Hへの『憧れ』6
季節は過ぎ去り、少女は中学3年生の冬を迎えた。
冬休みが明けて、高校受験への準備が本格化して3年生のフロアはピリピリしていた時である。
隣のクラスの子からとある話が回ってきた。
それは、…Hが結婚したという話であった。
冬休み明けの最初の授業の時、Hはたくさんの生徒から質問責めとなった。
いつから付き合っていたのか、相手はどんな人なのか、出会いは、プロポーズの言葉は…。挙げたらきりがなくなるほどである。
少女は静かにその光景を眺めていた。たくさんの質問にまんざらでも無いような顔で答えるH。一つ一つの回答にニヤニヤするクラスメイト。
こんな時に体調を崩せればどんなに良かったことか。少女はずっと思っていた。
そんな状況でも時間は進んでいくわけで、バレンタインが来てしまった。
本当はこのバレンタインで、少女は告白する気だった。けれども、Hは結婚してしまった。
それでも、少女は気持ちを伝えたかった。
バレンタインの当日、手作りのお菓子のラッピングの中に小さなメッセージカードを添えてHに渡した。あくまで、「日頃お世話になっているので感謝の気持ちです。」と。
添えたメッセージカードにはシンプルに『好きでした。幸せになってください。』と書いて。
そのメッセージカードにHが気づいたかどうかはわからない。添えたけれども、気づいて欲しくないという思いが少女にはあったわけで、ラッピングの箱の底を二重にして隠していた。箱を分解して、その時に気付けるかどうかである。
少女は中学校を卒業した。
その後、高校受験を無事合格し、書類を受け取りに中学校へ行った。その時、担任の先生から書類の入った封筒と一緒に小さな箱を手渡された。
少女は担任にこの箱が何か問うと、Hから渡すように頼まれたとのことだった。
すぐさま少女は担任にこの時間Hが授業を受け持っていたか確認をした。すると、無かった。
ということは職員室で仕事をしている可能性が高い。今行ったら会えるかもしれない。
少女は階段を駆け上って職員室のある2階へ向かった。しかし、職員室を除いてもHの姿はない。
もしかしたら、社会科準備室かもしれない。滅多に行くことはないような気はするが、可能性のあるところは見ておきたい。
色々な可能性を考えてHを探したが見つからなかった。
少女は最後の最後でHに会えずじまいとなった。
少し泣きそうになりながら、少女は自分の部屋でHからの箱を開く。クッキーやチョコレートの詰め合わせのようである。
少女はチョコレートを一粒とって口の中に入れる。口の中でチョコレートの甘さがじんわりと広がってとても美味しい。…けれども、少しだけ、ほんの少しだけチョコレートはしょっぱかった。
これでH先生への恋愛感情?に関するお話は終わりとなります。次からは別の方。