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175.月下美人

 ◇◇◇◇◇


 ルネは、寝ているダーハを抱えて馬車の中へ連れて行き、毛布を掛けて寝かせる。

 明日の朝食を任されているルネ。

 そのまま寝ても良かったのだが、再び馬車から外に出た。

 どうにも目が覚めて眠れそうにもなかったルネは、しばらく夜風に当たる事にした。


 声を潜めながらも、ハルナとチワワ獣(ガブリエル)がジャレ合っている様子が聞こえて来る。

 さすがに、休むと言った手前、いまさら焚き火の前には戻りづらい。

 ルネは所在なく、気休め程度にしかならない、と思いつつ、一度辺りを警戒する。


「あれっ? あそこにいるのはサントスさん?」


 ふと、目が行った林の近くにサントスの姿を捉える。

 サントスは、そのまま一人で林の奥へと入って行く。

 それを見たルネは、こんな夜更けに、なぜ一人で? とサントスの行動が気に掛った。


 夜の見張りは、二人一組でする事になっていた。

 二人(そろ)って持ち場を離れる事は論外だが、単独行動もいただけない。

 サントスが何をしに行ったのかは分からない。

 ハルナに、その事を訊ねようか、とも考えた。

 しかし、ルネは、自分がサントスの手伝いをすれば良いか、と言う結論に行き着いた。


 ルネは、サントスのあとを追って林の中へと入って行く。

 だが、すぐに自分の迂闊な行動を反省する事となった。


 月の光が明るい夜ではあったが、林の中までには十分な光が届かない。

 サントスが分け()って行った方向に視線を向けるが、人影が見当たらない。

 それでも、しばらくあとを追って探したが、まったく追い着く気配が無くなった。

 そうこうしているうちに、かなり奥までやって来た事に気づく。

 来た道が真っ直ぐであった為、戻り道で迷う事は無い。

 しかし、突如、魔物に襲われて、走って逃げ帰れるか?

 そう聞かれたならば、すでに不可能、と言うしかない距離となっていた。


「ちょっと、これは一度戻った方が良いですよね」


 いまさらながら、勝手な行動をしてしまった、と反省する。

 ルネは、林の中を奥へ奥へと進んでいた。

 しかし、サントスは、林に入った浅い場所を見て回っていたのかもしれない。

 もしそうなら、思い込みで奥へと進んだルネは、当にサントスを追い越している。

 と同時に、魔物の生息圏に不用意に近づいていた事にもなる。

 そのような危険な行動に気づいたルネは、慌てて来た道を引き返した。


【パシャーッ!】


 不意に、耳に届いた物音──

 正体不明の音に、ルネの背筋に冷たい汗が流れる。

 近くに何かがいる気配を感じて、動きを止める。

 下手に動いて、自分の事に気づかれてはいけない。

 固唾を飲んだあと、静かに息を吸い、心を落ち着かせる。


 音がしてから、こちらに何も起こっていない事から、気づかれていない事を確認する。

 音の主は、魔物の(たぐい)ではないのではないか、と言う考えが頭を(よぎ)ぎる。


【パシャーッ!】


 薄暗い林の中で、再び同じ音が響いた。

 音の正体は何なのか?

 一度、対象が魔物ではないのではないか、と考えた事で警戒よりも好奇心が(まさ)った。

 ルネは、音を探して辺りを見渡す。

 すると、夜空の雲に切れ目が出来て、林の中に、かなり明るい光が差し込んで来た。


「(えっ? アレって……)」


 ルネは、驚きの声を必死に(こら)え、その光景に目を奪われた。


「(森の護り人『エルフ』ですか?)」


 ルネは、初めて目の当たりにした美しい金髪のエルフの女性の姿に釘付けとなった。

 エルフの女性は、木の枝の掛けた(ころも)に手を掛ける。


【パシャーッ!】


 すると、そこから水が生み出され、流れ落ちた水でエルフの女性が全身を清めていた。


「(音の正体は、あの水が流れ落ちてた時のものだったんですね)」


 ルネは、音の正体が、魔物に関するものでなかった事の確認が出来て安堵(あんど)する。

 そうなると今度は、自然とエルフの女性への興味が高まった。


 なぜ、こんな所に一人でいるのか

 どうして、こんな所で水浴びをしているのか。

 他にもエルフが近くにいるのか。


 パッと思い付いただけでも、不自然に思える疑問が、いくつか頭を()ぎる。

 だが、そんな疑問は、すぐに通り過ぎて行った。


 濡れた美しく長い金色(こんじき)の髪に引き締まった肢体(したい)

 それらが月明かりに照らされて、瑞々(みずみず)しく輝く。


「(キレイな人……)」


 あまりにも幻想的な光景が、ルネの脳裏に刻まれる。

 同じ女性であるルネも、思わず、ため息をつき、見惚(みと)れてしまう。

 そのような場面に遭遇してしまった人間の思考は、一瞬、真っ白となる。


 一拍の間を経て、脳が現状の把握に追い着く。

 ここで、やっと人間は、自分が最も駆り立てられた衝動に忠実に身体が反応する。


 エルフの女性を良く見たい、と言う衝動から、引き寄せられるように足を踏み出す。

 しかし、その行動によってルネは、地面に落ちていた枯れ木を踏んでしまった。

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