191.伍分厘語
【ギィギャ!】【ギャッ】【ギャッ】【ギャッ】【ギャッ!】
五グループの伍分厘の集団が、一斉に騒ぎ出した。
【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガンッ!】
伍分厘の奇声とディゼの鞘盾を打ち付ける金属音が辺りに響き渡る。
鞘盾の影で守られるダーハ達。その間近を無数の投石が通り過ぎる。
それは、人類特有の特殊攻撃と言える投擲攻撃。
さほど筋力が要らず、修得が容易な為、古来より準主力とされた攻撃手段。
それを魔物である伍分厘が、足下の石を手に取て繰り出してきた。
たかが石ツブテ。されど石ツブテ。
そこで生じる衝撃力は、金属鎧越しであろうとも確実にダメージを与えて体力を削る。
シンプルであるがゆえ、数の暴力が可能で、対応が困難となる先制攻撃。
その攻撃は、下手に石弾魔法の使い手を揃えるよりも容易で、強力な即戦力となる。
ディゼは、最初にパーティから突出し、投石の注意を一身に引き付る。
その後ろでは、ルネも盾を構えてダーハとサントスを防御する。
二枚の盾で投石を防ぎ、ダーハとサントスが狐火と弓銃で反撃する。
しかし、数で優位にある伍分厘の投石は完全には防げない。
致命的な一撃は盾で防げても、範囲外に出た足や肩への被弾は防げず体力が削られる。
その代償として数匹の伍分厘を仕留めるも、攻撃は一向に衰えない。
さらに中には、異常に卓越したコントロールと剛球の持ち主が二体いた。
その伍分厘達が、攻撃役であるサントスとダーハを狙い撃ちする。
そんな中、二体の投擲手の周囲が急に騒々しくなっていった。
「ギィギャ! ギィギャザ、ギャッ!」
「ガッ、バグ! ギィギャ……」
「ルノヴァ!」
「グギュ、ルノヴァ?」
「サルノヴァ、ビィッジ!」
サントス達の風下に位置した伍分厘の瞳が、これまで以上の怪しい輝きを宿す。
「グギャギャ、ヴィグ!」
「「「「サルノヴァ、ビィッジ! サルノヴァ、ビィッジ!」」」」
サントスのニオイに反応した伍分厘達が、下腹部に第三のツノを生やす。
ギラついた眼光と謎の大合唱を向けられたサントスは、その異常な行動に気圧される。
そんな伍分厘とサントスの様子を見て、バンテージは不思議に思う。
目の前にいる伍分厘達は、明らかにサントスの事を見て大興奮していた。
その対象が、女性のルネやダーハだったなら、伍分厘が興奮している理由も分かる。
しかし、伍分厘達は、なぜか男性のサントスに異様に興奮して罵声を浴びせていた。
ゆえにバンテージは、この奇妙な状況が分からず、率直にサントスに訊ねた。
「オイ、アイツらは、なんでオマエの事を見て悪口を言ってるんだ?」
「えっ? アナタは、伍分厘が言ってる事が分かるんですか?」
「ああ、一部だが分かったぞ」
「それは本当ですか?」
「バンテージさん、スゴイのです!」
「それでバンテージさん、あの伍分厘達は、なんと言っているんですか?」
バンテージが、伍分厘の言葉が分かる事を告げると、サントスが驚いて訊ね返す。
するとバンテージは、不思議そうな様子で、一部分だが分かった、と答える。
それを聞いたディゼも驚きを表し、ダーハも関心を示す。
そしてルネが、その内容について率直に訊ねた。
「え~と……『オマエのかーちゃん、で~べそ!』って言ってたぞ」
【なんですってぇ!】
バンテージは、かなり抑えた表現で答えたのだが、サントスは大激怒した。
海外ドラマや映画などで、使われている口汚い言葉。
そこでは『クソったれ!』くらいの意味で使われている。
しかし、銃社会の中で、ふざけて使おうものなら、銃殺されても仕方がない言葉。
その言葉とは『メス犬の息子』
要するに、尻軽女や性格の悪い女性の子供、と言う意味の言葉である。
それは本人を含め、家族をも侮辱する最大最悪の暴言であった。
エルフの母親と人間の父親を持つハーフエルフのサンディ。
その父親は、ハツカ達よりも以前に、この世界に現れた転移者であった。
「お母様とお父様の純愛を侮辱するとは……絶対に許しません!」
厳しくも優しい母親と、冒険者として尊敬している父親。
サンディは、自身の出生を誇りに思い、父親の冒険者仲間達の事も尊敬している。
そんなサンディは、幼い頃から父親の友人達からも、多くの話を聞かされていた。
その中には、冒険者として役に立つ知識や武芸についての話。
父親が割り込んで来て、友人を殴り飛ばした下世話な話も含まれていた。
そんな話の中に、バンテージが聞き取って翻訳した言葉があった。
ゆえに、この場にいる者で、唯一サンディだけが、その言葉の意味を正しく理解した。
「(よくも、お母様の事を『娼婦』呼ばわりしてくれましたね!)」
冒険者をしていた頃の父親の事を母親から聞かされていたサンディ。
共に冒険者をしていたのなら、そこには美談では済まされない事もあっただろう。
しかし、その事をサンディが、母親から聞かされる事は無かった。
ゆえに、サンディの中にあるのは、両親の古き良き思い出のみ。
そこに、どのような影があったとしても、それはサンディの預かり知らぬ過去。
サンディも、すでに冒険者となって、いくらかの時間を過ごしている。
ゆえに、母親が語った冒険譚が全てでは無い事も理解していた。
しかし、だからと言って、謂れのない侮辱を見逃してやる事など出来はしなかった。
サンディは、冒険者となる際に、父親の友人から譲り受けた収納外套に手を掛ける。
そして、次々と取り出した弓銃による換装連射で、伍分厘に矢弾の雨をぶち込んだ。
「サルノヴァ、ビィッジ、サルノヴァ、ビィッジ!」
「ファ、クキィン、ファ、クキィン!」
「オイ、ヤツら今度は『クソ野郎』って叫び始めたぞ」
「いまのは、自分にも分かりました。実に不愉快な連中です!」
伍分厘は、バンテージの誤翻訳によって、再び謂れのない濡れ衣を着せられる。
しかし、その翻訳は、あながち間違いでもなかった。
サントスの事を、クソ野郎と罵りながら、第三のツノを滾らせる伍分厘。
その異常行動に理解が追いつかないバンテージは、伍分厘への警戒を強める。
対して、サントスの正体を知っているディゼ、ダーハ、ルネはと言うと──
「「「(コレ、伍分厘は、サントスさんの事に気づいているんじゃ……)」」」
むしろ真相に辿り着き、正しい意味で、女性陣の身の危険を感じ取っていた。
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