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182.蜥蜴人と包帯男

 ◇◇◇◇◇ 


 道行く商隊に飛び込みで雇ってもらった蜥蜴人(リザードマン)

 本来なら、このような怪しい者を護衛として雇おうと思う者はいない。

 しかしながら、彼の背には連れがいた。

 全身の(いた)る所が包帯で巻かれ、薬草のキツいニオイを(ただよ)わせた人間の男性。

 そのような者を連れていた為、商隊の元締めであるスクラは、彼らを受け入れた。

 そして、商隊は予定どおり国境の街へと向かい、そこまで彼らを同行させた。


 商隊は、無事に国境の街に辿り着くと、旅客や物資、そして蜥蜴人(リザードマン)達を降ろす。

 そこからスクラは、五日後に向かう狩猟都市へ向けての仕入れと補給を(おこな)っていった。


 この間に商隊は、新たに不足した臨時の人員の補充を掛ける。

 いつも通りに冒険者ギルドへ(おもむ)き、護衛依頼を出して冒険者を(つの)る。

 しかし、今回は、なぜだか人員が思うように集まらなかった。


 つい先日、盛大な(にぎ)わいの下、武術祭が閉会した。

 その終焉と共に、多くの冒険者達が()()りに活動拠点に戻って行った。

 その為、主だって護衛依頼を受けようとする者が減少している事は想像が付く。

 しかし、それにしても、ここまで冒険者が集まらない状況は、いままで無かった。

 スクラは、どうしたものか、と思い悩む。


 この時、スクラが知らされていない所で、ギルドは冒険者の移動に制限を掛けていた。

 それは当時、街中で冒険者ギルドが大掛かりな人狼種(ワーウルフ)討伐の為の捜索を掛けていた為。

 これにより冒険者が依頼で街から出ても、必ず街に戻るようにして管理していた。

 ゆえに、疑いの晴れた者にしか護衛依頼は回されず、人員が慢性的に不足していた。


 そのような背景を知らないスクラは、護衛の冒険者の確保に苦心する。

 そのような時、先日、街まで送り届けた蜥蜴人(リザードマン)が、礼を伝えに来た。

 そして、そのついでにと、狩猟都市までの乗車券の手配を願い出て来た。

 スクラは、偉丈夫(いじょうぶ)蜥蜴人(リザードマン)を見て、冒険者なのであれば雇いたい、と申し入れる。

 すると蜥蜴人(リザードマン)は、自分は冒険者だ、と答えた。

 しかし、冒険者ギルドが、自分に護衛依頼の許可を出せない、と言われた事を告げる。

 そこで蜥蜴人(リザードマン)は、普通に客として馬車で移動する事を選択をしたのだと伝えた。

 スクラは、蜥蜴人(リザードマン)とケガから回復した連れの乗車券を頼まれて一考する。


 冒険者ギルドは、蜥蜴人(リザードマン)達に対して何かしらの問題点がある、と考えている。

 ゆえに、護衛依頼を回せない、と判断したのだろう。

 だが、その事を蜥蜴人(リザードマン)は、全く隠す素振りがない。

 つまり、そこには蜥蜴人(リザードマン)の誠実さがあった。


「それでしたら護衛ではなく、道中の雑事の手伝いとして、あなた達を雇いましょう」

「ふむ、だが連れは体調が良くない。無理はさせられぬゆえ、ワレだけで構わぬか?」

「はい、では、そう言う事にいたしましょう」


 スクラは、屈強な体格をしている蜥蜴人(リザードマン)を見て、十分に満足する。

 少なくとも彼がいてくれるなら、その容姿だけで盗賊の(たぐい)への牽制になる。

 そして、いざ魔物に襲撃されたとしても、駆け出しの冒険者よりも遥かに頼りになる。


 なぜなら、蜥蜴人(リザードマン)の首に掛けられているのは、白金(プラチナ)認識票(プレート)

 それは、護衛依頼を達成すれば認められる銀鉱石(シルバー)認識票(プレート)の二つ上のランク。

 そんな蜥蜴人(リザードマン)が、冒険者ギルドから護衛依頼を受けられなかった理由は分からない。

 しかしながら、その誠実さと、まごう事なき冒険者の実力証明(プレート)をスクラは買った。

 こうして蜥蜴人(リザードマン)のイグナスは、連れの男の希望を叶えて狩猟都市への足を確保した。


 ◇◇◇◇◇


 蜥蜴人(イグナス)は、水汲みを終えると商隊の元締めのスクラに誘われて休憩に入る。

 旅客達も手足を伸ばし、この時間を使って小腹を満たす事に()てる。

 イグナスは、ある意味、その鍛えられた体躯で良い意味で注目を浴びる。

 対して包帯男(バンテージ)は、時折(のぞ)かせる不穏な見た目で人々を敬遠させていた。

 その為、バンテージは元の馬車に戻り、片隅で一人静かに休憩をに入る。


「ヌシよ、ここに居たか。ホレ、これでも食っておれ」

「オレンジか、すまないな。だけど雇い主様のご機嫌を取っていなくて良いのか?」

「構わぬ。ヌシはワレの命の恩人。ならば、その願いの一つくらい返させよ」


 イグナスは、フード付きのコートで包帯姿を隠しているバンテージの下へと戻る。

 そして、差し出した果実を渡して隣に座った。


「オッサン、大袈裟だなぁ。たかが川で溺れていたのを助けただけだろ?」

「いくら不覚を取った後とは言え、蜥蜴人(リザードマン)が川で溺死では、後世までの(はじ)であったわ」

「引き上げたあとは、俺の方が、ぶっ倒れたんだから、お互い様のように思えるけど?」

「何を言うか、それは(すなわ)ち、自らの命を掛けた証。その恩を返さずして何が戦士か」

「うわぁ、重いわぁ。俺は、もう十分に貸しを返してもらってるんだけどなぁ……」


 バンテージは、イグナスに助けられている事に感謝をしている。

 だが、同じく助けられた、と言うイグナスの想いの方が遥かに強かった。

 その想いは、イグナスの誠実さや戦士としての矜持から来るものだった。

 その考えと行動を、バンテージは、決して悪いものだとは思わない。

 しかしながら、物事には限度がある。


 互いに助けられたのであれば、それでお互い様。

 同等のものを貸し借りして、良い結果が得られたのなら、それで万々歳(ばんばんざい)

 そう言った考えなのがバンテージであった。

 だが、イグナスの方は、それを恩義(おんぎ)として受け取り、バンテージに向けていた。

 バンテージは、そのあまりにも不平等な意識によって居心地が悪くなる。


 イグナスの行動によって、バンテージも同等のものを返さなければならなくなる。

 区切りの無い貸し借りの無限ループ、と言うのは良くも悪くも余計なしがらみを作る。

 そう考えているバンテージだからこそ、この状況を良く感じていなかった。


 だが、バンテージと感性が違うイグナスに、そのような考えはない。

 ただただ、自分が受けた恩に対して、実直に(むく)いようとしているだけであった。


 このような両者の感性の違いが、もっぱらバンテージの悩みの種であった。

 バンテージはイグナスの想いを、どうやっては振り切ろうか、と真剣に考え始めた。

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