研究員T
「よう――――逃げずにちゃんと来たようじゃあねぇか」
校舎の裏――――豪打の言葉通りに30分後丁度に到着した偶然に、豪打はニヤリとした態度で偶然を迎える。
「おいおい、君が呼び出したんだろう!?勘弁してくれ!僕の時間をわざわざ割いているというのに!」
「チッ・・・・相変わらず舐めた態度しやがって・・・・」
文体では時間を取られて怒っているように見える偶然――――だが、実際は笑顔でヘラヘラと・・・・まるでサラリーマンが上司に向けて愛想笑いをするがのごとく、偶然は偶然は気味の悪い笑みを浮かべていた。
そんな偶然に対し、やはり舌打ちをしてイラついた態度を見せる豪打――――だが、フッと切り替えるように笑うと――――、
「・・・・まあいい、約束通り――――能力の見せあいでもしようぜぇ!」
そういうと、豪打は自分のポケットから水の入った小瓶を取り出す。
そしてそれを握りつぶすと――――中に入った水は、勢いよく、まるで球を描くように豪打を中心に空中を漂い始める。
「何という事だ!水が自ら動き始めたぞ!まるで超能力だね!」
「――俺が手に入れた能力は、水を操る能力――――星2つの特殊だ」
そういう豪打の腕章には、確かに黄色く輝く星が2つ付けられていた。
「一見くそ雑魚みてぇな能力だが、水を弾丸のように飛ばして攻撃することだってできるんだぜ!」
すると、豪打の周りで漂っていた水の一部が水滴となって、偶然の方向へと勢いよく発射される。
「水を操る能力・・・・なるほど!君のような人にはまったく似合わないような能力だね!それにしても星2つなんてすごいね!流石だよ!」
偶然は素直に尊敬するように、パチパチと手を叩いて称賛する。
しかし、そんな偶然へと容赦なく水滴は迫る――――が、全て当たることなく、そのまま後ろの壁へとぶつかる。
ぶつかった壁には、まるで銃で撃たれたかのように、丸く穴が空き、ヒビが入っていた。
「それにしても、なんて威力だ!当たったら大変そうだね!」
「――――チッ、標準がずれたか?まぁいい――――次は外さねぇ!」
するとまた、豪打の周りに漂っている水が水滴となり偶然へと襲い掛かる。
しかし、やはり偶然に当たることはなく、全て壁に当たって無くなってしまう。
「うーん・・・・今更だけど、さっきの小瓶が道具ってことでいいのかな?ま、僕には関係ないからいいんだけどね!」
「また外れた・・・・?――――なるほどな、それがお前の能力ってことか」
豪打はまたチッと舌打ちをすると、面倒くさそうな表情をして頭をかきむしる。
「とんでもない!僕は能力なんて持ってないよ――――ほら、腕章には星なんて付いてないじゃないか!」
そう言って、偶然は自分の腕章を指さす。
無能力者である偶然の腕章には、確かに豪打のような星は1つも付いていなかった。
「とぼけやがって――――だったら、どうやってあの数の弾丸を避けたってんだ?!すべてたまたま外れただけとでも言う気か!?」
「あぁ――――あの弾丸は、偶然にも僕には当たらなかった。たまたま、一種の不慮の事故としてね!だから能力なんて関係ないよ!君の言う通り、僕の運が良かっただけさ!」
偶然は豪打の言うことを否定することなく、全て肯定して、認めるようにそう言う。
しかし豪打――納得がいかないらしく、キッと偶然を睨みつけると――――、
「だったら――――当たるまで撃ち続けてやるよ!」
その声と同時に、豪打の周りにまとわりついていた水が、全て偶然に向かって発射される。
偶然はその水に臆することなく、真向に向かって――――、
「僕には――――関係ない!」
――――刹那、豪打の飛ばした水が、すべて偶然の前で消し飛ぶ――――いや、跡形もなく斬られる――――。
「!?」
「やめないか――――生徒同士の喧嘩は、校内で認められていない」
突然の出来事に驚く豪打と向かいあう偶然の間に、突然として現れたその少女は、手に刀を持ち凛々しくて立って――――まるで説教をするかの如く、そういう。
「よくいるのだよ・・・・能力を手に入れたがゆえに、その力に慢心して私欲だけのために使う者が・・・・特に、この学園に入学したての者はな」
「誰だよお前は・・・・邪魔しやがって」
「なんだ?まだ戦うつもりか?やめておけ、貴様の武器である水は全て尽きた。それに――実力差は明らかだと思うが?」
その少女は険しい顔のまま、まるで脅すかのように刀をちらつかせる。
その行動を見るなり、豪打はチッと舌打ちをすると――――、
「命拾いしたな・・・・だが、覚えとけよ」
確かに偶然の方を睨みつけ、ポケットに手を突っ込みながらどこかへと去っていく。
「ありがとうございます!おかげで助かりました!なんて優しい人なんだ!」
「いいや、当然のことをしたまで――――感謝の意だけで十分だ」
さっきまでの表情とは違い、今度は優しい表情で、できるだけ偶然の気持ちは受け取るようにして自分を謙遜する。
相手への気遣いから対応――――そして、彼女の持っている道具からも、まさに武士といったものを連想させる。
「この時期はこういった争いごとが多くてな、何かトラブルがないか、こうして見回りをしているのだよ」
「そうなんですね!おかげで僕は助かりました!この行為は必ず続けるべきです!では、僕は不良に襲われた恐怖から疲れてしまったので、今日のところは帰宅しますね!では!」
偶然は口早にそういうと、その場を早く立ち去ろうと歩を進める。
しかし――――、
「待て」
そんな偶然を止めるようにその少女は偶然の腕を掴む。
「紹介が遅れたな――――私はこの学園の風紀委員を担当している沖田 禊というものだ――――まさかとは思うが・・・・またトラブルを起こそうというわけではあるまいな?」
「そんな!とんでもない!僕は被害者ですよ!なにも関係ないじゃないですか!」
顔を再びしかめて言う禊に、偶然は目を逸らすことなく、禊の顔を見てそういう。
そんな偶然の顔を、禊は訝しげにジッと見つめて――――、
「そうか・・・・ならいいのだが」
そう言って、禊は偶然の腕を離す。
「確か――――必偶と言ったか、頼むから大人しくしていてくれよ?」
「僕は無能力者ですよ?問題なんか起こせませんよ!では!」
偶然はニコッと笑顔を向けて、再びその場を立ち去る。
禊は、見張るように立ち去る偶然の背を見つめていた。
「・・・・それにしても、恵さんに津玖さんに豪打くんに禊さんかぁ・・・・うーん・・・・」
偶然は何を思うか、悩むような素振りを見せると――――、
「ごめん、4人以上の名前とか――――面倒くさいや!」
「!?」
――――刹那、禊の真横から鉄柱が真っすぐに飛んでくる。
禊はその鉄柱を刀で一刀両断――――しかし、それに重なるように来るもう一つの鉄柱に、禊は対応しきれない――――。
「ぐっ・・・・!」
禊に向かって飛んだ鉄柱は、そのまま禊の姿と共に校舎の壁へと突き刺さる。
砂煙が舞い、土臭い匂いが周囲に蔓延する。
「・・・・!前髪が少し濡れてる・・・・これはツいてないなぁ」
偶然はそのことに気づく様子もなく、平然と歩みを進める。
しばらくして――――煙がやみ、やっと背景が見えてくるころ・・・・禊の姿はそこにはなかった。
◇◇◇
「あ、お帰り禊ちゃん!どうだった?必偶くんは」
「どうだったって・・・・生徒への心配はないんですか?――――津玖先生」
校舎の屋上、土煙の届かないその場所で、2人は向かい合い・・・・密会のように話をしていた。
「心配なんて、生徒会のメンバーである君には不要だろう?それとも、私に甘えたくなっちゃったかな?」
白衣を風になびかせながら――――津玖。
「とんでもない・・・・愚問でしたね」
首元にネクタイを付けながら――――禊。
「それにしても・・・・本当に訳が分かりませんでした。何が起こったかさっぱりです」
「あぁ――――私も見ていたけど、さっぱりだ。だからこそ興味深い・・・・そうは思わないかい?」
「いえ・・・・私にそんな趣向はありませんから」
「そうかい?それは残念だ・・・・」
クルッと禊に背を向けて、津玖は歩く偶然を見る。
何事もなかったように、ただただ普通に、平然と歩く偶然。
「やはり・・・・彼が『最初の能力者』だ、間違いない・・・・!ただ、問題はその能力がなんなのか・・・・物が飛んできたところを見ると、何か重力に関係がありそうな能力みたいだね・・・・どちらにせよ星2つ以上は間違いない・・・・あぁ、楽しみでしかたがないよ・・・・!早く、もっと調べたい・・・・!」
目を見開き、爪を噛みながら津玖は、欲深く言う。
そんな津玖を置き、禊は身だしなみを整えながら近寄ると――――、
「確かに、彼が『最初の能力者』である可能性は限りなく高いと思います・・・・ですが、その人間性は・・・・少しどうかと思いますがね」
さっきの出来事を思い出しながら、禊はそういう。
そんな禊に、津玖は体を向けると――――、
「いや――――彼はあれを故意でやったわけじゃあないみたいだよ?」
「・・・・それ、どういうことですか?」
「彼――――必偶くんは、禊ちゃんを狙って鉄柱を飛ばしたわけじゃないってことさ、それどころか・・・・彼は鉄柱が禊ちゃんに向かって飛んでいったことすら、本当に気づいていないみたいだ」
「気づいていない・・・・?彼が自分でやったわけではないと?」
「いや、それは違う――――彼は何かが起こることを予測してやっている・・・・が、それが何かは分かっていない。そういうことさ」
「・・・・?」
「いや、理解できなくていいんだよ。私だって理解していないし、彼自身も理解していない。今は理解できなくとも・・・・時期に、必ず理解してみせるさ――――君たち風紀委員会、そして――――生徒会とともにね」
そう言って、クスリと笑うその幼き少女――――。
その白い衣とは裏腹に、その笑みは悪魔のようで・・・・。