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178.温度差

「コ、コウヤさん、いつから、そこに居たんですか?」

「そうだな、五分ほど前からだ」

「ええと、それじゃあ、そのぉ……見た?」


 突然のコウヤの登場に、動揺の色を隠せない三人。

 ルネはコウヤの様子を(うかが)い、ハルナは思い切って訊ねる。

 そしてサントスは、いまさらながらフードを被って、その身を隠した。


「ああ、サントスが女性だとは分かっていたが、まさかエルフだとは思わなかった」


 コウヤの一言に、三人に動揺が走った。


「えっ? コウヤさんは、サントスさんが女性だって、分かっていたんですか?」

「ああ、だから『サントスもディゼも特別な趣向持ちじゃない』って言っただろ?」

「あれって、そう言う意味だったんですか?」


 それは、男性だと思っていたサントスにディゼがベッタリな感じでいた時の会話。

 あの時コウヤは、ルネが二人の事を色眼鏡で見ていたのを、そう言って(たしな)めた。

 つまり、本当にコウヤは、あの時点でサントスの事を理解していた、と言う事になる。


「でも、それって前からサンちゃんの事が分かってた、って事だよね? どうして?」

「どうしても何も、おれは狩猟中、ずっと周囲の探知をしていたんだから当たり前だろ」

「どう言う事かしら?」


 ハルナもサントスもコウヤが言ってる意味が分からず、困惑する。

 しかし、コウヤからの返答は、実にシンプルなものだった。


「おれは熱探知で熱量の確認(チェック)をしている。そして男女では、女性の方が基礎体温が低い」


 つまり、コウヤがサントスを女性だと推測した根拠とは、基礎体温の相違だった。

 コウヤとサントス。二人の身長は、サントスの方が、やや高い。

 そして、魔術師であるコウヤと弓銃使いであるサントス。

 普通に考えれば、サントスの方が筋肉量があるはず。

 しかしながら、実際には、コウヤの方が筋肉量が多かった。

 それは、コウヤの熱探知によって浮かび上がった真実。


 人間の体温のうち、六割は筋肉によって発生する熱。

 つまり、基礎体温が低い者の方が、筋肉が付いていないと見れた。

 そして、男女では、女性の方が筋肉量が少なく、皮下脂肪が多いと言われれている。

 つまり、女性の身体の方が、男性よりも熱を産生しにくい傾向にあった。


 気温が高くなる夏場に起きるエアコンの設定温度戦争。

 その要因となるのがコレであった。


 皮下脂肪には内臓が冷えないようにする断熱材のような役割がある。

 ただし、皮下脂肪には血管が少ないので、いったん冷えると温まりにくい。

 この事から、男性に比べて女性の身体の方が冷えやすい。

 ひいては、エアコンの体感温度にも差が生じて、キレられる。

 どんなに熱愛(ラブラブ)男女(カップル)であっても、この微妙な温度差が生じれば、苛立(いらだ)ちを(つの)らせる。

 文明の利器であるエアコンとは、かくも恐ろしいリア充破壊兵器であった。


 では、リア充が、この兵器にどのように対抗して乗り越えれば良いのか?

 それは、女性が男性に皮下脂肪が多い二の腕やお尻を触らせてあげれば良い。

 これらの部位は、前述の通り、冷えやすくヒンヤリと冷たく感じる部分。

 ただし、この方法論にも問題点はある。

 それは、恋人との熱愛(ラブラブ)度が上がり過ぎて、かえって暑くなるリスク。


 ついでに、お一人様用の対処方法はと言うと──

 該当者は、自分の二の腕やお尻を触り、ささやかな自己ヒンヤリ感を味わうと良い。

 ただし、その現場を誰かに目撃された時、羞恥に(まみ)れるリスクが生じる。

 これらの対処方法のご利用は、リスクを留意(りゅうい)した上で、自己責任となる。


「これでも一応、ディゼが起きて騒がないように気を使ったんだぞ」


 かくして、コウヤがサントスの事を察した上で気を使っていたと知って三人は唖然(あぜん)となる。

 そして、自分達がやっていた事の穴の多さにガックリと肩を落とした。


「まぁ、それだけの美人だと、ディゼじゃなくても、ご執心(しゅうしん)になる者は多いだろう」

「確かに、前にサンちゃんが、人攫(ひとさら)いの集団に付け回された事があったねぇ」

「その時は、どうしたんですか?」

猫盗賊(ベス)が、裏で動いて、衛兵に突き出して報奨金をもらっていたわね」

「ある意味、美味しい()()だな」

「ちょっと違うかな。ベスにゃんが、あまりにも面倒になって、みんなで怒られたよぉ」


 ハルナは、冒険者になって間もない頃に、狩猟都市であった出来事を思い出す。

 そしてその頃も、いろいろと対策はしていたんだけどなぁ、と反省した。


「あれっ? それって私が冒険者になった前日にあった話に似てますね」


 ルネは、狩猟都市で聞いた赤い髪のエルフの話を思い出して(つぶや)いた。


「あの時、シロさんが冒険者ギルドに付き()ってくれて、助けてくれたんです」

「「そ、そうなんだぁ……」」


 ルネは冒険者ギルドで、トムヤンクンに勧誘を受けた時の事を思い出す。

 最初は声を掛けられた事に驚き、次にシロウに助けを求めて視線を送った。

 シロウに間に入ってもらい、こちらの意図を説明してもらうも、場が険悪になる。

 最終的にシロウが、ルネとパーティを組む事にして、強引に場を収束させた。

 ルネは改めて、最初からシロウに助けられ、守られていた事。

 そして、いまは行方不明となっているシロウの事を思い出し、少し寂しく思った。


 そのルネの話に、かなりの温度差で生返事(なまへんじ)を返したハルナとサントス。

 二人は、ただただ話題に出た、赤い髪のエルフの騒動について口を閉ざした。


 それは、ちょっとした偽装で街中を歩き回った二人が元凶で起きた騒動。

 まさか、それがルネの耳にも入っていたとは思ってもいなかった為、バツが悪くなる。

 ゆえに、ハルナ達は、二つの話が繋がる事を、流すようにして避けた。


「ルネは、明日の朝食当番だろ。そろそろ本当に休まないと朝が(つら)くなるぞ」

「そうだねぇ。ルネちゃん、寝ようかぁ」

「では、自分はディゼを起こしてきます」

「そうですね。じゃあ、コウヤさん、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 場が少し重くなっていた所をコウヤが話題を変えて()らす。

 その話の流れにハルナとサントスが乗って、ルネを馬車へと連れて行った。

 ほどなくして、ディゼが入れ替わりにやって来て見張りの交代が済む。

 そのディゼはと言うと、寝起きであるにも関わらず、妙に上機嫌であった。


 コウヤは手慰(てなぐさ)みに、細木を手の上で回す。

 そして、長い夜を、どう過ごそうか、と思い悩んだ。

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