表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/285

105.子猫軍

子猫(ケットシー)さん達、楽しそうですね」


 子猫達(ケットシー)が騒いでいる広場から少し離れた焚き火の前。

 小さな焚き火を囲んでいたコウヤとセンの(そば)で、ルネは率直な感想を口にした。


「ああ、軍隊とは思えない自由っぷりだ」


 ルネ達は、アニィや子猫達(ネコレンジャー)を見てきていたので、この光景に耐性があった。

 とは言え、コウヤが、こう言いたくなるのは仕方がない事。


 子猫軍(ニャンニャンアーミー)には、規律が、ほぼ無い。

 そこに集められているのは、本当に気まぐれな子猫達(ケットシー)

 その為、面白くない、と思えば、勝手に散って帰ってしまう。

 この郡衆を軍隊として行動させる為に、大臣のアードレイは、毎回、苦心している。


 今回もそれは同様で、これは遊びの一環、と言う体裁(ていさい)の下に子猫達(ケットシー)を動員している。


 子猫達(ケットシー)の狩猟領域に紛れ込んだ黒爪狼。

 その発見と討伐を目的とした、狩猟ゴッコ。

 ついでに、迷子のシロウ(ボーナスキャラ)の発見と保護が出来たら、ご褒美が別途で追加される。


 これは、新しいお遊び、との説明の下に、この軍は動いていた。


 それは、コウヤ達に同行した子猫達(ネコレンジャー)が、ピクニックだと騙されていたのと同じ手口。

 ゆえに、日が暮れて、お家に帰ろうとする子猫軍(ニャンニャンアーミー)を引き止める為の(うたげ)を開催する。


 事実に気づかれるくらいなら、と、この狂宴を盛り上げて……


 センが、子猫軍(ニャンニャンアーミー)の指揮権を持ちながらも、単独行動を取っていた理由。

 それは、このあたりの子猫軍(ニャンニャンアーミー)独特の不安要素から来るものが、大いにあった。


「基本的に子猫軍(ニャンニャンアーミー)は、日帰り軍(デイトリップアーミー)なのにゃ」


 センから聞かされた子猫軍(ニャンニャンアーミー)の実態は、とんでもないものだった。


「それで、どうやって軍として行動をするんだ?」


 軍と言うからには、必ず長期的な任務が存在し、その為の報告や連絡が必要となる。

 しかしながら、子猫軍(ニャンニャンアーミー)には、その体制が整っていなかった。


「ぶっちゃけ、子猫軍(ニャンニャンアーミー)は、大臣(アードレイ)が緊急時に運用する為に作ったものにゃ」

「それって、どう言う事ですか?」

「他の者では、まともに運用が出来ない集団って事にゃ」


 センが言うように、子猫軍(ニャンニャンアーミー)は、軍の名が付いてはいるが正規軍ではない。


 フェイロイ王国には、まともに組織として機能している集団が少なかった。

 その例外的な組織の一つに、センが管轄下に置いている諜報部がある。


 このような実情であるフェイロイ王国だが、他国との戦争を考えていない訳ではない。

 その証拠に、いざと言う時に備えて、情報戦に比重を置いた人員の配備を(おこな)っている。

 また、子猫軍(ニャンニャンアーミー)によって、一定の軍事行動が起こせる基盤も作られていた。


 それは、国家として存続する為に必要な要素を満たす組織構成。


 国家とは、領土を保有し、国民に主張と物理的な実力が行使出来て初めて認められる。

 逆に言えば、他国に武力行使を許す国家は、周囲に認められていない事に等しい。


 常備軍な無い、と言う事は、国民に領土を守る意思統一が欠けている、と言う事。

 対外的には、自国の統制能力が低い事を晒している状態。

 そして、他国からの侵略に対抗する手段が無い事を晒している。


 隣国が、そのような状態であるなら、周辺国は嬉々として戦争を仕掛けていける。


 領土を主張し、国民と意思を共有して守る事が出来ない国家。

 それはもう、衰退(すいたい)する未来しかない国家である。


 しかしながら、このフェイロイ王国においては少し事情が違う。


 常備軍を持たない、と言う事が、国家の立場を危うくする、と言う点は間違いない。

 だが、この王国の国民が子猫種(ケットシー)である事を忘れてはならない。


 この王国は、建国時において、女王を中心としたノリで戦争をした。

 その結果、隣国を滅ぼした歴史を持っている。


 子猫種(ケットシー)は、勢いと調子に乗れば、組織戦をするまでも無く、一国を滅ぼす。


 むしろ、そんな気まぐれな行動を起しかねない者達を、集団にしておく方が危険。

 いつ何が切っ掛けで暴走するか分からない軍部ほど、国家において危険なものは無い。

 

 ゆえに、大臣(アードレイ)は、子猫達(ケットシー)の習性を考慮した結果、常備軍の設立を(あきら)めた。

 こう言った経緯の下、大臣(アードレイ)は、連絡網による徴兵と日帰り軍(デイトリップアーミー)を構築運用するに(いた)る。

 大臣(アードレイ)の苦悩と絶妙なバランス感覚によって生まれた産物、それが子猫軍(ニャンニャンアーミー)であった。


「それでも、数がある、と言う事が重要な要素となる場面は多いのにゃ」

「確かに、今回のような山狩りで捜索する時は、人手が多い事に越した事はないからな」


 ルネの目の前を、コウヤが一杯の野草茶を持って席を立つ。


「コウヤさん、どちらに?」

「さすがに疲れたんでな、先に休ませてもらう」

「あっ、はい。そうですね、コウヤさんも大分お疲れの様子でしたね」


 コウヤは、片手を振りながら、センに割り当てられたテントに向かう。


「オマエも、さっきまでフラついていたのにゃ。それ食ってサッサと休むにゃ」

「あ、ありがとうございます……」


 コウヤを見送ったセンが、ルネに料理を手渡す。

 炎舌鳥(ファイアシュライク)との戦闘の際に、子猫列車(ネコライナー)のムチャな軌道で体調を崩していたルネ。

 そんなルネを気遣ってのセンの言葉と行動。

 しかしながら、そこで手渡された料理の量が尋常(じんじょう)ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ