123.宝玉の足跡
──冒険者ギルド──
「なぁ、コウヤ、途中の道でも思ったんだけど、なんかゴツイ戦士が多くないか?」
「ああ、あれは王国軍の装備だな。武術祭で目にしている。だが、なぜギルドに……」
コウヤは、ギルド内の一画を占めて目を光らせている戦士達に疑問を覚える。
基本的に各国家は、冒険者ギルドに干渉しない立場を取っている。
それは、国家が全ての魔物の襲撃に対応するだけの力を持っていないからであった。
国家が保有していなければならないものは、領土と国民。
そして、その支配地域においての実行力である。
ここで言う実行力とは、統治力や軍事力。
支配地域を豊かにし、外敵からの脅威を退ける力である。
しかしながら、この世界には、隣接する他国の他に魔物と言う外敵がいた。
各国は、他国との力の均衡を保つ為に常備軍を保有していなければならない。
しかしながら、その戦力を魔物への対応に割いては、他国に付け入られかねない。
かと言って、魔物を放置して個体数が増えれば、領土と国民が蹂躙されかねない。
その実情は各国共通であり、これによる国民から不信が突きつけられるのも同じ。
そこで各国は、民間で生まれていた魔物討伐を請け負う組織に白羽の矢を立てた。
こうして国家から独立し、魔物の脅威を排除する、と言う立ち位置の組織が誕生する。
それが、時と共に、なんでも屋のようになった、現在の冒険者ギルドであった。
国家の常備軍は、基本的に対国家戦力である。
その国軍が魔物絡みで動く場合は、よほどの大群や大物が絡んだ案件となる。
各国から、魔物の討伐の委任の協定に合意を得ている冒険者ギルド。
そのギルドを差し置いて、前述の条件から大きく逸脱するのであれば、大問題となる。
なぜなら、ギルドと他国に、自国への攻撃の口実を与えるに等しい行為となるからだ。
「すみませ-ん、狩猟品の買取りをお願いします」
シロウは、半端な時間帯の為、ガラガラとなっている買取りカウンターの前に立つ。
そして、顔を出した担当のギルド職員であるバドに、戦士団について訊ねた。
「あなた達は、四日前にあった製錬都市での出来事を知らないのですか?」
バドは、シロウのギルドカードとマジックバックを受け取り訊ね返した。
「うん、俺達は、数日前から国境沿いで、警備隊の人達と魔物を間引いてたからなぁ」
「昨晩は砦で一泊させてもらったが、その時にも何も聞かされていない」
シロウ達は、国境の砦で警備隊と口裏を合わせておいた理由を告げて狩猟品を見せる。
「た、確かにあの当たりに出没する魔物達ですね。数が多いので場所を移動しましょう」
バドは、マジックバックから出てくる大量の岩鼠に、目を白黒させる。
そして、奥にある解体場へとシロウ達を案内しようとした。
「その前に新種の魔物の情報を渡しておきたい。記入用紙があるならもらえるか?」
「分かりました。それではこちらに記入をお願いします」
コウヤは、黒爪狼と炎舌鳥の事を記入すると、バドに渡す。
そして、解体場へと移動しようとした時、後ろが騒がしくなった。
「ごめん、ごめんなさーい。出来心だったんだぁ!」
「ええい、黙れ。それはこちらで調べさせてもらう。連れて行け!」
「はっ!」
受付けカウンターの前で、髪の赤い剣士が、王国軍のゴツイ戦士に連て行かれる。
その状況が理解出来ていないシロウ達は、ただただ唖然として見る。
だが、ギルド内の冒険者達の多くが、またバカが現れた、と呆れていた。
「いまのは、一体なんだったんだ?」
「ああ、あれですか」
バドは、苦笑いを浮かべて答える。
「あれは四日前に製錬都市の街中に現れた魔物を狩った『英雄のニセモノ』です」
その言葉にシロウは、先ほどのバドが口にしたものとの関連性を頭に浮かべた。
「訳が分からないな。いまのがニセモノだとして、なぜ王国軍が、あいつを連行する?」
「ええと、それは……その魔物狩りの英雄の連れの一人に問題があるんです」
バドが、コウヤの疑問を、解体場への案内をしながら順を追って説明する。
発端は、製錬都市の冒険者ギルドが、巨大なスライムに飲み込まれた時まで遡る。
当時、ギルドを覆った巨大スライムを、居合わせた冒険者達が結束して焼却を試みた。
しかし、あまりにも巨大化したスライムには、一斉に放った炎の魔法が通じなかった。
それは、居合わせた冒険者の多くがランクの低い者達だった、と言うのも要因の一つ。
そして、その場に高ランクの冒険者がいなかったのにも理由があった。
なぜなら事件が起きた当時、多くの冒険者達が別の場所に集っていたからっである。
その場所とは、この国境の街。
事件は、武術祭の開催期間中に起きていた。
そんな戦力不足の中、一人の剣士が巨大スライムに覆われたギルド内に突入した。
赤い髪をした剣士が、ギルド内に突入した直後、巨大スライムに異変が起きる。
それまで何をしても平然としていた巨大スライムが、一瞬のうちに消滅したのだ。
そのあまりにも儚く、泡が弾けるように消滅した事から、その事件は、こう呼ばれる。
『バブルスライム事件』と──
「ちょっと待て、武術祭の最中に、その赤い髪の剣士が巨大スライムを倒したのか?」
コウヤはバドの話しを聞いて、その赤い髪の剣士の事を、同じ転移者だと考えた。
そして赤い髪であったのは、コウヤ達に起きたのと同じ『赤髪化』であったのだと。
しかしながら、いまの話の中には矛盾点があった。
バブルスライム事件が四日前の製錬都市で起きた事件なら、武術祭の期間と合わない。
コウヤ達の身に赤髪化が起きたのは、武術祭の最終日の翌日なのである。
「そうです。事件は武術祭の二日目に起きました」
「ん? じゃあ、いまの話って、さっき言っていた四日前の話じゃなかったのか?」
「そうです。ただ、順序立てて説明する為には必要だったので……」
「そうか……話の腰を折ってすまなかった。続きを聞かせてもらえるか?」
「はい、それでは、巨大スライムの討伐後の経緯を、お話します」
バドは、冒険者ギルドが、赤髪の剣士と呼ばれる者を探した時の事を語る。
事件後、冒険者ギルドは、赤髪の剣士を探したが、そこで大量のニセモノが現れた。
冒険者ギルドは、このニセモノ達に手をこまねく。
彼らの狙いは、金や名声。それに及ばずとも、冒険者ランクを求める者達だった。
冒険者ギルドは、それら有象無象を特別昇格試験を実施する事で振るいに掛ける。
そうして五日も過ぎた頃、次の事件が起きた。
それが件の四日前に製錬都市で起きた出来事。
製錬都市の街中に、突如、新種の魔物が出現した。
その姿は、一言で言い表すなら、体躯の良い大柄な緑鬼。
右手の甲からは剣が伸び、左手には長物の槍が握られていた。
特徴的だったのは、その頭部。
伸びた真紅の髪は頭上でトグロを巻き、帽子を被っているように見えた。
『レッドキャップ』
その姿から、その場に居た誰かが、その魔物を、こう命名した。
街中で暴れ回り、民衆を守る為に戦った多くの衛兵団が、その命を落とす。
そんな戦いの場に、再び、あの赤髪の剣士が姿を現した。
赤髪の剣士は、四人の仲間と共に赤帽子と対峙する。
そして、激戦の末に赤帽子を討伐し、立ち去った……
「(……コウヤ、コレ、当たりじゃね?)」
「(そうだな、まさか、こんなにあっさりと情報が入るとはな……)」
シロウ達は、赤帽子が逸脱者であり、赤髪の剣士が討伐者である事を察する。
「だが、やはり分からないな。なぜ王国軍が、その赤髪の剣士を探している?」
「単純に、強いヤツを探してるんじゃないのか?」
「いいえ、そう言う訳ではありません」
バドは、顔を曇らせて答える。
「問題は、赤帽子を倒した時に共闘していた者なのです」
「そう言えば、そんな事も言っていたな?」
「その問題児って、なんなんだ?」
「それは……『塩害の女王』です!」
「誰それ?」
バドが、思いっきり溜めて告げた名前を、シロウがアッサリと聞き返す。
そのシロウの返答にバドは、コイツはバカか? と言う表情を露にした。
「すまないが、シロウは、その手の話に疎い。詳しく教えてやってもらえるか?」
どうやら、この世界の者には、塩害の女王と言う名前は、特別なものらしい。
しかし、その名前にコウヤも心当たりは無かった。
ゆえに、コウヤは、シロウを身代わりにする事で聞き出す事にする。
『塩害の女王』
それは『砂狐』と呼ばれる種族の希少種である『塩狐』と言われる種。
『塩を生成して操る能力』を持ち、過去に一国を塩害で滅ぼした最悪の存在。
その脅威度は、同じく過去に一国を滅ぼした子猫種の上位と位置付けられていた。
その最たる理由は、塩害の被害を受けた土地は、作物が育たない不毛の地と化す為。
ゆえに、その地は現在も砂漠化が進み、人が住めない大地と化している。
この点が子猫種との大きな違いであり、現在は『害種』と認知されていた。
「塩害の女王とは、そんな過去の塩狐の中でも最悪の一人の事なのです!」
バドは、ギルド職員に配布されている、伝承の絵画の複製画をシロウ達に見せた。
「へぇ~、人相書きがあるんだ」
「だが、これは伝承の絵画の複製画と言ったな。つまり実物の人相とは違うのだろ?」
「はい。ですが、今回目撃した者達は、全員、瓜二つだったと証言しています」
「なるほど。なら、おれも覚えておこう」
長い銀髪とハツカと同じくらいの身長。
コウヤは、複製画では分からなかった特徴を、バドから聞いて頭に入れる。
「つまり今回、王国軍が動いているのは、塩害の女王の確保の為、と言う事か?」
「そうなります。そしてギルドは、二人の赤髪の剣士への対応を行っています」
「二人の赤髪の剣士?」
シロウは、バドは何を言っているんだ? と訝しむ。
「なるほど、ギルドは、前者と後者が別人だった場合を想定しているのか」
コウヤは、バブルスライム事件とレッドキャップ事件の剣士が別人の可能性を考えた。
「そうです。先の赤髪の剣士には、ニセモノが大量に発生していました」
「ああ、そうか。赤帽子の討伐者が、その赤髪の剣士に偽装していた可能性があるのか」
「はい、なにせ連れ立っていた者の一人が、悪名高い塩害の女王なのですから……」
「確かに、そう考えると隠れ蓑にするには、打って付けの身代わりだな」
「なのでギルドは、前者を赤髪の剣士、後者を赤迅の剣士と識別しています」
「だから王国軍は、仲間と見られる赤迅の剣士から塩害の女王を探している、と」
「英雄じゃなく、問題児の連れだから危険視して追っている訳か」
「だから、そんな者を騙った愚か者を、みんなが冷めた目で見ていたのだな」
コウヤは、軍の戦士に連行される愚か者を見ていた冒険者達の姿を思い出した。
「なので、こちらの者達についても、心当たりがありましたらギルドに、ご連絡下さい」
バドは、残りの三人の特徴を記したメモの内容を読み上げる。
一人目は赤帽子を倒した、もう一人の立役者の『水流の魔女』
この者が、赤迅の剣士との連携で赤帽子を討伐している。
その通り名は、生活魔法の『流水』を多用していた所から命名されていた。
二人目は、長身で長い金髪のエルフである『槍の戦乙女』
こちらは、槍使いであった事から命名された通り名。
そして、召還した魂馬に引かせた馬車で、赤迅の剣士達と共に立ち去っている。
三人目が、『灰鉱石の匠』の通り名が付けられた『ロッシュ』
この者だけが、名前が判明している。
ロッシュは、いままで加工が困難とされていた灰鉱石の安定生産が出来る技能を持つ。
しかも、その技術を、戦闘中に自身の弓の矢を生成する、と言う形で証明した。
そして、塩害の女王と槍の戦乙女が、所持していた武器──
現場で『鑑定』した者によって、これらにロッシュの銘があった事が確認されている。
少なくとも塩害の女王と槍の戦乙女が、ロッシュの仲間である事は間違いなかった。
「うん? 戦闘中に鉱石を使った弓矢を作ったって言うのは、どう言う事だ?」
シロウは、バドの話にあった不可解な説明に頭を傾けた。
「ああ、生産技能について、あまりご存知ではないようですね」
バドは、魔物から取れた魔石を介して物を作成する『魔石加工』の技術を説明する。
「要は、熟練の職人は、作成の過程を魔石の力を使って省略出来るようになるのです」
「何それ、ズルイ」
「いえいえ、これにも良し悪しはあります」
バドが言うには、魔石加工では一定水準の物は簡単に作成が出来るらしい。
しかし、精巧な物を求めた場合、よほどの職人で無い場合、魔石加工に失敗する。
つまり、及第点な品質の物で良ければ、大量生産が可能な魔石加工に一日の長がある。
逆に一点物の高品質品を求めるなら、職人の技能に委ねるのが常識とされていた。
そして、灰鉱石とは、魔石加工が不可能とされていた物の一つであった。
「灰鉱石は、鍛治職人が一生に一度しか武具を作成出来ない、とされていた迷鉱石です」
「ソイツは、そんな物を使って、使い捨ての弓矢を量産して見せたのか?」
「はい、おかげで、その情報が流れてからは、灰鉱石の値は上がっていく一方です」
それは、いままで見向きもしなかった王国が、研究の援助を始めた為でもあった。
「ギルドも『灰鉱石景気』と呼んで、大変喜んでいます」
バドは、もし鉱石を入手したら高額で買い取っています、と伝えてきた。




