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146.魔物由来

 ◇◇◇◇◇


 この数日で、通いなれた裁縫所。

 そこで、先に発注していたルネの新しいローブの受け渡しが(おこな)われる。


 魔力をふんだんに含み、冒険者用に仕立てられた野絹(ワイルドシルク)のローブ。

 希少な魔物由来の素材を使用しているだけに、その防御性能は、見た目以上に強固。

 そして、その着心地は、素晴らしく滑らかで軽いものに仕上がっていた。


「どこか違和感があれば言ってくれ」

「いいえ、大丈夫です。むしろ、軽すぎて心許無(こころもとな)いくらいです」

「それが、野絹(ワイルドシルク)の特徴だ。いずれ慣れる」

「でも、これに慣れると、他の物が着れなくなりそうです」

「それは誉め言葉として受け取っておこう」

「はい。親方(オマリー)さん、ありがとうございます」

「ワシも興が乗って、思いのほか早く仕上がったわい」


 親方(オマリー)は、自分の仕事が気に入られた事を喜び、良い仕事が出来た、と感謝の念を示す。


「じゃあ、私の役目も、おしまいにゃ。ホレ、依頼の達成のサインを寄こすにゃ」

「えっ? あなたの依頼延長は、一週間だったでしょ?」


 親方(オマリー)がルネのローブ作成を終えた事で、猫職人(ベス)が依頼達成のサインを要求する。

 しかし、それに職人頭(ケリィ)は、異を唱えた。


「私は、親方が野絹(ワイルドシルク)のローブ作成に掛かる事で出来た穴埋め要員なのにゃ」


 だから猫職人(ベス)は、それが終わった以上、依頼の達成条件は満たした、と主張する。


「いやいや、確かに親方は、一日早く仕事を終えましたが、せめて今日の分は……」

「だから、それも、もう終わらせたにゃ」

「えっ?」


 猫職人(ベス)は、職人頭(ケリィ)の前に、職人一人分に相当する仕立て済みの品を並べて見せる。


「ほう、相変わらず仕事が早いな。ほら、これを持って行け」

「まいどにゃ」


 親方(オマリー)は、猫職人(ベス)の依頼表に完了を認めるサインを記入して渡す。

 それを、猫職人(ベス)は、ありがたく受け取ると、腰に着けたウエストポーチの中に収めた。


「ちょ、ちょっと親方! 何やってるんですか!」

「ケリィ、一体どうしんた?」

「親方が、もう一日掛けて仕事をやってくれれば、こっちは、かなり助かったんですよ」


 親方(オマリー)が、職人頭(ケリィ)の苦労をよそに、アッサリと猫職人(ベス)を開放する。

 その事で二人が、裁縫所の運営の事で、本気の口論を始めた。

 それは、どちらかが悪い、と言ったものではない。

 親方(オマリー)は、職人気質な傾向があり、自分の興味と納得のいく仕事を優先する。

 対して職人頭(ケリィ)は、そんな親方(オマリー)によって起きる納期の停滞と資金繰りに奔走していた。

 この両者の間にある相違が、猫職人(ベス)への評価の相違となって、この口論が起きている。


「んじゃ、子狐。私は、よそに顔を出して来るにゃ、ソイツらの事は任せたにゃ」

「は、はい、なのです」


 だが、そんな事など猫職人(ベス)には関係無い。

 猫職人(ベス)は、終わった仕事の事など気にも留めず、ルネの事を子狐(ダーハ)に任せる。

 そして、気まぐれな猫職人(ベス)は、さっさと裁縫所を出て、どこかへと行ってしまった。


「ルネ、おれ達も移動するぞ」

「は、はい」

「それでは、案内するのです」

「ワウ、ワウッ!」

「ああ、頼む」


 ルネは、親方(オマリー)に礼を言うと裁縫所を出る。

 そして、子狐(ダーハ)は、コウヤに(うなが)されて歩き始める。

 更に、その先には、先導するように小型犬の魔獣が、率先して歩いていた。

 そうして、案内されて向かった先は、倉庫街の一画。

 大きな厩舎と馬車置き場がある行商人達愛用の宿屋。

 その宿屋所有の古い空き倉庫だった。


 ◇◇◇◇◇


 子狐(ダーハ)と小型犬の魔獣に連れられて来た古い空き倉庫。

 その倉庫の中は余計な物が撤去されており、その広さを、より際立たせて実感させる。

 そんな中にあって一つだけ、その存在感を主張する物があった。

 それは、馬から外された古い幌馬車。

 幌馬車は、入り口の左側に置かれており、逆の右側には見張り兼宿直部屋があった。


 子狐(ダーハ)が、幌馬車に近寄って行くと、それに先んじて小型犬の魔獣が駆けて行く。

 そして、幌馬車の近くまで行くと、車輪の影から出て来たヒナ鳥とジャレ合い始めた。


「あっ、ガブリエルにダーハちゃん、おかえり」


 少女(ハルナ)が、(チワワ)の身体、コウモリの翼、サソリの尻尾を持つ小型犬の魔獣(ガブリエル)の帰りに気づく。

 子狐(ダーハ)が連れていた小型犬の魔獣とは『チワ・ワンティコア』と命名された新種の魔獣。

 少女(ハルナ)は、そのチワワの魔獣(ガブリエル)の姿を見て、子狐ダーハの帰りを察して声を掛けた。


「フュ、フュ、フューッ」


 そのチワワ獣(ガブリエル)に駆け寄って行ったのは、少女(ハルナ)達の、もう一羽の使い魔。

 それは『イミュラン』の名を持つ、ダチョウ似の魔鳥のヒナ鳥。

 そのヒナ鳥は、孵化時の刷り込み(インプリンティング)チワワ獣(ガブリエル)の事を親だと思っていた。

 ゆえに、その奇異さからヒナ鳥は、猫職人(ベス)に『アホウドリ(アルバトロス)』と名付けられる。

 ただ、これに対してチワワ獣(ガブリエル)の方は、実に良くヒナ鳥(アルバトロス)の面倒を見ていた。

 いまも、どこからか探して来たらしいミミズ(エサ)ヒナ鳥(アルバトロス)に与えて世話をしている。

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