表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/285

102.炎舌鳥

「コウヤさん……ちょっと気持ちが悪くなってきました」


 子猫達(ネコレンジャー)の能力の高さが、良くも悪くも影響を及ぼし、表面化する。

 (しり)上がりに調子を上げていく子猫達(ネコレンジャー)の動きに、ルネが付いていけなくなっていた。

 ルネが、明らかに乗り物酔いの兆候を見せ始める。

「ジェットコースターに乗せられたようなものですからね。私もかなりキツイです」

「まぁ、普段の生活じゃ経験しない動きだからな」

「すみません……」


 ルネは、申し訳なさそうに謝る。

 しかし、その間も子猫列車(ネコライナー)は、容赦なく快走を続けて、ルネを(むしば)み続けた。


『■■■、■■■■、■■■■、■■■、■■■■■■■』


 炎舌鳥(ファイアシュライク)が、モズ特有の早口な高鳴きを響かせる。

 と次の瞬間、炎舌鳥(ファイアシュライク)は周囲に無数の炎弾(ファイア)を待機状態で(したが)えた。


「コウヤさん、アレは……」

「くっ、ただのオウム返しだけならまだしも、魔法を読解(どっかい)して改竄(かいざん)までするのか!」


 コウヤは、炎舌鳥(ファイアシュライク)のあまりにも厄介な解読能力に顔をしかめた。

 炎舌鳥(ファイアシュライク)炎弾(ファイア)を自由に携行させたまま行動させておく訳にはいかない。

 それを許すと、先にコウヤが放った『炎熱旋風(ファイアストーム)』を再現されかねない。


 そこまでの事が出来なくても、あの炎弾(ファイア)には、連射や包囲と言った使い方がある。

 低位の魔法であるがゆえの汎用性。

 それがあるからこそ、コウヤが最も多用している魔法。

 その手数の強みを、コウヤは熟知していた。

 ゆえに、炎舌鳥(ファイアシュライク)の制御下にある炎弾(ファイア)を、早々に処理しておかなければならない。


 コウヤも、炎弾郡(ファイア)を展開し、炎舌鳥(ファイアシュライク)の取り巻きを撃ち落しに掛かる。

 子猫列車(ネコライナー)炎舌鳥(ファイアシュライク)との間で起こる炎弾(ファイア)の激しい削り合い。

 しかしながら、先手を取った炎舌鳥(ファイアシュライク)の展開速度を切り崩す事は困難を極めた。


 飛び交う炎弾(ファイア)が、徐々に炎舌鳥(ファイアシュライク)炎弾郡(ファイア)(むしば)んでいく。

 だが、炎舌鳥(ファイアシュライク)の取り巻きはロクに減っていかない。

 数の優勢が、コウヤに傾く事はなかった。


 悠々と空を(かけ)るまず炎舌鳥(ファイアシュライク)

 そこには、この撃ち合いを楽しんでいる(ふし)さえあった。


 コウヤとの撃ち合いで、自身の優位が揺るぐ事はない、と確信した炎舌鳥(ファイアシュライク)

 その次の行動は、携行していた炎弾郡(ファイア)を切り離して、自身が上昇する事だった。


 炎舌鳥(ファイアシュライク)は、炎弾郡(ファイア)の一部を従え、太陽を背に上昇する。

 そして、先に切り離した炎弾(ファイア)を大回りな軌道を取らせて子猫列車(ネコライナー)へと向かわせた。


 それは、炎舌鳥(ファイアシュライク)の上昇時のスキを、コウヤ達に突かせないようにする為の(デコイ)

 しかし、それが分かっていたとしても、コウヤは、その炎弾(デコイ)を無視出来ない。


 なぜなら炎弾(デコイ)は、子猫列車ネコライナーの弱点である下面へと、左右から回り込んで侵攻している。

 防御障壁の不全障害が起きているそこを突かれると子猫列車(ネコライナー)は弱い。

 (いや)(おう)うも無く、コウヤは炎弾(デコイ)の迎撃に手を回さざるを得なかった。


 この時点で炎舌鳥(ファイアシュライク)は、先のコウヤの炎熱旋風(ファイアストーム)と同じ包囲殲滅の形を敷いている。

 ここまでの交戦の流れの中で、これを阻止する事が出来なかったコウヤ。

 戦いの中で後手に回ってしまうと、簡単には、流れを自分の方に引き戻せなくなる。

 その事は、頭で分かっていても、何かの切っ掛けがないと、やはり変化を起こせない。

 そして、そう言った時に起こる変化とは、やはり自分に都合の良いものではなかった。


『■■■、■■■■』


 奇声を発した炎舌鳥(ファイアシュライク)は、従えた炎弾郡(ファイア)に新たな命令を下す。

 統制された炎弾(ファイア)は、先の炎弾(デコイ)と連動して一斉に動き出し、子猫列車(ネコライナー)へと降り注ぐ。


 上下から子猫列車(ネコライナー)を挟み撃ちする炎弾郡(ファイア)

 だが、その対処に回せるコウヤの手数は、圧倒的に不足していた。


「ハツカ、上からの防御は任せる。下から来る炎弾(ファイア)は、おれが対処する」

「分かりました」


 コウヤは、上空からの被弾を覚悟し、ハツカに防御障壁での補強を指示する。

 下から迫る炎弾(デコイ)を撃ち落していくコウヤ。

 しかし、そこで異変が起きた。


【パァーンッ!】


 炎弾(デコイ)の迎撃に放ったコウヤの炎弾(ファイア)が命中したかと思った瞬間、標的が破裂した。

 炎弾(デコイ)は、破裂音と入れ替わって、無数の小型の火粒弾(ファイアパーティクル)を放出する。


 飛散した火粒弾(ファイアパーティクル)が、子猫列車(ネコライナー)の急所を襲う。

 その威力は、見た目同様に小さいが、それが(かえ)って、弱点の間隙を擦り抜けさせた。


「きゃっ!」

「アチチ、なのにゃ!」

「わー、逃げろにゃ、逃げろにゃ!」

「その前に、消火にゃ!」

「えとえと、『流水(ストリーム)』にゃ!」

「ジュッ、ジュワ~にゃ」

「くっ、コウヤ、防御の手が足りません。菟糸を足下(あしもと)の防御に回します」

「止むを得ない、ハツカ、すまないが、やってくれ」


 ハツカは、子猫列車(ネコライナー)の足下を宝鎖で周回して囲み、火粒弾(ファイアパーティクル)に対する物理障壁とする。


 これにより、完璧とは言えなかったが、かなりの火粒弾(ファイアパーティクル)の防御に成功した。

 しかしながら、現状の菟糸は、子猫列車(ネコライナー)の足下を、単に三重に巻いているような物。

 その為、防御のスキは、いまだに健在であり、本来の能動的な防御も出来ない状態。


 火粒弾(ファイアパーティクル)に対する防御は、燕麦と比べて、まだまだ心許(こころもと)ない。


 つまり、火粒弾(ファイアパーティクル)を放つ散炎弾(ファイアショット)は、継続してコウヤが対処すべき案件であった。


 子猫達(ネコレンジャー)は生活魔法の流水(ストリーム)で消火に回り、ルネはポーションで負傷の治癒に回る。


 菟糸の存在と射程を目の当たりにした炎舌鳥(ファイアシュライク)は、もう菟糸の射程内には留まらない。

 そう考えると、隠し技の一つが(つい)えたのは、かなりの痛手ではあった。

 しかしながら、現状を(かえり)みて、ここが手札の切り所だった、と思う事にする。


 コウヤは、思考を目下(もっか)の問題に切り替える。


 迫って来る炎弾(デコイ)に注視し、迎撃の炎弾(ファイア)を放つ。

 その標的の中には、先刻と同様の挙動を見せる散炎弾(ファイアショット)が、多数混入していた。


 散炎弾(ファイアショット)は、一定の距離まで子猫列車(ネコライナー)に接近すると拡散する。

 しかも厄介な事に、破裂のタイミングが一定していない。

 それは、意図した設定なのか、単に魔法の制御不全だったのかは分からない。

 しかし、その起動条件が分からない以上、早々に迎撃しなければならなかった。


「くっ、ここにきて魔力殻(マジックシェル)を使った散炎弾(ファイアショット)か、なんて言う皮肉だ……」


 コウヤは、炎舌鳥(ファイアシュライク)が放った散炎弾(ファイアショット)散弾銃(ショットガン)を連想する。


 散弾銃(ショットガン)とは、銃による鳥撃ちが盛んになった時代に生み出された銃。

 そして、その目的は、より確実に鳥を捉えて命中させる事だった。

 こうして、鳥を散弾で撃つ事に特化した、軽くて長身の『鳥撃ち銃(ショットガン)』は完成する。

 

 だが、そんな経緯で生まれた構想が、いま炎舌鳥(ファイアシュライク)よってコウヤ達に向けられていた。


 基本的に散弾銃(ショットガン)炎散弾(ファイアショット)も、その仕組みは同じである。


 散弾銃(ショットガン)は、ショットシェルと呼ばれる薬莢に入れられた散弾を撃ち出す銃器。

 散炎弾(ファイアショット)は、魔力殻(マジックシェル)で偽装して火粒弾(ファイアパーティクル)(おお)い、射出後に拡散攻撃を(おこな)う魔法。


 ゆえに、その歴史を皮肉ったように感じたコウヤは、炎舌鳥(ファイアシュライク)(わず)わしく思った。


 だが、そんな感傷に思考を割ける時間は無い。

 子猫列車(ネコライナー)に収束して来る炎弾郡(ファイア)が迫る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ