106.ブーム
「コイツも食べるにゃ」
「こっちも美味しいのにゃ」
「肉食えにゃ」
「お魚もあるにゃ」
「果物は、こっちにあるにゃ」
「そ、そんなに食べられません……」
センに続いて、ルネに次々と料理を持ってくる子猫達。
何か物を食べる事で血糖値を上げ、脳を活性化させる。
そうする事で、乗り物酔いを解消する方法が確かにある。
ただし、それは基本的に予防策であり、人よって合う、合わないが存在する。
ゆえに、いまの体調を崩しているルネの場合、それは、あまり良い方法ではなかた。
しかしながら、そんな事は子猫達には関係ない。
子猫達は、思い思いの食べ物を薦める。
そこには、乗り物酔いや体調の改善に良い、と言った配慮は含まれない。
ただただ、自分達が美味しいと思った物を薦めている。
その満面の笑顔には、無邪気さが満ち満ちていた。
なかなかに断りづらい攻勢。
ルネは目の前の数々の料理に、胸焼けしそうになっていた。
「さすがに疲れたんでな、先に休ませてもらう」
ルネの脳裏に、コウヤが立ち去った時の言葉が浮かぶ。
「さすがに(食べ)疲れたんでな、先に休ませてもらう」
どうやら、あれは、そう言う意味だったらしい。
ここに至り、ルネはコウヤが早々に退散していった理由を察した。
ルネは、意を決して、盛大に盛り付けられた大皿に手を伸ばす。
子猫達との間に角が立たないように、小分けに料理を取っていく。
そうして、押しの強い子猫達をやりすごして、半分以上の料理を断っていった。
子猫達は、そんなルネに次第に興味を無くしていく。
こうしてルネは、やっと落ち着いた環境で夕食を口にする。
そんな中、ある子猫が、ルネのスキを突いて、勝手に取り皿に料理を乗せていった。
ルネは、その事に気づかず、料理を一口食べてしまう。
すると、その子猫は、目を輝かせて歓喜した。
一つ、また一つと、野菜やら木の実やらを取り皿に乗せていく。
その子猫は、何度も繰り返して、料理をルネの取り皿に乗っけていった。
そんな事を繰り返していれば、いくらコッソリしていても、ルネに気づかれる。
ただ、それをルネは、子猫の愛らしい見た目と行動に絆されて許してしまった。
食べ物の好き嫌いがあったのかな? と思った程度の認識で見逃してしまった行為。
その根底には、ルネが教会の孤児院で育った、と言う背景があった。
多くの孤児達と一緒に生活していた事もあり、十分に食べるられなかった事もある。
また、小さな子供達の中には、好き嫌いをして、嫌いな物を食べ残す者もいた。
そんな両面を知っているルネには、食べ物を残したり、粗末にすると言う考えは無い。
ゆえにルネは、仕方がないな、と思いながら、少し無理をして料理を食べていく。
──が、そのやり取りを他の子猫達に目撃されてしまった。
子猫達の中からマネをする者が現れる。
ルネは、この子猫も、嫌いな物があったのかな、とまた許してしまう。
すると、その子猫は、満面の笑みを浮かべて喜んだ。
その様子を見た他の子猫達の機嫌が、良くなっていく。
そして、またもや前の子猫達のマネをする者が現れた。
再び、止むを得ず、取り皿の料理を食べていくルネ。
「えっ?」
だが、その瞬間、ルネの取り皿の上に新たな料理が追加された。
そして、気がつくとルネは、子猫達に包囲されてしまう。
「え~と、みなさん、もしかして、このお野菜が嫌いなのですか?」
ルネは、子猫達が、嫌いな野菜を食べてもらおうとしているのかな? と訊ねる。
しかし、子猫達は、首を左右に振って、それを否定した。
どうやら、最初の子猫も、別に嫌いな物を押し付けてきていた訳ではなかったようだ。
ルネは、少しイヤな予感にがして、試しに取り皿の上の料理を一口、口に運ぶ。
すると、一匹の子猫が、素早くルネの皿の上に、満面の笑顔と共に一品乗せていった。
「こ、これって、完全に私をオモチャにしていませんか?」
ルネの問いに対して、子猫達は満面の笑みで『食べて、食べて光線』を発した。
ここに至り、ルネの顔が一気に青ざめていった。
「食べ物で遊ぶのは良くありません。もう、これでお終いですからね」
ルネは、子猫達に、そう言い聞かせて、最後の料理を口に運ぶ。
──が、ルネの取り皿に、椀子ソバのように、容赦のない追加料理が乗せられた。
「ヒヤァーッ!」
ルネは、悲鳴を上げながらも、料理を残す事が出来ずに食べ続ける。
その食べっぷりに、子猫達のご機嫌は、うなぎ登りに上昇していった。
そして──
「……ルネ、無理せずにマジックバックに収納してしまえば良かったのでは?」
「そ、そうですね……」
夜風に当たりにテントから出て来たハツカによって救助されたルネ。
だが、当然のように、食べ過ぎによって、ヘトヘトに疲れ果てていた。
そして、その夜、調子に乗った子猫達によって、同じ行動が多発する。
こうして、子猫達の間で、新しい遊びがブームとなっていった。




