172.夕食後のひととき
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ハルナ達が用意した野営時の食事とは思えない豊富な品数の夕食。
それをいただいたルネは、後片付けを手伝って食後の一時を迎える。
焚き火を囲み、野草茶を飲みながらの談話。
そこでルネは、目的地が狩猟都市である事を告げられる。
「製錬都市方面の狩猟依頼を受けたのは、お嬢様に行き先を誤認させる為の偽装だ」
「コウヤさんは、全部知っていたんですね」
「ボク達は、どこでも良かったんで、目的地はコウヤくんに決めてもらったよぉ」
「どこに行ったとしても依頼をこなす関係上、ギルドに寄れば所在が割れるだろうがな」
「一時しのぎにでもなってくれれば問題ありません」
狩猟都市には、その名が示すように狩猟依頼が多数ある。
その中には、まだ探索が進んでいない大森林の深部への調査依頼も存在した。
ある意味、ダンジョンに籠るように隠れ蓑にも使える稼ぎ場。
狩猟依頼を主軸とする雷鳴の収穫には、この上ない活動拠点となり得る場所であった。
「出戻り感があるけど、まーくんからの手紙もあったし、ちょうど良かったかもねぇ」
「手紙ですか?」
ルネが、何かと尋ねると、ハルナが共有の腕輪から黒板を取り出して見せた。
それを見てルネは、確か昼食前にハルナとコウヤが同じ物を見ていた事を思い出す。
そして、そこに書かれていたのは、このような文章だった。
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街で『黄玉』と『蒼玉』を見つけた
冒険者ギルドには寄らない事
狩猟都市に向かう
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「やっぱり、冒険者ギルドに寄るとサントスさんが見つかりそうなんですね」
ルネは、最初の一文は、探し物かな、と思いながら状況を読み取る。
しかし、ハルナとコウヤは、書かれていた順序から、注意対象が変わった事を察する。
そして、こちらも冒険者ギルドを見張っている事を把握したのであった。
「まぁ、基本方針は変わらないねぇ。それで夜間の見張りの順番だけど、どうする?」
「そうだな……順番にルネとダーハ。ハルナとサントス。おれとディゼで、どうだ?」
ハルナは、ルネが狩猟都市で他の三人と合流する事を理解した所で話題を変える。
そしてコウヤも、ハルナの意図を読み取って話の流れを変えた。
「そうですね。各組に魔術師がいるので、緊急時の対応力があるので良いと思います」
「えっと、僕はサントスさんと一緒が良かったんですが……」
サントスは、コウヤの割り当てを妥当と感じて同意する。
しかしディゼは、その割り当てを妙に残念がった。
「う~ん、ディゼくんには悪いけど、今回は、まーくんが居ないから却下だねぇ」
「えっ? それって、どうしてですか?」
「マサトの代わりに頼りにしている、と言う訳ですよ」
「そ、そうなんですか! 分かりました」
ディゼが、希望が通らなかった事でガッカリしていたが、サントスの一言で立ち直る。
ルネは、サントスの事を妙に慕うディゼを見て、なんだか子犬のようだと思った。
「じゃあ、朝食の準備は、ダーハちゃんとルネちゃんで、お願いねぇ」
「はいなのです」
「はい、わかりました」
ルネは、ハルナに朝食を任されて、少し気持ちが楽になったのを感じる。
それは、自分が、ただこの場に居る訳では無い、と言う思いからの安堵だった。
孤児院では、何かと働いて年下の子供達の面倒を見ていたルネ。
そんなルネにとって、何もしていない状態とは、すごく不安にさせるものだった。
それは、戦闘時に何も出来ず、自分の無力さを痛感していた事と重なる。
何かをしようにも、戦闘に加われるだけの力も方法も見い出せない。
思い悩むも、その場から抜け出す手段が分からず、ただ現状で停滞する。
狩猟時に役に立てる、数少ない作業であった狩猟品の回収。
それすらもチワワ獣に奪われて、沈んだ気持ちになっていたルネ。
ゆえに、ちょっとした頼まれ事ではあったが、それを嬉しく感じていた。
「朝食は、何が良いでしょうね……」
焚き火を見つめ、野草茶で一息つきながら、ふと零れ出た一言。
少しばかり気持ちが軽くなった事で出たルネの独り言。
それは、シロウが姿を消して以降、久しぶりに優しい気持ちで呟いた言葉だった。




