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136.事後承諾

 シロウ達が人狼種(ワーウルフ)の討伐依頼を受けた三日目の早朝。


「えっ? 昨晩のうちに人狼(ワーウルフ)の討伐に成功したんですか?」

「そうだヨン。内偵を進めていた貴族のお抱えの冒険者(カルバン)がヒットしたんだヨン」


 冒険者ギルドの一室に呼び出されて伝えられた事実に、ルネは唖然とした。


「なんだ、もう解決したのか?」

「意外とアッサリと終わりましたね」

人狼種(ワーウルフ)の事件発覚から数日たっているんだ。ある意味、順当だろう」


 シロウとハツカも、拍子抜けな結末に肩透かし感を受けていた。

 しかし、コウヤは、それは先に依頼を受けていた冒険者達を軽視しすぎだ、と(たしな)める。


「それで、これで討伐依頼が終わり、と言う訳ではないんだろ?」


 ただ、同時に自分達が、その討伐劇の実行を悟らせない為の目くらましに使われた事。

 その抗議だけは、レヨンに暗に示して訊ね返した。


「おっ、察しが良いヨン」

「どう言う事です?」


 リヨンが、自分のチームを使って(おこな)った人狼(ワーウルフ)討伐。

 その情報開示と、ルネ達に同行を求めなかったのには訳があった。


 一つ目に、先入観なく人狼種(ワーウルフ)の情報収集に専念してもらう為。

 これにより、先行組の見逃しと不審な行動の情報を同時に収集させていた。


 二つ目に、ルネ達新参組を人狼種(ワーウルフ)探し、と言う目立つ行動で(デコイ)に使う為。

 リヨン達先行組の調査の目を掻い潜っていた人狼種(ワーウルフ)

 その人狼種(ワーウルフ)なら、必ずどこかで新参組の動きを察知する。

 しかしながら同時に、慎重だった人狼種(ワーウルフ)が、そんな(デコイ)を短絡的に襲う事は考え(がた)い。

 だからこそリヨンは、目を付けていた人狼(カルバン)の注意を自分から反らす為に利用した。

 加えてサントスの『観察』の能力の協力を得た事で、事を一気に進めたのであった。


「キミ達には、人狼(カルバン)が関わった人物と討伐チームの人狼(ワーウルフ)化の調査に当たってもらうヨン」


 そして最後の三つ目は、人狼種(ワーウルフ)討伐の事後処理要員として温存しておく為だった。


「つまり私達は、討伐組に人狼(ワーウルフ)化が起きていた時の備え、と言う事ですか?」

「そうだヨン。まぁ、今回はボクが大半を処理したから討伐組に問題は無いはずだヨン」

「だが、その言葉を、おれ達が鵜呑みにしたんじゃ、本末転倒だ」

「確かにそうだヨン。人狼(ワーウルフ)化の監察期間が解かれるまで、こっちは大人しくしてるヨン」


 コウヤ達は、リヨンの実力を昇格試験で身をもって知っている。

 リヨンの『操演武(ダンシングウェポン)』は、武器を遠隔操作する能力。

 それは、接近戦を主体とする人狼(ワーウルフ)に対して事を優位に運べる能力だった。

 だからこそ、リヨンは対人狼種(ワーウルフ)における主力であり、この余裕の態度なのである。


 ──が、だからと言って人狼(ワーウルフ)化の懸念を軽視する事は出来ない。

 ゆえに、冒険者ギルドは、例外なく嫌疑を払拭すべく一時拘束をせざるを得なかった。

 そしてコウヤ達は、人狼(カルバン)の周囲の人間の調査に()てがわれる。


「まぁ、そう言う依頼だから調査するけど、人狼(カルバン)関連の候補は絞れてるんだよな?」

「モチのロンだヨン。そうじゃなきゃ人手がいくらあっても足りなくなるヨン」


 シロウの疑問に対して、リヨンが調査対象のリストを取り出す。

 そして、そこに上がっている者の中から二人の候補者を指名した。


「たった二人ですか。かなり絞り込まれているのですね」


 ハツカが、候補者を聞いて率直な感想を口にした。


「キミ達の担当が、その二人ってだけだヨン。他の者は別チームが担当してるヨン」


 ハツカは、リヨンの説明を聞いて、改めて詳細を聞き出す。

 そして、酒場での人狼(カルバン)の大立ち回りに巻き込まれたのが、この二人なのだと知った。


「行きずりの酔っ払い同士のケンカに巻き込まれた被害者、と言う事ですか」

「だが、人狼(カルバン)絡みのケンカとなると、その時の負傷による眷属化が疑われるな」

(さいわ)い相手は、同じ職場の職人同士か。まとめて見張れ、って事か」

「そうだヨン。んじゃ、任せたヨン」


 リヨンは、シロウ達への指示を済ませると自主的に個室に戻り、軟禁生活に入る。

 その際に、酒と読み物を抱え込んでいったのは、愛嬌だろう。

 こうしてシロウ達は、リストアップされた二人の職人の調査を(おこな)う事となった。


 ◇◇◇◇◇


「おつかれさまです」

「おっ、やっと交代が来たか」


 多くの職人が住居としている職人街。

 ルネ達は、冒険者ギルドを出ると、その一画にある宿屋の二階の一室に来ていた。

 室内に居たのは、三人の冒険者。その内の一人は窓から外を見下ろしている。

 その視線の先には、調査対象の仕事場である裁縫所がある。

 この一室は、ギルドが道向かいの裁縫所を見張る為に用意した見張り部屋であった。


 ルネ達の役割の第一は、冒険者ギルドが手配している『鑑定』の能力持ちの到着待ち。

 そして、その間の調査対象の居場所と行動の把握が、何より優先される。

 つまり、調査とは言われているが、実際は、対象者の見張りが主な仕事となっていた。


「それで俺達は、ここから見ていれば良いんだな?」

「そんな訳あるか。見張り仕事をナメすぎてるぞ」


 シロウが、あまりにもヤル気なさげに訊ねると、先任の冒険者から叱咤(しった)される。

 そして、成すべき役割について言い聞かされた。


 引き継がれる見張りは、二人組の二班に分かれて(おこな)う。

 その内訳は、見張り部屋に二人と裁縫所の裏口に二人。

 調査対象に不審な行動が見られれば、一人が追跡、もう一人が連絡役を(にな)う。

 ただし、少しでも身の危険を感じたなら、生還を第一に考えるように、と忠告された。


「くれぐれも軽率な行動はしないでくれよ」

「はい、アドバイスありがとうございます」


 シロウの軽率な言動により最後に釘を刺されるも、ルネは助言に感謝の気持ちを返す。

 こうしてルネ達は、見張り部屋に陣取り、役割を引き継ぐ事となった。

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