177.かしましい会話
林の中からルネに引っ張られて、ハルナの下まで連れて来られたエルフの女性。
そのサンディは現在、身に着けている露出の多い装束の為、羞恥で悶えていた。
そして、その姿を目の当たりにしたハルナはと言うと──
「(サンちゃん……コレは、一体どういう事なんだよぉ……)」
心底、頭を抱えていた。
ルネは、そんなハルナの様子から、サンディがサントスなのだと確信する。
「そう言えばサントスさんは、どこですか?」
その上でルネは、ちょっと意地悪くハルナに質問をした。
「えっと、林の方に『薪を拾いに行く』って言ってたよぉ……」
「そうなんですか。あっ、サンディさん、こちらに来て座ってください」
そしてルネは、サンディにチワワ獣の近くの席を勧めた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ワウッ!」
「イヤー、ケダモノ! こっち来ないでぇ!」
そうなると、当然のようにが愛嬌タップリのチワワ獣が、サンディに駆け寄る。
その結果、サンディはサントスと同じ反応を見せて、ルネの背後に身を隠した。
「ああ、いまのサントスさんを見て、いままでの反応が全て可愛く思えてきました」
ルネは、サントスが卵焼きをゴネたり、ディゼに構われて困っていた様子を思い出す。
そして、この可愛らしい年上のお姉さんに、悪いと思いつつもホッコリした。
「サンちゃん……そんな格好までしたのに、またバレちゃったんだねぇ」
ハルナはルネの反応を見て、以前にディゼにバレた時の事を思い出して早々に諦めた。
「もうイヤッ! ルネが、こんなに意地悪だとは思わなかったわ」
「あっ、やっぱりサントスさんで間違いないんですね」
「ええ、そうよ! はぁ……こんな恥ずかしい格好までしたのに、散々だわ」
「あはは、ごめんなさい」
ルネは、もう良いか、と一連の茶番を切り上げて、ガブリエルを止めて謝罪する。
そして、サントスの方も腰に巻いていたコートを羽織り直して、見慣れた服装に戻る。
ただ、いまはフードを被らず、素顔で夜風を感じていた。
「もうバレちゃったから言うけど、サンちゃんの事は他の人には内緒ね」
「はい、分かっています。わざわざ姿を隠していたからには、訳があるんですよね?」
ルネは、ハルナに口止めされるまでも無く、他人に言うつもりは無かった。
ただ──
「初めてエルフの方を見たので、ついテンションが上がっていました。すみません」
「まぁ、その気持ちは分かるかなぁ。ボクも、最初は同じだったし」
「そうなんですか?」
「うん、でもサンちゃんは、人間とのハーフだからか、あまりエルフらしくないよぉ」
「ハルナさん。それは、ちょっと言葉が悪いのでは……」
「はいはい、どうせ、あたしは半端者ですよ」
ルネは、妙に興奮してサントスに意地悪くした事を、もう一度、謝罪した。
ただ、その気持ちに共感したハルナは、ルネを擁護しつつサントスを茶化す。
そんな三人は、再び焚き火を囲んで、入れ直した野草茶を片手に座談を始める。
そしてルネは、そこで、いろいろと面白い話を教えてもらう事となった。
「えっ? それじゃあサントスさんの『薪拾い』って隠語なんですか?」
「そうだよぉ。男の人が『お花摘み』って言うのは、おかしいものねぇ」
「たまにフードを取って風に当たったり、水浴びに行く時に一言入れて行ってるのよ」
当初、ご機嫌ナナメだったサントスだが、次第に気持ちを落ち着け、打ち解けあう。
すると、ルネの素朴な疑問にも、答えてくれるようになった。
「ああ、それで林の中で水浴びを……でも、あの水は、どこから出していたんですか?」
ルネは、サントスが水浴びをしていた時に見た奇妙な光景を思い出す。
それは、木に掛けられていたコートから流れ出た水で、水浴びをしていた光景。
コートのポケットに水筒などがあったとしても、それほど多くの水は持ち運べない。
ゆえに、それが、どうなっていたのが、ずっと不思議に思っていた。
「え~と、あたしのコートは、小さなマジックバックが縫い付けてあるような物なのよ」
「今日の戦闘で、サンちゃんが弓銃をいっぱい出して撃っていたアレのタネだねぇ」
「ああ、なるほど。ハルナさんが持っている腕輪にも、収納機能がありましたものね」
ルネは、二人の説明を聞いて、なるほど、と納得がいった。
ハルナが腕に着けている共有の腕輪。
それには、マジックバックと同様の収納機能が備わっていた。
その事からルネは、サントスのコートにも同様の物が仕込んであるのだろうと納得した。
「まぁ。そんな所かなぁ」
「世の中には珍しい物があるんですね」
「そうだねぇ……だけど、こう言うのを持っていると、やっかみも多いんだよぉ」
「あたしの大きなリュックは、コートの収納機能を誤魔化す為の物なのよ」
「なるほと。そう言う事があるんですね」
「だから、ルネちゃん、この事も他の人には内緒ね?」
「はい、分かりました」
ルネは、ハルナからのお願いを素直に聞いて了承する。
そして、ルネから了承を得た事で、ハルナ達は、ホッと、ひとごこち付いた。
ハルナが口止めをした、これらの収納機能付きのアイテム。
実は、これらのアイテムはマジックバック以上に高価な取引がされる品々であった。
これらのアイテムは性能的に、マジックバックよりも収納量が劣る傾向がある。
しかしながら、マジックバックのように多くは存在しない事。
また、マジックバックとは異なった秘匿性を有する事から、希少価値が高くなる。
それらを大量に雷鳴の収穫が所持しているのは、ある裏技が成した業。
その中のサントスのコートとは、知人から譲り受けた物である為、かなりの年代物。
見る者が正しく評価すれば、目もくらむ額を惜しげもなく出すであろう一品であった。
ゆえに、その価値を過去に知らされていたサントス達は、ルネに固く口止めをする。
そして、珍しい物ではあっても、さも大したシロモノではない、と騙って聞かせた。
その後も、ルネは休息を取らずに見張りに付き合って三人で雑談を続ける。
そこで、サンディと言うのが、サントスの本当の名前である事。
製錬都市で、ディゼにも同じように素性がバレて、パーティに加わる事になった事。
通りすがりのお嬢様の病気の治療に関わった事で、男性として気に入られた事を聞く。
ルネは多くの話を聞いて、夜更けと共に親睦を深めていった。
「そろそろ時間だ。明日の事もある。ルネも、もう寝ろ」
「「「えっ?」」」
ルネ達が話に夢中になっていた所、不意に声が掛けられた。
三人は、声がした方向に一斉に視線を向ける。
すると、そこには目覚めに一杯、野草茶で喉を潤すコウヤの姿があった。




