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176.通りすがりのエルフ

【パキッ!】


 静かな林の中で、枯れ木を踏んだルネの存在が表面化した。

 音に反応したエルフの女性が、慌てて木に掛けていた(ころも)に手を掛け、身に(まと)う。

 そして、どこからか槍を手元に引き寄せて臨戦態勢に入った。

 その当然の防衛行動に、ルネは、いかにして自分に敵意が無い事を示そうかと焦る。


「「えっ?」」


 しかし次の瞬間、ルネとエルフの女性の声が重なった。

 両者は互いに、目にしたものを信じられない思いで認識する。

 その混乱した情報を整理しきれないまま、それぞれに、その思いを口にした。


「もしかして……サントスさんですか?」

「なんでルネが、こんな所に!」


 先程まではエルフの女性の容姿に目が行って気づかなかった、枝に掛けられていた(ころも)

 だが、いまルネが目にしているエルフの女性が(まと)っている物──

 それは、どう見てもサントスのコートだった。


 ゆえに、ルネは目の前のエルフの女性を、直感的にサントスと結び付けた。

 ただし、その直感を確信にまで持って行けない一つの壁が立ちはだかっていた。

 それは、サントスが男性であり、エルフが女性である点。

 この性別の違い、と言う認識が、ルネが投げ掛けた言葉に現れた戸惑いであった。

 だが、この時エルフの女性から出た一言により、ルネは二つの情報を逆に受け取った。


「やっぱり、サントスさんなんですね?」

「ち、違います。人違いです!」

「えっ? でも、いま私の事を『ルネ』って名前で呼びましたよね?」

「な、何を言っているのか分かりません。『ルネ』とはエルフ語で『人間』です!」


 その一つ目は、エルフの女性が発した、ルネの名前を呼んだ一言。

 これによってルネは、改めてサントスとエルフの女性の事を同一視した。


 よくよく考えてみれば、ルネはサントスの事を良く知らない。

 フードによって、素顔を見た事は無い。

 コートによって、ちゃんと体格を見た事もない。

 サントスの事を勝手に男性だと思っていたが、女性であってもおかしくない。

 そう思えたからこそルネは、自分の名前を呼んだ事について指摘する。


 するとエルフの女性から、どう聞いても苦しい言い訳が飛び出した。

 お人良しのルネであっても、さすがに、その言い訳は通用しなかった。

 

「はぁ……そうなんですか。口調がサントスさん、そのものなんですが?」

「き、気のせいじゃないかしら?」


 そして二つ目に得た情報とは、エルフの女性の口調。

 そこには、少々サントスとは違うアクセントを感じたが、基本的に同じだった。

 突然の邂逅(かいこう)で、()が出た、と言う印象を受けた彼女の言葉。

 その言葉から、普段から口調を使い分けていたのだろう、と言う事を察した。


 ゆえにルネは、そこで得た二つのサントスとの共通点から、再び指摘をした。

 ──のだが、これが彼女には、かなり(こた)えたようであった。

 さすがに余計な事が言えなくなったらしく、彼女の言葉が尻すぼみになっていった。


「とにかく、風邪を引くといけないので、身体を良く()いて着替えてください」

「そ、そうね……」


 見ていて、なんだか可哀そうになっていったので、ルネは一歩引いて着替えを薦める。

 エルフの女性も、さすがに裸のままでいる趣味は無かったようで、素直に(うなず)いた。

 こうして話は、一時の休廷を迎えた。


 そうこうしているうちに、ルネが最初に(いだ)いた、美しい幻想的な光景が薄れていった。

 そして、今日一日を思い出して、やっぱりサントスさんだ、と言う結論に落ち着く。

 ただ、それでも目の前のエルフの、理想的な女性(ぜん)とした肢体(したい)に目が引き寄せられる。


 美しく長い金色(こんじき)の髪から覗かせる小顔。

 女性としては長身で、二の腕や脚には引き締まった筋肉が付いており、細く美しい。

 水浴びをしていた時に見た背中には脂肪が少なく、スッキリとした印象を受けた。

 その為か、胸は大きすぎないも張りがあり、お尻は大きく腰はくびれて見える。

 そのバランスの取れた身体の相乗効果は、女性であるルネも魅了するものであった。


「ちょっと、そんなにジロジロと見ないで欲しいんだけど……」

「あっ、すみません。ついサントスさんに見惚(みと)れちゃいました」


 なぜかサントスのコートとは別の装束に着替えたエルフの女性。

 現在(いま)彼女は、白と新緑色を基調とした装束に身を包んでいた。

 そして、問題のコートの両袖は腰に回され、腰巻きのように結ばれていた。

 コートでガチガチに身を固めていたサントスとは打って変わった姿。

 ルネは、変わったコートの身に着け方を不思議に思いながら、素直な感想を返した。


「だから、人違いよ。あたしはサンディ。通りすがりのエルフです」

「そうですか……じゃあ、林の中は暗いですし、一緒に行きましょう」

「あたしは、ここから出ちゃダメなの!」

「まぁまぁ、せっかくですし、一緒にお茶にしましょう」

「イヤー、止めて! そっちに行きたくなーい!」


 サンディと名乗ったエルフの女性は必死に抵抗する。

 しかし、普段から家事全般をこなしているルネには、意外と力があった。


 孤児院で、多くの子供達の世話をしていたルネ。

 そんな中には当然、駄々っ子を連れて行く、と言う場面が多々あった。

 ルネは、単純な腕力ではサンディには(およ)ばなかったかもしれない。

 しかし、この分野においてルネは、まごう事なき強者(ベテラン)であった。

 逃げようとするサンディの力を上手く流して、少しずつ引っ張って行く。

 その結果──


「ハルナさーん、見てください。エルフの方と知り合いになりました」

「……はじめまして。通りすがりのエルフです」

「……うん、はじめまして」

「せっかくなので、お茶に誘いました」


 ルネが、満面の笑顔でハルナにサンディを紹介する。

 対してハルナとサンディは、引きつった表情を浮かべ、微妙な挨拶を交わした。

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