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120.出村

◇◇◇◇◇


「では、早々に出発するか」

「コウヤさん、どうしてそんなに、先を急ごうとしているのですか?」


 ハツカの目の治療が無事に終わった事を知ったコウヤが、荷物を持ち出して来た。

 朝食に遅れて来て、夜逃げ同様の性急さを見せるコウヤ。

 その分けの分からないコウヤの行動力に、ルネから当然のように疑問の声が上がった。


「コウヤ、せめて準備に一日時間を取りませんか?」


 ハツカは、自分は荷物を解いていなかったから良いが、と付け加えてルネを見る。

 その視線の先には、ルネが滞在中に使用していた調合器具や調理道具が置かれていた。


「帰路は子猫列車(ネコライナー)無しの徒歩だから、移動に二日は掛かると思うぞ?」

「だから、だ。それに事前に食料の補充は済ませてある」


 コウヤは、可能な限り早急に戻る意味がある事は分かっているだろ、と目配(めくば)せする。

 それについては、シロウもハツカも滞在中に交わした会話で理解を示している。

 しかし、滞在中に多くの仕事をこなしていたルネの道具類の回収には時間を要した。


「うっ、分かりました。すぐに準備をするので、しばらく待っていてください」

「ああ、その間におれは、村長に世話になった挨拶を済ませて来る」

「調合器具の事はルネにしか分からないので任せます。私は、それ以外の物を回収します」

「はい、ハツカさん、お願いします」

「じゃあ、集合は村の入り口で良いか?」

「そうだな、それで良い。あと、ルネ、こいつを預かっておいてくれ」


 コウヤは、出発の目処(めど)を立てると、ルネに野絹(ワイルドシルク)を預ける。


「コウヤ、これは……シルクですか?」

「キレイな生地ですね」


 ハツカとルネは、少し茶色掛かってはいるものの、美しい野絹(ワイルドシルク)に目を奪われる。


「村で得た臨時収入だ。荷物になるんでマジックバックにしまっておいてくれ」

「へぇ~、コウヤは、ずっと村猫達(ケットシー)と遊んでいたのかと思ってた」


 シロウは、コウヤがタトバ団とツルんでいたのを何度も目撃していた。

 その為コウヤも、ずっと自分と同類だと思っていた。


「シロウとは大違いですね」


 それはハツカも同様だと思っていたのに、シロウは見事に(さげす)まれた瞳を向けられた。


「俺だって、いろいろと交換して仕入れていたよ」

「その代わりに、シロウは今回の報酬だった胸当てと(すね)当てを失っていますよね?」

「いや~、そのぉ……川に流された時、アレらを着けたままだと溺れていたから、な?」

「つまり、今回の依頼でシロウは、タダ働きだった、と言う事です」

「ハツカ、ヒドイ……」


 シロウは、考えないようにしていた現実を突きつけられて、ガクリと肩を落とす。

 その様子にハツカは、少し機嫌を良くしていた。


「私とルネは、こうしてコウヤから良い物も、いただけたので大満足です」

「えっ、この生地って、もらって良いんですか?」


 ルネは、野絹(ワイルドシルク)を収納したマジックバックとコウヤの間で視線を往復させて困惑する。


「誰がやると言った。まぁ、預かり賃として多少値引きして融通してやっても良いぞ?」

「なかなかにケチですね。快気(かいき)祝いとして受け取る準備があったのですか?」

「預けたのがルネで正解だったな」

「え~と、そのぉ……考えておきます」


 コウヤは、ハツカをあしらって村長宅へと向かう。

 そうして、一通りのやり取りを経てシロウ達と合流したのは半時後だった。


「師匠、待ってくれッキ!」

「まだまだ、教えて欲しいッピ!」

「見捨てないでくれック!」

「コウヤ、ずいぶんと(した)われているじゃないか」

「ちょっと、かわいそうですね」

「コウヤが出発を急いでいたのは、こう言う訳があったからですか?」

「まぁ、否定はしない」


 コウヤは、足にしがみ付くタトバ団と(さげす)んだ瞳を向けて来るハツカに辟易(へきえき)とする。

 こうして、立つ鳥(あと)を濁さず、と言う訳にはいかなかった帰路への旅路に出発した。

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