの攻撃は、大して効かない。
だが、だからと言って、それが無視出来るものであるかと言われれば、そうではない。
「グバァ!」
「ギィギャ、ゲマン、ググルゥ!」
伍分厘の注目は、自ずとルネに集まり、捌け口の対象へと定められる。
ルネに向かって、伍分厘の投石手の投石が集中する。
だが、ルネには、いままで攻撃対象となっていたサントス達とは一つ大きな違いがあった。
それは、ルネが投石を防げる盾を所有し、空いていた右手での投石で反撃が可能な所。
五人の中で唯一、両手が武器で塞がれておらず、投石に専念が出来る位置にいるのがルネ。
そのルネが、先のバンテージの制止の前に見せた投石の一投。
それは、決して戦力にならないものではない、とバンテージに示していた。
ゆえにバンテージは、自衛と投擲の併用が可能であると分かると戦力に組み込んだ。
そこには、ルネの投擲で敵を倒せる、と言う期待は無い。
あったのは、敵の気を散漫にさせ、同時に投石の打撃で体力を少しでも消耗させる事。
だが、そこに一つ、良い意味で大きな誤算があった。
ルネの投擲は、もともと子供の頃からの遊びで身に着けたものだった。
そして、武器にスタッフスリングを選んだのも、その延長線上での選択。
ただ、この武器選びが、ルネに一つの能力を開花させていた。
それが、目測による空間把握能力。
ルネは後方にいながら、常に仲間達の戦いを見守って来た。
一見して何もしていない、と自虐していた戦いの中のルネ。
しかし、ルネの周りにはハツカやコウヤと言った中遠距離の間合いで戦う者達がいた。
それが、ルネが直接戦わずとも彼らを観ていた事で、空間把握能力の向上をもたらす。
そして現在、伍分厘の投石手に対抗する形で、ルネの能力が表面化した。
正確な目測による空間把握能力が、ルネの投擲の命中精度を高いレベルで安定させる。
高確率で命中する投石手は、敵に自分が常に捕捉されている事を意識させる。
ルネの投石は、伍分厘も認識している通り、威力が低い。
しかし、そうとは言え、いつ致命的な一撃を撃ち込まれるか分からない不安を意識させる。
そこまで意識をさせる事が出来得るルネの投擲は、十分に牽制として使えた。
ゆえにバンテージは、現在のルネを正しく評価し、戦力に数えている。
しかし──
「サゲマン、ビィッジ!」
「サゲマン!」
「ギィギャ、ガデスト!」
「ファ、クキィン」
「ギィギャ、ド、ゲス!」
「バンテージ、伍分厘がルネを罵って標的にしているのを、どうするつもりですか!」
「……さすがに、あの渦中に置いておくのはキツイか」
伍分厘語を正確に理解していないまでも、その口汚さにサントスがキレる。
そして、その渦中に放り込んだバンテージを責め、彼自身も後ろめたさを感じる。
「いえ、大丈夫です」
だが、ルネは、伍分厘の言葉の何がヒドイのかを理解していないので気にも留めない。
むしろバンテージが止めず、役割を任された事で、心に満たされるものを感じていた。
そのルネが感じているバンテージからの評価は、決して思い込みや間違いではない。
バンテージは、サントスと意見を衝突させているが、ルネを、そのまま放置もしない。
二人は共に、ルネへの接近を試みる伍分厘を最優先で撃退していく。
両陣営が投石手を揃えた事で、一方的な投石攻勢が終わる。
そこまではサントスも予想が出来ていた戦局の推移であった。
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