150.壮年の男
◇◇◇◇◇
コウヤ達が、魔雉の狩猟依頼を行っていた頃。
「娘、ひさしいな」
「なぜ、アナタが生きてるのか興味はありますが、よく私の前に姿を現せましたね?」
ハツカは、黒爪狼に殺められたはずの壮年の男と顔を突き合わせていた。
そこは、以前に目の前の男を追跡し、返り討ちにあった作業小屋。
いまハツカが再び、この場所に足を運んだのは、やはり男に誘導されてのものだった。
「いまになって再び私の前に現れたのは、なぜです?」
ハツカは、逸る気持ちを抑えながら、男に探りを入れる。
この男を再探知して捉えたのは、半刻ほど前。
本来ならコウヤに言われ、青年と合流するように言われていた。
しかし、その合流を前に、男はハツカの前に姿を現わした。
ハツカは男への敵愾心から、それを挑発と受け取り、誘いに乗って、あとを追った。
そうして相対した男は、ハツカの敵意を、事も無げに受け流した。
「あれから、いろいろ調べさせてもらった。その上で話の必要性が増したのでな」
男は、ハツカと一定の距離を保ちながら語り掛ける。
それは、前回戦った経験から、男が一足飛びで仕掛けられる間合いの外。
ハツカが、菟糸で優位に攻撃を仕掛けられる間合いの取り方。
その事から、男が本心で話し合いを求めている事が窺えた。
しかし、前回いきなり仕掛けられた以上、その言葉を容易に信用する事は出来い。
「勝手な言い分ですね。前回いきなり背後を取られた事を、私は忘れはいません」
ハツカは、前回シロウ共々、男の瞬間移動能力で背後を取られている。
その為、警戒心を露にして、返答の如何を計った
「あれか。あれは、あの時の男の初動に反射的に反応してしまったものだ」
「ずいぶんと苦しい言い訳に聞こえますか?」
「あの手の近接戦闘能力者は、調子に乗る前に抑え込まねば、手に負えなくなるのでな」
「話し合いを求めてるわりには、答えになっていませんが?」
「実際、自分は二度殺されている。間違ってはいないはずだが?」
「いま目の前で、平然と話をしている者が、よくそんな事が言えますね?」
男は、何事も無かったかのように、黒爪狼に殺められた事実を認める。
確かに男は、ハツカの目の前で二度葬られた。
正しくは、一人目の男は、奇襲の一撃で倒され、二人目は乱撃で倒された。
男が言うように、黒爪狼の奇襲や全力攻撃を相手にした時、対処が追い着いていない。
しかしながら、男はハツカ達の前で同時に、二人存在した。
これは、いわゆる『分身』と言った分類に属する能力の表れだったのだろう。
しかし、男は、それとは別の、意外と効果範囲の広い瞬間移動能力も併用していた。
それだけに、ハツカには男の事が、いまだに不気味な存在として映っていた。
「そう邪険にしないでもらいたい。今回も、招待客は一人だけではない」
男は、ハツカに目配せをすると、同じ姿の二人の男を招き入れる。
そして、新たに作業小屋へと招待されたのは見知った顔の二人だった。
「リコ、それにマサトも?」
「姐さん、すなない、です」
「いや、黒装束は悪くない。知らせてもらったオレが下手を打って見つかった」
今回、ルネサンズの中で唯一、単独行動を取る事になっていたハツカ。
その動きに合わせて、黒装束は街中に残っていたハツカを陰ながら護衛していた。
そんなハツカが、マサトとの合流を前に、進路を変えた。
その事に違和感を覚え、様子見をしていた所、壮年の男を追っている事に気づく。
そこでリコは、ここ数日のハツカ達の行動を顧みて、マサトに繋ぎを付けた。
──が、その結果、マサトの協力を得る事は出来たが、二人の男に気づかれた。
そして、奇しくも前回のハツカと同じく、二人の男によって背後を取られる。
こうして、リコとマサトは抵抗を諦めて、大人しく同行して来た。
「今回は、更に一人追加ですか。アナタ達は、一体何人いるのですか?」
ハツカは、この良くない状況に精一杯の強がりを見せ、答えを求めずヒニクった。
【バシッ!】
すると、男の一人から、返答の手刀がリコの後ろ首に入った。
「三人だ」
「えっ?」
思いがけない男からの返答が届く。
そして、リコを昏倒させた男は、黒装束の少女を抱え、奥の小部屋へと連れて行った。
「自分はカトルス。お前達『紅玉』の転移者の動向の把握をしに来た者だ」
カルトスと名乗った壮年の男は、自らの首から下げている金色のプレートを見せる。
「自分は『黄玉』を身に宿す者だ」
そして、自らを『黄玉の転移者』だと名乗った。




