表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/285

110.立て篭もり事件

「とは言え、いつまでも子猫達(ケットシー)の相手はしていられません」

「そうですけど、いまのシロさんを連れて移動するのも、かなり厳しいと思います」


 引くにしても、村猫(モモ)の家に戻って立て篭もる事くらいしか出来ない。

 それでは、村猫達(ケットシー)を引かせる事が出来ず、勢いづかせてしまう。

 そうなると、人質(ネコじち)がいなくなったいま、容赦なく民家ごと潰される恐れがあった。


「適当に、もう一度、人質を捕まえましょう」

「ちょ、ちょっと、ハツカさん?」

「そうだな、最初の均衡状態に戻して、仕切り直した方が良いだろう」

「コウヤさんまで、何を言ってるんですか!」

「では、そう言う事で」

「本当に、考え方が悪党だよな」


 シロウは、ハツカとコウヤの考えに賛同は出来なかった。

 しかし、現状では自分が足枷になっている事も理解している。


 まともに走れるとは思えないシロウ。

 同様にハツカも視力を失っている為、移動の足が鈍くなる事が容易に想像出来る。

 そしてルネは、その両者を支えて誘導役に回る事となるだろう。

 そうなると、逃走中に戦えるのはコウヤのみとなる。


 しかし、そのコウヤも移動しながら使える魔法となると、そう多くはなかったはず。

 更に、多数を相手にする魔法となれば、その構築に時間を要する。

 その時間を稼いで支える役割のハツカは、先述の通り、十分な後退速度を持たない。

 この堂々巡りによって、すでに選べる選択は無いに等しかった。


 後退して立て篭もる選択しか選べない状況下。

 そして、先の攻撃で民家の一部が破壊されている現状。

 シロウ達が立て篭もると、村猫達(ケットシー)は民家を倒壊させに来るだろう。


 つまり、選択肢が無い以上、このまま無策でいると先が無い。

 これらの現実を打破する為にも、新たな一手を打つ必要があった。

 ゆえに、シロウは軽口を叩きながらも、二人の判断に身を任せる。


「もう一度、みんなで一斉に掛かるにゃ!」

「「「「「にゃーっ!」」」」」


 村猫達(ケットシー)は、一斉に石矢弾ストーンボルトを投射する。


石矢弾(ストーンボルト)は、炎壁(ファイアウォール)で可能な限りブロックする」

「では、私は、近い者を一本釣りします」


 コウヤは、炎壁(ファイアウォール)で迎撃体勢を取り、ハツカは菟糸での捕縛を目論(もくろ)む。

 そして──


「にゃぁーっ!」


 ハツカの菟糸が、一匹の子猫(ケットシー)の足を絡め取った。


「あーっ、おでん屋が捕まったにゃ!」

「なんて事にゃ!」

「みんなで人質(ネコじち)を助けるにゃ!」

「「「「「にゃーっ!」」」」」


 人質(ネコじち)を取られた事で、村猫達(ケットシー)の敵愾心と団結が強まる。

 その結果、得体が知れない者への恐怖よりも、仲間を助けだそうとする想いが(まさ)った。

 村猫達(ケットシー)は、防戦に徹しているコウヤ達への強襲を敢行する。


【全員、動くにゃ!】


 しかし、その時、両陣営の中央に降り立つ者が現れた。


(シュタッ!)「ネコレッド!」

(シュタッ!)「ネコブルー!」

(シュタッ!)「ネコイエロー!」

(シュタッ!)「ネコピンク!」


「「「「四人そろって──」」」」


『ポイポイ戦隊・ネコレンジャー』


「ふにゃ~、レッド、仲間はずれにしないでくれにゃ~」

「オマエだったのかっ!」


 シロウは、菟糸の拘束状態下で変身したネコグリーンに、思わずツッコミを入れた。


「ウチらに隠れて小銭稼ぎするようなヤツは、仲間じゃないにゃ!」

「いつも、オーデーンスビアからダシが飛び散って来て迷惑なのにゃ!」

「ニオイで、お腹が減るのにゃ!」

「ギルティ、けってーい!」

「みんな、ヒドイにゃ!」


 村猫達(ケットシー)の目の前で仲間割れを始める子猫達(ネコレンジャー)

 その様子に、村猫達(ケットシー)呆気(あっけ)に取られていた。

 どうやら村猫達(ケットシー)は、子猫達(ネコレンジャー)子猫軍(ニャンニャンアーミー)と比べて、常識的な部類だったようだ。


 子猫達(ネコレンジャー)は、その動向は別として、王国の博士(カブト)の管轄下にある特殊部隊である。

 そして、子猫達(ネコレンジャー)と共に王女(アニィ)の帰還に尽力した者がいた事は、すでに周知されていた。


「とにかく、ここにいる人間達は子猫(ケットシー)狩りじゃないのにゃ」


 これらの事前情報により、解放されたネコグリーンの説明に村猫達(ケットシー)が耳を傾け始めた。


「本当に、コイツらは子猫(ケットシー)狩りじゃないのかにゃ?」

「それは間違いないにゃ」

「あと、子猫(ケットシー)狩りは、仮面をしている、って聞いたにゃ」

「そいつは、顔を隠しているのにゃ、怪しいのにゃ」

「それと、それと……人間の男性(オス)って聞いてるにゃ」

「はにゃ? 何を言ってるにゃ? この人間は男性(オス)じゃないのにゃ」

「えっ? それなら、そいつは女性(メス)だったのかにゃ?」


 村猫達(ケットシー)は、ハツカの薄い胸部装甲に疑惑の眼差しを向けた。


「何か言いたい事でも?」


 ハツカから、殺気に近い怒気が発せられた。


「お、おい、ハツカ、村猫達(ケットシー)を威圧するのは()めろ」

「事態が収拾しなくなる!」

「ハツカさん、これは、私達が子猫(ケットシー)さん達の性別が見分けられないのと同じなんですよ」


 ルネが、ハツカを(なだ)めようと村猫達(ケットシー)の話を建設的に解釈する。


「……つまり、逆に子猫達(ケットシー)も、人間の男女の違いが分からない、と?」

「な、なるほど、確かに戦闘中に戦っている魔物の性別なんて見分けがつかないよなぁ」

「そんな事に気を回す事もないがな」


 ハツカは、ルネ達の言葉で、一定の冷静さを取り戻す。

 しかしながらハツカは、シロウの言葉に動揺があった事で、言葉の裏を読んでしまう。

 そしてシロウは、当然のように視線がハツカの薄い胸部装甲に向いた事を秘匿した。


「あと、子猫(ケットシー)狩りは、剣を振り回している、って聞いたにゃ」

「ふにゃ~、そう言われると、確かに、この人間(ハツカ)と似ている特徴が結構あるのにゃ」


 子猫達(ネコレンジャー)は、包帯で顔の一部を隠し、剣を(たずさ)えているハツカの事をジッと見つめた。


「どこをどうすれば、あの黒仮面(シリィ)と私が同一視されるのでしょうか?」


 ハツカは、村猫達(ケットシー)の言い分に不満を抱える。


「むしろシリィの名前が伝えられていたら、女性のような印象を覚えられていただろう」

「その場合は、また違った誤解が生まれて別の問題が起きていたかもなぁ」


 つまりは、怪しさ爆発の黒仮面(シリィ)を村に招き入れて、皆殺しにされる可能性であった。


「とにかく、程度の違いはあるけど、人間の違いなんて、一目じゃ見分けられないにゃ」

「似たようなローブを着ているヤツらなら、もっとムリなのにゃ」


 村猫達(ケットシー)からの証言が取れ、この思い違いの要因が浮き彫りとなった。


村猫達(ケットシー)さん達だけが悪いとは言いきれない、と言う事ですか?」

「そうだな、センからの伝達が不十分だった感があるな」


 ここに(いた)り、村猫達(ケットシー)との誤解が解消される。

 

「はにゃっ? と言う事は……」


 モモが我に返って、視線を自宅へと向ける。


 ミシッ……ミシ、ミシ、ミシッ……【ドシャーンッ!】


 村猫達(ケットシー)が沈黙する。

 その視線の先には、石矢弾(ストーンボルト)によって倒壊したモモ宅があった。


「モモの……モモのお家が、無駄に犠牲になっちゃったのかにゃ……」


 ガクリと肩を落とした家主(モモ)から、全員が視線を反らした。


「モモ……もし良かったら、しばらく家に来ると良いにゃ」

「ううっ、ソラ、ありがとにゃ」


 今回の一番の被害者モモは、村猫(ケットシー)のソラの所に身を寄せる事となる。

 シロウとの合流に(ともな)って起きた立て篭もり事件(茶番劇)は、こうして終息を迎えるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ