118.今後の方針
◇◇◇◇◇
「それでシロウ、これからどうするつもりだ?」
コウヤは、同室のシロウに今後の事を尋ねる。
「コウヤさん、シロさんが回復するまで逗留する事で決まりましたよね?」
少し遅めとなった昼食を終え、後片付けも終わって一息ついた頃。
コウヤは、シロウに、今後の事をどう考えているのか、と訊ねる。
すると、シロウに付き添っていたルネが質問の意図が読めず聞き返した。
食後に、いままでの疲れが出たらしく、早々に部屋に戻ったハツカ。
そのハツカが居ない場で話すべきではない、とも考えたコウヤ。
だが同時に、あまり時間を掛けたくない問題だった為、性急な話の振りとなっていた。
「いや、おれが言っているのは、その後の事だ」
「そのあと、と言うと?」
「大別すると、この国に滞在するか、戻るか、または他の地域に移動するか、だ」
コウヤとしては、何事も無かったなら滞在を選択した。
なぜなら、この国には、求めていたトランプを作れる可能性がある。
また、魔法に関しての探求をするのなら多くの実例を見聞する事ができるであろう。
しかしながら、それを差し置いても、いま考えなければならない事がある。
ゆえに、その事についてシロウが、どのような考えでいるのかを訊ねたのであった。
「それなら、ミィラスラ王国に戻るべきだろう」
「そうですよね、ここだと周りの魔物が強すぎます」
ルネは、周囲の魔物の純粋な強さに加え、飛行や毒による攻撃の厄介さを危惧する。
それに対してシロウは、ギルドの冒険者の協力が得られないデメリットを付け加えた。
「珍品を独占出来る狩り場、とも考えられるが、さっさと戻って調べ者をしたい」
「調べものですか?」
「そうか……そうだな」
ルネは、何を調べたいのか、と訊ねるもシロウは、ちょっとな、と答えるのみ。
だが、コウヤには、それが何を意味しているのか見当がついている。
いや、むしろ、その考えに及んでいなかったなら、シロウの事を疑うレベルだった。
シロウが言う『調べ者』とは、コウヤ達の身に起きた赤髪化の元凶の事。
そして、同じ紅玉を分けた転移者の中から現れた逸脱者を討伐者の事であった。
突然現れた逸脱者の影響によって起きたと思われる赤髪化。
それが、数時間後に突然、解除された。
それは即ち、同じく紅玉を持った転移者の手によって討伐されたからに違いない。
ならば、その討伐者と接触して事の真相を知っておきたい。
あの時、誰が、どのような経緯で同郷殺しを行い、何が起きていたのか。
同郷殺しによる逸脱者の出現。
それが起きたと思われる以上、事態の確認は自ずと最優先事項となる。
コウヤ達が、この世界に転移して来たのが約一ヶ月前。
この短期間で起きた禁忌破りである以上、他の転移者達の移動範囲は、まだ狭い。
各自の移動範囲が狭いからこそ起きた事件とも考えられる。
だが、これ以上、多くの時間が経ってしまうと、当事者を見失う恐れがあった。
「すでに報酬は受け取っているが、アニィを送り届けた報告をしに戻るとするか」
「そうだな。国境の警備隊達も、いろいろと気掛かりでヤキモキしているだろうからな」
「そ、そうですね」
コウヤは、シロウの考えをフォローして助け舟を出す。
そのシロウは、いつまでもルネに追求されていた手を解いて、ソレだ、と相槌を打つ。
そしてルネは、シロウとのジャレ合いから我に返って、落ち着きを取り戻した。
「それじゃあ、おれは、まだ探索が終わってない村の残りを見て来る」
「何かおもしろいものがあったら教えてくれよ。暇つぶしに見に行くから」
「ちょっと、シロさんは当分、安静にしていてもらいます」
「いや、散歩くらいさせて欲しい。これ以上、体力を落としたくない」
「シロウには食欲がある。体力をつけてもらわないと、いつまで経っても帰還出来ない」
「別に、慌てて戻る事はないですよね?」
「いや、出来れば、いますぐにでも戻りたいんだけどなぁ」
「シロさん?」
ルネだけが帰還に対する認識が違うだけに、どうしても意見が食い違っていた。
こうなるとパーティとしての方針が定まらなくなる。
シロウが、ルネに自分達の事情を話さないのには訳がある。
コウヤ達が、探そうとしている者は、逸脱者の討伐者。
それは、自分達転移者に降り掛かった厄災を振り払った者。
しかしながら、言い方は悪いが、こちらも同じく『人殺し』とも言える。
そんな者を探し、関わろうとしている事を知れば、ルネが、どのような反応をするか?
人殺しとの接触となれば、ルネは反対するかもしれない。
ただ、前回同様、遠方で逸脱者が出現した場合、何も出来ない不安が付きまとう。
だからこそ、協力者として接触を持てるなら持っておいた方が得策。
逸脱者とは、どう言ったものだったのか?
その対処法とは、どのようなものだったのか?
その判別方法や探し方が分れば、更に良い。
この二択でルネが前者を選択した場合、治療を理由に足止めを長引かされかねない。
だからこそ、そのリスクを考えた話の進め方をコウヤ達はしていた。
少なくとも、この地に隔離されていた三人は、ルネにとって討伐者ではないのだから。
「ルネへの説明と説得は任せる」
「あっ、コウヤ、ズルイぞ」
「えっ、えっ、えっ? もう、一体なんなんですか?」
コウヤは、結局はシロウ達の治療と回復次第なのだから、と丸投げする。
そうして、再びジャレ合いが始まるであろう一室から立ち去った。




