158.昼食の品
ディゼは、御者を交代して幌馬車の中に入る。
そして、空いている場所に腰を下ろすと、ダーハから細長いパンを受け取った。
それは、パンに切り込みを入れて、焼いたソーセージと野菜を挟んだもの。
ハルナ達は、このホットドッグと呼ぶ携行食をマジックバックの中に常備していた。
ディゼは、受け取った、この贅沢な携行食が、お気に入りだった。
これを始めて食べたのは、製錬都市から国境の街まで来た時の道中。
先日までディゼは、国境の街から王都へと続く道程にある製錬都市で衛兵をしていた。
そこでは、定期的に訓練を兼ねた、都市周辺の魔物の数減らしを行っている。
その時に支給る携行食は、お世辞にも美味いと言える物ではなかった。
携行食は、かろうじて茹でたイモよりマシ、と言った食味の棒状の固形物。
これは嗜好品として消費されないように、わざと微妙な味付けにされている物だった。
あくまで数日間、凌げれば良し、と言った考えで作られている携行食。
それは、冒険者達にも遠征や都市間の移動の間、一般的に普及しているものだった。
しかし、製錬都市で『雷鳴の収穫』に加入して以降、ディゼの常識は覆された。
なんと言うか、このパーティの食事は贅沢なのである。
各人がマジックバック相当の物を所持し、街中で買った物が移動中にも食べられる。
それに加え、青年と少女、そして猫盗賊が、何かと変わった料理を作る。
こうしてディゼは、パンにソーセージを挟んだ美味いホットドッグと出会った。
柔らかいパンとソーセージを噛んだ時のパリッとした触感。
ソーセージを噛んだ拍子に溢れ出す熱い肉汁。
そこに、ハルナ達が作った酸味のある赤いソースと、もう一つ。
植物の種から作った辛味の香辛料と、酒の失敗作と言う、酢を混ぜた調味料が絡む。
程良い辛味なのは、幼いダーハに合わせてのようであった。
しかしながら、それは非常に良いマイルドさとなり、絶妙な薬味となっている。
「シンプルだけど、このソースとスパイスで、こんなにも美味くなるんですね」
ディゼは、最初にホットドッグを食べた時、たかだか食べ物一つに感動を覚えた。
「ちなみに、それはホットドッグって名前で、ソーセージに使っているのはイヌ肉にゃ」
「ブーッ! ベ、ベスさん、それは本当なんですか?」
そして、いきなり猫盗賊に、とんでもないウソをブッ込まれて吐き出した。
「あのあの、そのソーセージに使っているのは魔牛の肉なのです」
「ホットドッグの『ドッグ』ってのは、イヌじゃなくて『ソーセージ』を指す言葉だ」
「つまり『温かいソーセージ』が挟んであるパンって意味の名前なんだよぉ」
「自分も一瞬、疑って『観察』で調べました。そう言う冗談は止めなさい!」
「フッ、これも新入りが通る試練にゃ」
当時を思い出してディゼは思う。
あれでホットドッグにトラウマを植え付けられなくて良かった、と。
「あっ、スープも用意してあるから、一緒にどうぞだよぉ」
「えっ? でも馬車の中だと、揺れで温かいスープが、こぼれると危ないですよ?」
ハルナが、チワワ獣の相手をする傍ら、温かなスープを勧める。
だが、道路に戻った馬車であったが、その揺れは必ずしも緩やかなものではなかった。
不定期に路傍の凹凸で、馬車は跳ねる。
そんな状態でスープを渡されても、何時スープが跳ねてヤケドをするか分からない、
ルネは、その危険性を考慮して、スープを勧めて来るハルナに、そっと断りを入れる。
しかしハルナは、そんなルネの心配をよそに、スープを入れた器を配っていった。
「ルネさん、心配は要りませんよ。多少揺れたくらいじゃ零れたりしませんから」
「そうなんですか?」
ディゼは、自分も同じ事を心配したものだ、と数日前の自分を顧みて言葉を返す。
そして、自分が手にしているスープの器にスプーンを入れて、中身を少し掬い上げた。
「あれ? 何か粘り気がある変わったスープですね?」
ルネは、ディゼが掬い上げたスープを器に垂らす所を見てマネをする。
するとルネのスープも、トロみを帯びた液体となっている事がハッキリと見て取れた。
「あんかけスープと言うらしいですよ」
「スープの仕上げに、片栗粉を水に溶かしたものを混ぜてあげると、こうなるんだよぉ」
「な、なるほど」
ルネは、あんかけスープの物珍しさに着目する。
ただし、それは、身体に零れた時、粘り気を洗い流すのに手間取りそう、と言う点。
それは即ち、大ヤケドに繋がる事を意味する。
ゆえに、ルネは、どうしても、このスープの取り扱いに不安を抱いた。
「トロみがあるスープは、飛び散りにくくなるから、揺れても零れにくくなるんだよぉ」
だが、ハルナは、ルネとは違う着眼点で、あんかけスープの利点を説いた。
そして器のスープは、揺れる馬車であっても、一定の流動内で安定して留まっていた。
「はぁ、こう言う物もあるんですね。あっ、もし良かったら、こちらもどうぞ」
ルネが、あんかけスープに感心すると同時に、自分達も何かを出さなければ、と思う。
そして、マジックバックから、アレなら、と思い至って、ある品を取り出した。




