100.子猫列車
「も、ものすごく怖かったです」
「子猫列車に防御障壁がある事は分かっていても、精神が削られるな」
「子猫列車の光の幕は、透過障壁なので、見えていたなら心許なく感じるでしょう」
ハツカの菟糸と子猫列車の光の幕。
この二つの防御障壁には違いがあった。
ハツカの燕麦は、通常時マフラーの形態を取り、必要に応じて硬化させる物理障壁。
対して子猫列車の光の幕は、子猫達の魔力を集約した魔力障壁である。
物理障壁である燕麦は、単純な物理攻撃に対して魔力障壁に勝る。
しかし、物理的な障壁である以上、障壁越しに物を見通す事は出来ない。
対して魔力障壁である子猫列車の光の幕は、魔力耐性に優れる。
そしてそれは、障壁越しに物を視認する事が可能な透過障壁であった。
その『見える』と言う特徴の相違には、一長一短の問題が含まれる。
物理障壁の最大の特徴は、その強固な物理耐性。
元々接近戦の中から生まれた形態である為、乱戦に強い。
また、そのような状況となれば、敵も迂闊に魔法を放り込めなくなる。
ゆえに、そこまで高い魔力耐性を必要となる状況下で運用される事はなかった。
そして、物理障壁越しに物が見えない点は、いくつかの利点にもなっている。
そのうちの一つは、物が見えない、と言う事は、物を隠せる、と言う事に通じる点。
パーティなどの集団戦であれば、それぞれの役割分担が可能となる。
単純に、味方を守る盾としての作用は言うに及ばない。
それに加えて、物理障壁の展開時の大きな動きは、敵の注意を引きつける。
それは同時に、味方の攻撃役の姿を隠す強力な視線誘導作用をも生む。
通常の盾持ちと同様に、より堅固な物理障壁で受けて、敵を足止めする。
そして、盾よりも広範囲な物理障壁によって隠匿された味方が死角から敵を葬る。
その不意うちかつ必殺の一撃を打ち込める優位性は計り知れない。
対して魔力障壁の特徴は、一定の物理防御を保有した強力な魔力耐性。
これを習得した者は、防御において大きな優位性を確保する。
透過障壁である魔力障壁は、障壁越しに相手を視認出来る。
それは、魔力障壁を張りながら、状況に応じた魔法が放てる事を意味した。
一方的な攻撃も可能な条件を満たす魔力障壁。
戦闘においての理想的な状況。
しかしながら、そこにも大きな問題点が内包されていた。
それは、魔力障壁越しに、常に自分の状態をも晒している、と言う点である。
視覚情報が得られる代わりに、自分の情報が垂れ流されている事を失念する者は多い。
それは、子猫達も同様であった。
魔力障壁があるにも関わらず、炎弾を撃ち続ける炎舌鳥。
その単調に見える動向の意味に気づかずに、追い駆けっこは進行して行く。
上昇して空中走行に入った子猫列車。
しかし、いまだに纏わり付いて飛翔する炎舌鳥を振り切れずにいた。
「コウヤさん、ずっと追って来ます」
「炎弾を覚えて、こちらからの反撃が無いんだ。調子に乗っているんだろう」
「コウヤは、撃墜するつもりだったのでしょう? なぜ反撃しないのです」
「走りながらだと、有効な魔法を、簡単には構築出来ないからな」
「えっ、それじゃあ……」
「いまは逃げの一手だ、少し準備に時間をもらう」
そう言うと、コウヤはカバンを漁り、探し物を始める。
その間も、炎舌鳥からの攻撃は継続されている。
子猫列車は、攻撃を上下左右に蛇行しながら、迷走するように逃れていく。
「うにゃーっ、しつこいのにゃ!」
「グリーン、もうオーデーンスピアを、ぶっ刺してやるにゃ!」
「バカ言うんじゃないにゃ! あんなのに当たる訳ないにゃ!」
「ブルー、もう一回、カードを使うにゃ!」
「使えるカードがあれば、使ってるにゃ!」
「イエローこそ、飛んで行って、ぶん殴って来るにゃ!」
「レッド、ムリにゃ。羽靴で追いつけても、攻撃したら、こっちが燃えちゃうにゃ!」
「「「「「使えないヤツらにゃ……」」」」」
子猫達は、互いに味方の不甲斐なさを嘆く。
そんな仲間割れをしていると、炎舌鳥が虹の道の下に回り込み、炎弾を放つ。
「きゃっ!」
子猫列車の魔力障壁をすり抜け、 ルネの足を炎弾が襲う。
「ルネ、大丈夫ですか!」
ハツカは、ルネの足元から伝わって来た焦げたニオイを察知して訊ねる。
「だ、大丈夫です、これくらいならポーションで……」
ルネは大丈夫だと言ったが、焼かれた足は如実に速度を衰えさせる。
そして、これに連なって子猫列車も、その速度を失速させた。
子猫列車は、虹の道による、動く歩道の原理で加速している。
それは即ち、子猫列車の速度とは、子猫達の走力によって変動している、と言う事。
と同時に、その同行者にも同様の走力が求められている事を意味した。
炎舌鳥は、炎弾を、ただ闇雲に放っていた訳ではない。
そして、子猫列車には、三つの問題点があった。
一つ目は、子猫列車の最高速度が、同行者によって定められてしまう点。
子猫列車の基本は、あくまで『電車ゴッコ』なので、自分達の足で駆けて走っている。
その為、その最高速度は、同行者の中で一番足が遅い者に合わせたものとなる。
これは、アニィを王都へと送り届ける際に、ハツカが残留した理由でもあった。
二つ目は、子猫列車の防御障壁が、透過障壁である点。
光の幕と言う形態を取っている子猫列車の防御障壁は、内部を晒している。
その為、子猫達に続いて、コウヤ、ルネ、ハツカと並んでいる様子が見えていた。
度重なる炎弾での攻撃で、情報を収集していった炎舌鳥。
これにより、多くの情報が炎舌鳥に流れていた。
仲たがいをする子猫達。
走行中に魔法が放てないコウヤ。
素の走力が最も低いルネ。
目が見えていないハツカ。
少し例を挙げただけでも、これだけの情報が、ダダ漏れとなっている。
そして最後の三つ目は、子猫列車と虹の道の運用の同調が上手くいっていない点。
この二つは、お互いの魔力干渉を避ける為に、わずかながら不干渉空間を作っていた。
その為、子猫列車の下に回り込まれて放たれた炎弾を防御出来なかった。
地でなら問題にならない間隙が、空中走行時には大きな弱点と化す。
この問題点は、事前に察するチャンスはあった。
だが、コウヤ達は、それを見逃してしまう。
ネコレッドの不注意によって発生した谷底への落下事故。
子猫列車と虹の道との同調が上手くいっていたなら足を踏み外す事など有り得ない。
あの事故が起きた事こそ、この二つが同時運用において問題を抱えている証拠だった。
しかしながら、その事に誰も気づかなかった。
それは、子猫達がやる事だから、と安易に納得してしまったから。
原因を追求しなかった事が、いまになって大きな問題となって跳ね返ってきていた。
だが、そんな事は『多言語能力』を持つインテリである炎舌鳥には関係ない。
収集した情報から、ルネを狙い撃って子猫列車を失速させる。
そこには、百舌鳥の根底にある嗜虐趣向が顔を覗かせていた。
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