表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/285

103.魔術師

 コウヤは、必死の抵抗を試み、散炎弾(ファイアショット)を優先的に迎撃していく。

 威力においては、炎弾(ファイア)よりも散炎弾(ファイアショット)火粒弾(ファイアパーティクル)の方が低い。

 しかし、そこで散布される数と小規模な炎は、やはり厄介な問題を(かか)えていた。


 火粒弾(ファイアパーティクル)子猫列車(ネコライナー)に到達すると、防御障壁の間隙を貫通する可能性が高い。

 一つ一つは小規模な炎とは言え、その威力は人間を負傷させるには十分な威力がある。


 この下面からの攻撃とは、炎弾(ファイア)(デコイ)とした火粒弾(ファイアパーティクル)による対人攻撃。

 対して上空からの攻撃は、炎弾郡(ファイア)の力攻めとも言える連続攻撃による障壁破壊攻撃。

 つまり、単純な挟み撃ちではなく、別のアプローチによる多重攻撃となっている。

 

 コウヤは、目まぐるしい変化の中、熱探知と魔力探知を駆使して散炎弾(ファイアショット)を捕捉する。

 攻撃の時間差も考慮に入れながらの迎撃処理。

 しかしながら、次第に、その防空圏が失われていく。

 そして、ついに数発の炎弾(ファイア)が、コウヤが敷いていた最終防衛ラインを通過して行った。


 それは即ち、頭上に位置する炎舌鳥(ファイアシュライク)からの同時攻撃が襲来する刻限を意味した。


【ダダダダダダダダダダダダーーーーーッ】

  

 上空からの圧倒的な物量の炎弾郡(ファイア)が、子猫列車(ネコライナー)を襲う。

 その大半が子猫列車(ネコライナー)の防御障壁に阻まれるが、車体が下に押し込められる。


 爆炎を拡散させながら、その高度を落としていく子猫列車(ネコライナー)

 その上空では、炎舌鳥ファイアシュライクが旋回し、高みの見物を決め込んでいた。


 黒煙と共に、ゆっくりと降下していく子猫列車(ネコライナー)

 しかし、その進行上には、いまだ虹の道(レインボーロード)が形成されていた。


 一瞬の間を置いて黒煙の中から抜け出し、走行を維持している姿を現す子猫列車(ネコライナー)

 だが、それは言い変えれば炎舌鳥(ファイアシュライク)に、失速している姿を晒した事を意味した。


 獲物が弱っている姿を確認した炎舌鳥(ファイアシュライク)の瞳に、獰猛(どうもう)な輝きが宿る。

 トドメの一刺しを(くだ)すべく、周囲に炎弾(ファイア)を出現させ、万全の体制を敷く。

 ここに(いた)ってなお、炎舌鳥(ファイアシュライク)は冷徹だった。

 そこには『絞め殺す天使』『屠殺人(とさつじん)の鳥』と呼ばれるモズの凶鳥のイメージが重なる。

 

『■■■■』


 炎舌鳥(ファイアシュライク)獰猛(どうもう)な瞳が見開かれ、審判を下す高鳴きを響かせる。


【ボシュッ!】

 

 子猫列車(ネコライナー)に向けて、一斉に放たれる炎弾郡(ファイア)


 ──のはずであったのだが、その内の三本が至近距離から炎舌鳥(ファイアシュライク)を貫いた。


制御回収(ターンオーバー)


 子猫列車(ネコライナー)が置き去りにして来た黒煙の中から炎舌鳥(ファイアシュライク)を強襲する炎弾(ファイア)が投射される。


 それは、コウヤが炎舌鳥(ファイアシュライク)との交戦時に仕込んでおいた偽装炎弾(ファイア)

 その仕組みは、()しくも炎舌鳥(ファイアシュライク)が使った散炎弾(ファイアショット)と同じ手法。


 コウヤは、炎弾(ファイア)魔力殻(マジックシェル)で覆い、炎舌鳥(ファイアシュライク)炎弾郡(ファイア)に紛れ込ませる。

 以降の偽装炎弾(ファイア)は、魔力を同調させた炎舌鳥(ファイアシュライク)の制御下で潜伏する。

 ただし、ある程度コウヤの(もと)に戻って来た時は、回避軌道を取るようにしてあった。


 こうして、一見すると炎舌鳥(ファイアシュライク)の優勢が揺るいでいない戦況を映し出す。

 だが、その実態は、炎舌鳥(ファイアシュライク)の総火力を大幅に減少させている状況を作り出していた。


 上下からの強襲を、この偽装炎弾(ファイア)を使って相殺していったコウヤ。

 それでも、頭上から放たれた一斉射は、予想以上に子猫列車(ネコライナー)を大きく揺るがせた。

 真に大ダメージを負ったからこそ、炎舌鳥(ファイアシュライク)は狂喜し、油断を生じた。


 これら全てが、コウヤの計算によって生み出されたものではない。

 しかしながら、戦いの流れを変える切っ掛けにはなった。


 最後の仕上げ、とばかりに行動を起こした炎舌鳥(ファイアシュライク)

 そこに、コウヤの『制御回収(ターンオーバー)』の起動キーに反応して仕掛けが解放される。


 黒煙からの炎弾(ファイア)の強襲に意識が向けられた炎舌鳥(ファイアシュライク)

 その迎撃に放った炎舌鳥(ファイアシュライク)炎弾(ファイア)が、次の瞬間に破壊される。


 いや、その表現は正しくない。

 炎舌鳥(ファイアシュライク)(かたわ)らに潜んでいた偽装炎弾(ファイア)魔力殻(マジックシェル)が破られ、牙を剥いた。


 コウヤの制御下に戻った炎弾(ファイア)は、炎舌鳥(ファイアシュライク)の至近距離から反転して必中する。

 更に、子猫列車(ネコライナー)の下面から戻って来ていた偽装炎弾(ファイア)も追撃に加わった。


「■■■■■■■■」


 炎舌鳥(ファイアシュライク)の断末魔が、力を失っていく

 そして、完膚なきまでに身体を貫かれた炎舌鳥(ファイアシュライク)もまた、力尽きて墜落していった。


「ハツカ、あいつの回収を頼めるか?」

「分かりました。子猫列車(ネコライナー)を、もう少し寄せてもらえますか?」

「「「「「ラジャー」」」」」


 戦闘中に進化し、炎弾(ファイア)を巧みに操った炎舌鳥(ファイアシュライク)

 コウヤは、その脅威度を高く評価し、確実な処置を考える。

 墜落する炎舌鳥(ファイアシュライク)子猫列車(ネコライナー)を寄せ、ハツカが菟糸で回収する。


 回収した炎舌鳥(ファイアシュライク)には、まだ少し息が残っていた。

 その生命力の強さに、コウヤは、確認して良かった、と思う。


「おまえは強かったが、二つの過ちを犯した」


 コウヤが珍しく、手に解体用のナイフを持って炎舌鳥(ファイアシュライク)に近づく。


「一つ目は、おれを相手に炎で挑んだ事」


 そっと首下にナイフを当てる。


「二つ目は、手品師(マジシャン)を相手に魔力殻(シェルゲーム)で挑んだ事だ」


 撫でたナイフの先から生命の雫が垂れる。


『シェルゲーム』

 それは虚実を織り交ぜ、クルミの殻で隠蔽(いんぺい)したお宝を探し当てるゲーム。

 だが、それは同時に、手品師(マジシャン)が相手に(いつわ)りを掴ませる手品(マジック)でもあった。


 その手品師御用達の手品(シェルゲーム)に、炎舌鳥(ファイアシュライク)は安易に踏み込んだ。

 炎舌鳥(ファイアシュライク)が、シェルゲームに持ち込んだ以上、コウヤは絶対に引かない。


 多くの手品師(マジシャン)が、長い年月を掛けて研鑽(けんさん)し、積み上げて来た手品(マジック)

 その蓄積が引き継がれて来たからこそ、色あせる事無く愛され続ける手品(マジック)

 その現象を起こす為に、手品師(マジシャン)が、どれほどの時間を費やしてきた事だろう。


 炎舌鳥(ファイアシュライク)が、その仕組みに、短期間で到達した事には敬意を示す。

 しかし、手品師(マジシャン)の研鑽を嘲笑(あざわら)うかのように人間を襲うのであれば、絶対に見逃せない。


 この(いきどお)りこそが、最後の攻防においてコウヤを静かに奮い立たせ、力となっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ