194.棒術
次話の投稿は7/4の07:00にします。
楽しみにしていただいている読み手の方々には、大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。
体調不良の為、横になっていたら、起きたら定時にしていた投稿時間が過ぎていました。
誤字脱字と文章の修正をして翌朝に投稿したいと思います。
サントスに対してバンテージは、まともに狙えない刺突攻撃を早々に放棄する。
そして代わりに、長尺の柄を利用して棍のように振り回して叩きつけていた。
それは、刺突のような点の攻撃ではなく線の攻撃。
槍先の殺傷能力を得られない代わりに、容易に当てられる方法を選択した打撃攻撃。
バンテージはルネを先に下がらせ、後退しながら、槍の撓りを利用して叩き付ける。
そして、三発目が叩き込まれた時、伍分厘は力なく崩れ落ち、地面に倒れ込んだ。
道具の誕生と同時に生まれた最も古い武器──
暴力性や野蛮性の象徴とされる武器が『棍棒』
その原始的な打撃武器は、棒術や杖術、棍やトンファーと言った形で進化を続けた。
そして、この系譜の中には、槍術も含まれている。
戦争時に運用される槍兵は、隊列を組んで一斉に突き掛かって敵の突撃を防ぐ。
そう言ったイメージを多くの者は持つ。
しかし、それを実行した所で、大して敵を討ち取る事など出来はしない。
先にも述べたように、槍先は撓るもの。
狙いが定まらない刺突攻撃が、防具で身を固めた敵を一撃で倒す事など、まず無い。
加えて、長い槍の間隙を抜けられると、隣の味方が邪魔になって取り回しが効かない。
これが、長物の武器が懐に入られると弱い、と言われる由縁である。
ならば槍兵は、戦場では活躍が出来ない兵種なのか、と言われれば、それは違う。
なぜならば、槍兵とは戦場の主力戦力。
槍先を敵に向けた状態での隊列とは、敵を待ち構え、足を鈍らせる為の防御の布陣。
だが、ひとたび槍を高々と掲げれば、それは恐るべき攻撃の布陣へと変貌する。
それは、単に敵を威圧しているだけのものではない。
突撃して来た敵に向かって、一斉に振り下ろされる槍とは、面での攻撃。
頭上から板が倒れ込んで来るような攻撃は、確実に敵を捉え、叩き込つける。
その攻撃が、二発、三発と叩き込まれれば、防具を着けた者もフラフラとなる。
そうなってしまえば、槍兵はトドメを刺す為の短剣を使って、敵を仕留める。
敵がフラフラになるのは、その攻撃が、防具を貫通する衝撃ダメージである為。
投擲攻撃と同様に、表面上には確認されにくい身体の芯まで届く蓄積ダメージ。
その威力は、見た目以上に確実に敵を蝕み、体力を奪う。
これが、バンテージが伍分厘に仕掛けていた攻撃の正体だった。
バンテージはルネに守りを固めさせ、ディゼ達の動向を把握させている間に場を制す。
全ての敵を仕留めて回れる訳ではない以上、時間を掛けて周囲の戦力を削ぐ。
ルネでも攻撃を防げるように、伍分厘達の体力を奪い、足腰を立たせなくさせる。
一撃を入れては後退し、倒す事に固執しない。
追撃を鈍らせ、逃げられる確率を積み上げていく。
長々と同じ敵の相手が出来ない以上、数回に分けて戦力を削いでいく。
それは、トンファーにしろ槍にしろ、打撃の有効性を知る彼だからこその仕事だった。
わずかな時間ののちにルネへと迫った伍分厘。
だが、その動きは、目に見えて疲弊し、力を失っていた。
ここまでくると、さすがにルネでも簡単に撃退が出来る衰弱状態。
いや、むしろ、そこまで弱った相手だからこそバンテージに見逃された、と言えた。
ルネは、構えた杖を振り下ろして伍分厘を倒す。
嫌な感触が手を伝い、倒れた伍分厘を見下ろす。
思いのほかアッサリと倒れ、動かなくなった伍分厘。
ルネは、再び立ち上がるか、と不安になる。
だが、その伍分厘が、再び起き上がってくる事は無かった。
「次が来るぞ。ボーっとするな」
「は、はい」
バンテージの声で、いま間違いなく伍分厘を仕留めたのだと知らされる。
伍分厘を倒したのはルネだったが、それは全てバンテージの御膳立てがあっての事。
バンテージがしていた事の結果を見せられて、さすがにルネも彼の考えに気づく。
最初にバンテージが、ルネの攻撃を止め、ディゼ達の動向把握に専念させた事。
それは、伍分厘に不用意なルネへの敵愾心を抱かせない為のもの。
この状況を作り出す為に、バンテージは自身に伍分厘の敵意を集めて戦っていた。
だが、そこに、そうとは知らないルネが、伍分厘へ投擲攻撃を仕掛けた。
ルネはバンテージを援護したつもりだったが、それは彼の意図から掛け離れたもの。
伍分厘を疲弊させている段階で、敵意がバンテージから反れる事。
それは、バンテージが伍分厘を追い駆けて戦闘に持ち込む状況を必要とする。
そうなると余計な体力を使う事になり、伍分厘よりも先に体力が尽きてしまう。
それでは、仕掛けが十分に機能する前に、伍分厘に力で押し切られる可能性があった。




