11歳の春 6
「おい、お前! 庶民のくせにやけに無礼な態度だな。庶民は庶民らしく、跪いてお願いしたらどうだ」
「へえ。さすが王宮だな。どうせ威張り散らしたやつらしかいないと思ってたけど、キイキイ喚く小猿まで偉ぶってるなんて」
「なッ!? 誰が猿だって!?」
顔を真っ赤にされたギデオンに向かい、ロランドがふっと口角をあげた。
明らかに見下した笑みだ。
(このままじゃ喧嘩になっちゃいそうだけど)
ここから先の展開はスティードに話を聞いていないから、何が起こるかわからない。
スティードの方を見ると、彼は戸惑ったような顔をしていた。
(あれは演技じゃないわ。でも、どうして? スティードは何が起こるか知っているんじゃないの?)
疑問を抱いている最中も、ギデオンとロランドによる言葉の応酬は続いている。
「というかおまえ、さっきの説明理解できなかったのか? それとも数歩歩いただけで聞いた話を忘れるトリ頭なのか。猿と鳥どっちかにしてくれ」
「ふざけるな! 俺は猿でも鳥でもない!」
「そのトリ頭のためにもう一度説明してやろうか」
「おいッ、話を聞けよ、くそっ!」
完全にギデオンのほうが振り回されている。
ロランドは余裕の態度で挑発し続けているけれど、ギデオンは見ていて哀れなぐらい必死だ。
どんな言葉をチョイスしたら、相手が苛立つか。
冷静に見抜いて、そこを容赦なく攻めている感じさえする。
「俺は残念ながらおまえらと同じ王族の血が流れてる。そのせいで庶民ではなくなった。でも、バカな王族の仲間入りするより庶民のがよっぽど良かったな」
「だまれ!」
ギデオンはそんなことは認めないというように、ロランドの言葉を遮った。
「半分、王家の血が流れてるだって? ハッ、笑わせる。俺たちの体に流れてる高貴な血は混ざり物なんかじゃない。おまえの体に流れている残りの半分の血なんて、どうせ下賤の女の血ものだろう!」
そのとき、はじめてロランドの笑みが消えた。
それが嬉しかったのだろう。
ギデオンはチャンスとばかりに、やかましくまくしたてた。
「おまえの母親は、どうせ金目当てで国王陛下に近付いたんだろ! そんな恥知らずの女は罰を受けて死んだって当然だ!」
挑発に乗るかと思われたロランドは、何も言わなかった。
ただ、無表情で黙りこくっている。
ギデオンは慌てて口を開いた。
「な、なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ!」
「お前、いまの言葉が国王への侮辱になるって気付かないのか?」
「え……?」
「国王が、金目当ての女に騙されて子供まで作ったってことだぞ。これは立派な侮辱だ」
「……!! う、うるさい!! 黙れ、バーカ!! なあ、スティード! こいつ生意気だよ! なんとかしてくれ!」
「いいや、ギデオン。さすがにいまのは完全に君に非があると思うよ」
穏やかだが、はっきりとした言葉でスティードが言う。
ギデオンはびくっと肩を震わせたあと、悔しそうにロランドを睨みつけた。
(うわあ。すごい展開になってきたわ……)
なんのためにここに潜んでいたのかの忘れて、完全に野次馬根性丸出しのまま聞き耳を立てる。
スティードの言うとおりギデオンが悪い。
あんなふうにくってかかったりして、本当にお子様だ。
それに対して、ロランドはかなり冷静に相手を打ち負かしたと言える。
王への侮辱だと指摘するなんて、正直感心してしまった。
それは貴族であるギデオンにとって、一番立場の悪くなるポイントなのだから。
「誰がこんなやつとよろしくしてやるもんか! 学友とか言われたって知ったことじゃない!」
「こっちこそ願い下げだ。おまえと一緒にいても学ぶことなんてなさそうだしな。ああ猿語を教えてもらえるか」
「なにい!?」
「ぷっふふ……」
クロエは草の影に隠れたまま、たまらずに吹き出してしまった。
慌てて口を手で覆ったけれど、ニヤニヤ笑いが止まらない。
(やっぱりロランドってば、なかなかの悪役っぷりね! 見込みがあるわ。そのままギデオンをやっつけちゃえ!)
拳を振り回して、口パクでロランドを応援する。
もし傍にスティードがいたなら、「いたずらっ子みたいに瞳をキラキラさせて、本当にかわいいね。その瞳が僕を見つめてくれたらいうことがないんだけど。でも素敵なことに代わりはないよ。僕のプリンセス」などと賞賛してくれそうなほど、クロエは今、いい笑顔を浮かべていた。
楽しくなってきたクロエが興奮しながら身を乗り出したとき――。
「あ、あわわうわあっ!?」
バランスを崩した彼女は生垣の中に前のめりに倒れ込み、そのままコロンと一回転して、少年たちの前に転がり出てしまったのだった。