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122.辺境伯邸にて

「まったく、オマエ達は無茶をする」

「いやいや、見覚えのある地形まで戻ったんだ。砦まで戻った方が安全だろ?」


 昨晩の深夜、シロウ達は国境の砦に辿り着き、そのまま事情聴取を受けて一泊する。

 そうして辺境伯ウェキミラ卿への報告を終えた現在。

 シロウ達は、その配下のテオルドとウェキミラ邸への道中を馬車に揺られていた。


「それで、おれ達は、どうして邸宅に呼ばれているんだ?」


 コウヤは、もう依頼が終っているのに、なぜだ? とテオルドに訊ねる。


「それは、今回の事をリディアーヌ様が気に掛けておられたからだ」

「武術祭が終ったのに、まだ残っていたのか?」

「左様、お優しき殿下は、今回のアニィ王女の事を(いた)く、ご心配なされておいでだ」


 テオルドは、ミィラスラ王国の第二王女の心情を代弁する。


「(よほどヒマなのですね)」

「(ハツカさん、そう言う事は言わないでください)」


 しかし、さっさと公務に戻らない王族、と言う事でハツカの心象は悪かった。

 それは、逸脱者(エラント)の情報を集めたいシロウ達も同様で、邪魔者以外の何者でもなかった。


「ようこそ、お越し下さいました。依頼を成し遂げて下さった事、感謝しております」

「は、はい。身に余るお言葉、光栄です」


 なので、眼前のポッチャリお嬢様に恐縮しているルネとは裏腹にシロウ達は思う。

 どうやって、この場を、さっさとやり過ごそうか、と。


「お話は、お茶と一緒に(うかが)いたいと思います。どうぞこちらへ」

「は、はい」


 リディアーヌは、簡潔な報告ではなく、話し相手を、ご所望のようであった。

 その事からシロウ達は、心底、面倒くさい事になったと、ため息をつく。


 今回は、依頼の過程を報告するだけなので、事実を淡々と告げるだけで良い。

 これが依頼を受ける交渉事となるなら、シロウやコウヤが介入する必要もあるだろう。

 しかしながら、紅茶を口にするリディアーヌの様子から、それが無いと判断が出来た。


「(ルネ、もし新しい依頼の話が出たら受けずに、一旦保留にしておいてくれ)」

「(シロさん、分かりました)」

「(ハツカは、ルネの事を頼む)」

「(コウヤ、私達は、そちらに行かなくても大丈夫なのですか?)」

「(女子会って(てい)にしておいた方が、お嬢様や執事(セドリック)の心象がよさそうだからな)」

「(はぁ、分かりました)」


 シロウ達は、ルネ達に依頼絡みの話を安請け合いしないように忠告する。

 その上で、お嬢様の話し相手を任せると、冒険者ギルドへの報告を理由に退席した。


「昼食の用意がありましたのですが、お食事をしていかれては、いかがでしょうか?」


 ──が、部屋から退室してすぐに、廊下で執事セドリックと顔を合わせる。

 そして、さっさと退散したい心情とは裏腹に、昼食の誘いを受けてしまう。


「依頼は完了したんだし、もう俺達に気を使ってもらわなくても良いと思うんだけど?」

「狩猟品をギルドで買い取ってもらったら、宿探しがあるんで、もういかせてもらう」

「それでしたら、私達の方で、それらの手配もいたしますが?」

「う~ん、いまは美味い物より、食べ慣れた気軽な物が食いたいかなぁ」

「安宿でも気兼ねなく休める方が好みなんで、気持ちだけいただいておこう」

「分かりました。それでは、お見送りだけはさせていただきます」


 執事セドリックが、何かと引き止め工作を仕掛けて来たが、シロウ達は、それを断る。

 それは、自分達の事情を知られたくない、と言う防衛反応からのものであった。

 シロウ達は、執事セドリックの案内の下、エントランスまで出る。

 すると、ちょうどその時、新たな来訪者が現れた。


 執事セドリックは、訪れた二人組みの一人の姿を確認すると、その訪問を(いた)く歓迎していた。

 そのいままで見た事がない執事セドリックの喜びように、シロウ達は珍しいものを見た気になる。

 だが同時に、良い機会だ、と執事セドリックに一言挨拶して、早々(はやばや)と邸宅から退散した。


 ウィキミラ邸から少し距離が離れ、街路樹の下を通り、冒険者ギルドへと向かう。


「見た感じ、冒険者のようだったな」


 不意にコウヤが、入れ違いとなった二人組の印象を口にする。


「盾持ちと、フードに大きな×(バツ)印の縫い跡があるコートの人物な。戦士と剣士か?」


 シロウは、目についた二人の特徴を思い出して答える。


「いや、フードで顔を隠していた方は、腰に剣の他にクロスボウを掛けていた」

「なら、斥候か。前衛1、後衛1、と考えればバランスは取れている……か?」

「だが、王族が抱え込んでいる者とは思えない風体だったな」

「盾と斥候かぁ。あのお嬢様、また何か問題を抱えているのか?」

「だが、他の冒険者を呼んでいる、と言う事は、こちらに仕事を振る気はないのだろう」

「見た感じ、俺達とあまり代わらない新人(ルーキー)のようにも見えたけど、お抱えの冒険者か?」

「どうだかな。だが、あのフードの方の首には、ゴールドランクのプレートがあった」

「あっ、やっぱり、俺達より上の冒険者か。そうだよなぁ」


 シロウは、シルバーランクの自分達が王女様との接点がある方が異常だと再認識する。

 そして、さっさと日常生活に戻ろう、と冒険者ギルドへの足を進めた。

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