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179.旅路のお供達

「コウヤさん、ディゼさん、おはようございます」


 陽が顔を覗かせ、薄っすらと空が明るみ始めた早朝。

 幌馬車の中からルネが一人、やって来た。


「ルネさん、おはようございます」

「ずいぶん早いな。もう少し寝ていても構わなかったんだぞ」

「いえ、習慣なので、これくらいの時間に自然と目が覚めるんです」


 昨晩、ルネはハルナ達に付き合って深夜まで見張りをしていた。

 その為コウヤは、朝食の当番になっていたルネの事を気遣う。

 しかし、当の本人は(いた)って普通に起きて来ていた。


 ルネは、何事も無く焚き火から火種を得て、近くに作ってあったカマドに火を移す。

 マジックバックから取り出した野菜を洗い、数本の葉野菜の根の部分をヒモで縛る。

 それを、焚き火で沸かされていたお湯を使い、塩を加えて、サッと茹でる、

 根の部分をヒモで縛ったのは、茹でたあとに取り上げるのを容易にする為。

 軽く葉に火が通たら取り出して、水に浸けて熱を取って切り分ける。

 それを今度は、武術祭の時に、だし巻き卵に使った醤油ベースの出汁(だし)(ひた)す。

 まずルネが作ったのは、葉野菜を使った、おひたしだった。


 次にルネは、根野菜の皮を剥いていく。

 皮を剥いた野菜を一口大に切って、さきほど野菜を茹でたナベに入れていく。

 そこに、こちらも一口大に切り分けたキノコと肉を加える。

 使った肉は、前日に狩って手元に少し残してあった魔雉(キギス)

 そこに、さきほど、おひたしに使った葉野菜の茎の部分と出汁(だし)、酒や砂糖を加える。

 そうしてルネが作ったのは、いわゆるキジ鍋のような料理だった。


 ただし、昨晩に試作した時に、魔雉(キギス)肉は火を通しすぎると硬くなる事が分かっている。

 その為、この段階でマジックバックにナベを収納して、一旦切り上げた。

 マジックバックが無ければ、食事の直前に入れる方が、手順としては良い。

 しかし、せっかく所持しているのだから活用して、先に肉からの出汁(だし)も取っておく。

 あとは、食べる人に合わせて、肉を追加していく事にしていた。


「ルネさん、おはようなのです」


 そうこうしていると、ダーハも朝食の準備をしに起きて来た。


「ダーハちゃん、おはよう」

「ルネさん、わたしも朝食当番なのです。一緒に起こしてくれれば良いのにヒドイです」

「ははは、ごめんなさい、私は、いつも朝が早いので、起こすのが可哀そうで、つい」

「わたしも冒険者なのです。そんな事を気にしないで欲しいのです」

「はい、分かりました。次からは気を付けますね」

「はいなのです」


 ルネは、つい孤児院の子供達と同じようにダーハを扱っていた自分の事を笑う。

 いくらダーハが幼く見えても、冒険者である事には変わらない。

 そんなダーハの事を必要以上に子供扱いする事は、失礼な事なのだと改めて認識する。


「コウヤさん、ディゼさん、一通り朝食の用意が出来ていますが、先に食べますか?」


 ルネは、夜の見張りをしていた二人に腹具合を訊ねる。

 しかし、二人ともハルナ達が起きて来てからで良い、と言った。

 そこでルネは、ダーハとストックしていたパンに少し手を加えてる事にする。

 そうして朝食の準備を終えてから、牽引馬と使い魔達の世話に入った。


「フュ、フュ、フューッ」


 その中で驚かされたのが、ヒナ鳥(アル)のエサだった。

 ヒナ鳥(アル)は雑食と言う事で、調理時に出た野菜の皮や切れ端をモクモクと食べる。

 おかげで、生ゴミと言う物をペロリと(たい)らげて片付けてしまった。


「なんと言うか、エサに困らなくて良いですね」

「はい、アルちゃんは、とっても良い子なのです」

「フュ、フュ、フューッ」


 ダーハに、食べっぷりを褒められた事が分かるようで、ヒナ鳥(アル)は嬉しそうに鳴く。

 その(かたわ)らには、出汁(だし)を取り終えた魔雉(キギス)のガラをもらったチワワ獣(ガブリエル)がいる。

 バキバキと音を立てて、魔雉(キギス)ガラにムシャぶりついて咀嚼(そしゃく)するこちらも満足そう。

 ルネは改めて、狩猟依頼を主軸に活動する雷鳴の収穫(サンダーハーベスト)の上手い()()りに感心する。


 馬は繋がれた木の周辺の草を食べていた。

 その為ルネは、飼葉を少しと、水桶の水をキレイな物に替える準備をする。

 馬が食べるのは乾燥した物が多い。

 ゆえに、胃の中で水と混ざるようにしてあげなければならなかった。

 ルネは教えられていた通りに、水桶の水をキレイなものへと取り替える。


 自然環境下で馬は、一日に約六割の時間を草を食べて過ごす。

 馬の胃は少量しか収納が出来ないので、一度に多くのエサは食べられない。

 ゆえに、牽引馬には、少量を数回に分けて食べさせる事で栄養を効率良く摂取させる。

 逆に言えば、これによって馬を潰さない為にも、馬車には適度な休息が必要となる。

 それは(すなわ)ち、馬車での移動には、進行速度に制限が掛る事を意味した。


 馬に与えるエサは、道中に常にある訳では無い。

 また、あったとしても魔物の襲撃がある為、長く停車している訳にもいかない。

 その為、馬車による移動時は、必ず馬のエサである飼葉を用意しておく必要があった。


 飼葉の給餌(きゅうじ)による馬車の燃料補給。

 これがあって初めて馬車の旅路は成立する。

 だが、運動直後の給餌(きゅうじ)や、その逆の給餌(きゅうじ)直後の運動は、馬を消化不良に(おとしい)れやすい。

 そうなると、馬は腹痛を起こしてしまう。

 馬車の旅とは、どこまでも馬を中心とした旅路。

 馬は、単なる道具や動力源ではない。共に同じ道を歩む仲間である。

 このあたりの実態を知らないと、馬車は不便で(わずら)わしく、金食い虫な旅路となる。

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