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9話

「・・・・貴様らはいつもそうだ、自分の価値観ばかりを押し付け・・・・その押し付けられた相手のことをまったく考えてなんかいない・・・・!」


「おいおい、君こそ・・・・「価値観の押しつけはいけない」なんて価値観を――僕に押し付けるなよ・・・・」


「貴様ぁ・・・・!」


 健は吠えた――――そして、その思いをぶつけるように拳を振るう。

その拳はまっすぐ偶然の方向へと向けられる――――が、


「ほら、そうやって都合が悪ければすぐに暴力に頼る――――悪い癖だぜ?」


 しかし、その拳は再び空振りに終わる。

 目の前にいたはずの偶然は、また健の後ろに立ち、嘲笑うようにそう言う。

 健はその偶然の方へと向き直り、ギッと睨みつけると――――、


「・・・・私の能力は『愛情表現(ラブ・メーカー)』、誰かを愛せば愛すほど・・・・誰かを想えば想うほど力を増す――――それが、私の力だ!」


 地面を掴んで石の塊を投げつける――――しかし、その塊は偶然に着弾する直前で爆発して木端微塵になる。

 蔓延する煙の中、その煙をかけ分けるように偶然――――、


「あーあ・・・・土を被ってしまった、ツいてないね」


 土を払いながら、偶然はそれを投げつけてきた健の方向を見ると――――、


「僕の名前は必偶 然――――6月6日生まれ、17歳・・・・毎朝7時には起きるようにしていて、必ず睡眠時間は3時間に抑えている。朝食はいつもパンを食べていて、そのパンを牛乳で押し流すのが好きなんだ。特に、最近ではコーヒー牛乳というのにハマっているよ・・・・あの黒い見た目から湧き出る甘味・・・・まるでツンデレのようなギャップがあって、とても魅力的なんだ」


「・・・・?何を言いだす」


「好きな数字は29、これ重要だから覚えておいてね?逆に、嫌いな数字は9――僕の誕生日を真逆にした数字だ。あの数字は、まるで僕を乏しているみたいで癪に障るんだ・・・・僕は飽きっぽくてね、なんでも始めたことは1か月も続けば良いほうだ・・・・ま、だからといってそんな自分が嫌いになるわけじゃあないけどね」


「・・・・?自己紹介?急にどうしたんでしょうか・・・・津玖さん?」


「・・・・自己紹介、か・・・・あれがただの自己紹介ならよほど良かったよ・・・・」


「・・・・?津玖さん・・・・?」


 急に自分のことを話し始めた偶然――その異様さに、禊は津玖にどういうことかと話しかける――――が、津玖は汗を流しっぱなしにしたまま、震えた声で言う。


「だけど――――そんな僕でも、毎日欠かさず続けていることがある・・・・レモンティーは冷やして、ホットミルクは熱々なぐらいでね――その嚙み合わない二つの飲み物を混ぜ合わせて飲むことが大好きなんだ。そう――()()()()()()ことが大事なんだ。ぐちゃぐちゃに混ぜて、混ぜれば混ぜるほど分からなくなる。本当の味が何なのか、元の飲み物がなんなのか分からなくなる。その感覚が――どうしても、美しくて・・・・」


「訳の分からぬことを・・・・!」


 健は地面を蹴り、再び偶然に殴りかかる。

 しかし、偶然は当然の如く動かずに――――


「だから・・・・勝ちだとか負けだとか、綺麗だとか汚いだとか、カッコイイだとかカッコ悪いだとか、平和だとか危険だとか、正義だとか悪だとか、得だとか損だとか、幸せだとか不幸だとか――――必然だとか偶然だとか・・・・そういうのもぜーんぶ、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせてよく分からなくして・・・・飲み干してしまえば、まるで僕には関係なくなったみたいで、それもまた清々しく感じるんだ・・・・!」


「ぐ、ぐぁあああああああああああ!」


 健の拳が偶然に当たる直前――――天井が崩れ、瓦礫という瓦礫が健の真上に降り注ぐ。

 その重さは計り知れない――――瓦礫はとっくに健の体を覆いつくし、その姿はまったく見えなくなっていた。

 しかし、その目の前にいたはずの偶然には1つたりとも当たることはなく――――


「おっと!不慮の事故によって天井が落ちてきて健くんに当たってしまった!なんて可哀想なんだ!でも――――偶然にも僕には当たらなかった・・・・だから、僕には関係ないね!」


 そういうと、偶然は抜け落ちた天井を見て――――そこから発射される光を体に当てると――――、


「もうすぐ僕の部屋も使えるようになったころだろう!早く帰って体を休めよう!」


 そう言って――――下敷きになった健をそのままに、修練場の扉を開いて帰宅する。

 その様子を見ていた津玖はハッとすると――――、


「防衛軍は何をしている!早く彼を助けろ!」


 そう言って周りに、大声で叫ぶ。

 すると、忍者のような恰好をした防衛軍が3人ほど現れ、落ちた瓦礫を持ち上げようとしている。


「・・・・仕方がありませんよ、修練場で生徒会がやられるなんて初めてのことなんですから。いつも通りなら、生徒会にやられた生徒が先に根を上げて自分の行いを反省する・・・・いくら防衛軍でも、これはイレギュラーだったんですよ、生徒会がやられるなんて――――それも、生死に関わるレベルでやられるなんて・・・・」


 落ち着きを見せない津玖に、禊はなだめるようにそう説明する。

 「それで――」と禊は続けると・・・・


「結局、ただの自己紹介なら――――って、どういうことですか?」


 それは、偶然の自己紹介の時に言った津玖の言葉だった。

 「ただ」ではない自己紹介――――それも、津玖が怯えるほどのモノが、あの自己紹介には隠されているはずだ。

 問われる津玖は、深呼吸を一度して、落ち着きを取り戻すと――――、


「あれは・・・・ただの見せしめだよ、僕らへの宣戦布告のために、健くんの生存すらも利用した宣戦布告だ。好きな数字が29?バカ言えよ・・・・その29には、君の嫌いな9の文字が入っているじゃあないか・・・・」


「!?それってどういう――――」


 ガリッと、津玖は爪を噛みながら目の前を睨みつけて――――、


「29・・・・つく・・・・津玖、いつから私が絡んでいると気づいていた?必偶――――」


 幼いその姿からは似合わない顔つきで――――、

 津玖はただ一人、余裕のない様子で偶然の名を呼ぶ――――。


◇◇◇




 






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