107.吉報
「それは本当ですか!」
子猫達の野営地で一晩を過ごしたルネ達。
その朝食の場でセンから伝えられた言葉をに、ルネは身を乗り出して聞き直していた。
「川の下流の村から、人間を見かけた、と言う報告があったにゃ」
センが、王国中に敷いている情報網。
その報告の中に、コウヤ達の捜索対象らしき者を見た、と言うものがあった。
コウヤとルネが、事前に王都で大臣と持っていた会合。
それが、ここで実を結ぶ形となって返ってきていた。
「それが本当なら、シロウの可能性が高いな」
「そうですね、ただ、この地に居る人間と言うだけでは……」
「なんにゃ? 見つかったのが嬉しくないのかにゃ?」
しかしながら、話しを聞いたコウヤは思案に耽け、ハツカの言葉は歯切れが悪かった。
センは、その二人の煮え切らない態度に訝しさを覚える。
国境が閉じられていた、この地に居る人間。
そうなると、普通に考えれば、目撃された人間とは、ほぼシロウで間違いない。
しかしながら、コウヤ達と同時期に、同じく国境を越えた者が数人いた。
それが、アニィの送還を妨害して来たザムザ達一行とシリィと名乗った黒仮面。
ゆえに、シロウの捜索の間に、彼らに追い抜かてしまった可能性があった。
「シロウ以外にも、おれ達を追って来ていた連中がいるからな」
「王都で聞いた追っ手の事かにゃ?」
「それと、私と戦ったシリィと名乗る黒仮面の戦士の可能性ですね」
「むっ、それは初めて聞く話しにゃ。詳しく教えるにゃ」
「ええ、構いませんよ」
報告があった、と言う事は、子猫達には被害が出ていない。
その時点で、子猫達を狩る事を目的とするシリィの可能性は消える。
そう考えたハツカは、シリィとの戦闘の経緯を話し、子猫達を狙っている事を伝えた。
「なるほど、かなり危険な人物が侵入しているようにゃ。分かったにゃ」
センは即座に、不用意に人間に近づかないように、と情報網を通して警告を飛ばす。
「とにかく、その村に行ってみましょう」
ただ、こう言う時は、あれこれ考えるよりも、実際に行動した方が良い場合がある。
センが、飛ばした警告が回りきる前に事態が動く事も考えられるのだから……
それを知ってか知らずか、ルネが、その場で即決即断をした。
それは、シロウが気掛かりで、いても断ってもいられなかったルネのいつもの行動。
【ペチッ】
──かと、当初ハツカ達は思っていたのだが、今回は、それだけではなかったようだ。
【ペチッ】
「はうっ……」
ルネは、わずかに増した自分の取り皿の変化に、思わず間の抜けた声を出していた。
そして、数匹の子猫達が、ルネの皿に料理を乗せて逃げたのを見て肩を落とす。
「もう、そう言うのは止めてくださーい」
ルネは、周囲に潜んでにじり寄っている子猫達に訴え掛ける。
しかしながらルネは、やはり昨晩同様に子猫達の良い標的にされていた。
「確かに確認は必要だ、さっさと食って向かうか」
「そうですね」
「ちょっと二人とも、見てないで止めてください」
「そもそも私は、包帯が取れていないので、何も見えていないのですが……」
「マジックバックにでも入れておけ」
ハツカの菟糸は、様々なニオイが行き交う中から、特定の対象を絞る事は困難。
ただ、これが実践であったなら、対象を減らして識別精度を高める事は可能であった。
しかしながら、このようなイタズラな子猫達を相手に、そのような事出来ない。
詰まる所、ハツカは、この子猫達への対処を早々に諦めざるを得なかった。
対してコウヤは、さっさと朝食を切り上げる事で難を逃れる。
コウヤとルネ達とでは、マジックバックの有無の差があった。
コウヤの場合、子猫達に目を付けられるとマジックバックが無い分、面倒な事になる。
その辺りの事を踏まえて、コウヤはルネに一言掛けて、早々に退避していく。
「もう、食べ物で遊ぶのは止めてくださーい!」
「無常ですね」
結局の所、ルネもハツカも子猫達の遊び相手にされてしまう。
そんな中でルネは、料理への感謝の気持ちから可能な限り食べて応える。
しかし、さすがに最後は力及ばず、マジックバックへと収納していた。
このような余計なトラブルに巻き込まれた朝食。
そこでの満腹感から来る疲労を抱え、ルネ達は報告があった村へと向かった。




