これは不慮の事故
獅子神学園――――各地方に設置されたその学園は、老若男女問わず試験を受けることができる。
12宮の星座がモチーフとされていて、日本の東京では獅子が象徴とされている。
また、この学園に合格した者は、家族ともに国から支給を受け、安泰した人生を送れるという。
そのため、ここ東京でも、多くの者たちがその学園へと入学を希望するが、受かる者はほんの少人数・・・・あまりの合格者の少なさに、その学園で行われていることは違法なのではないかという都市伝説的な噂も経っている。
しかし、それはこの学園自体の情報も少なく、中で行われていることは機密にしているからというのもあるのだ。
――――あ、全部wiki調べだから、たとえ情報が間違っていても僕には関係ないよ!
◇◇◇
「おいおい!勘弁してくれよ!登校初日から遅刻だなんて勘弁だ!」
大声でそう叫ぶ、学生の格好をした全身真っ黒な男に、周りの人間たちはざわざわと、またはヒソヒソと小声で会話をしていた。
――――ここは獅子神学園、まるで一つの都市のように広いこの学校で、必偶 然・・・・偶然くんは、迷子になっていた。
「まったく!僕のクラスは一体どこにあるんだ!機械音痴な僕がこんな地図渡されても分かるわけないだろう!」
入学前日・・・・宅配によって届けられたその段ボールの中には、タブレット端末が入っていた。
そこには学校までの案内地図と、各々のクラスの番号とそこまでの道のり、そして集合時刻・・・・が、データとして入っていたはずなのだが・・・・。
この男――――偶然くんは極度の機械音痴・・・・触った瞬間にタブレットに映し出されたのは、砂嵐になった地図だ。
「まったく、今日はツいてない!偶然にも学校にはたどり着いたが、クラスまでの道のりが分からないなんて!せめて僕のクラスが分かればよかったのに!」
やはり大声で、タブレットを持ちながらそう嘆き叫ぶ。
周りの人はそんな偶然くんを嫌悪し、あからさまに避けていた。
「・・・・すいません、必偶様でよろしかったでしょうか」
「ん?誰だい君は!もしかして僕を助けに来てくれたのかい!?とてもやさしい人だね!それとも何かの罰ゲームかな!?」
「はぁ・・・・まぁ、助けと言えばそうなのでしょうか・・・・」
偶然に話しかけたのはスーツを着た真面目そうな女性――――20代ぐらいの顔付きをしており、ツインテールで眼鏡を掛けている。学園に沿って言うならば、学級委員のようなものを連想させる。
「・・・・で、君は何のためにここに来たんだい!?」
「私は大地 恵――偶然様の到着が遅れていたので、お迎えに参りました」
恵はそう言うと、まるで軍隊のように敬礼をとる。
「到着が遅れているだって!?ということは、僕は遅刻っていうやつかい?!」
「いえ・・・・今回はタブレットの方に問題があったそうなので、こちら側の問題になります。なのでご安心ください」
「なんだ!それはよかった!じゃあ僕は関係ないね!」
「いえ、関係ないというわけでは・・・・」
慌てている偶然をなだめるようにそういう恵だが、偶然のあまりの開き直りっぷりに恐縮に近いものを味わう。
そして、恵は偶然のもつタブレットに目をやると――、
「失礼ですが・・・・少しタブレットの方を拝見させて頂けますか?」
「それは構わないよ!ただ理由は聞かせてもらうけどね!」
「・・・・このタブレットはかなりの高性能なので、壊れるということは本来ありえないのですが・・・・中に入っているGPSすらも反応せず、かなりの不良を起こしているようで・・・・その原因を突き止めるために、すこし預からせてもらいます」
恵は丁寧に説明し、偶然からタブレットを受け取る。
やはりタブレットには砂嵐しか映っておらず、微塵の情報すらもつかめない。
「じゃ!あとはお願いしますね!」
そう言って、偶然がタブレットから手を離し、完全に恵にタブレットを明け渡した瞬間――パッとタブレットが反応する。
「――――!・・・・これは、一体・・・・」
そこには、学園の案内地図とクラスの番号・・・・そして、今現在いる位置情報までしっかりと映し出されていた。
「僕って機械音痴なんです!だからタブレットも壊れてしまうんですよ!」
「機械音痴・・・・ですか・・・・」
「何をそんなに驚いているんですか!もしかしてSAN値チェックでも入っちゃいました?!」
唖然としている恵に、偶然はクトゥ〇フtrpgのネタを吹っ掛ける。
しかし、恵は一切反応を示さず、ただジッとタブレットを見つめて――、
「・・・・まぁ、いいでしょう・・・・では、クラスまで案内いたしますので付いてきてください」
「わかったよ!クラスメイトと会うのが楽しみだ――――」
「うっわああああああああああああ!」
偶然が言葉を言い終わる前に、突如悲鳴が轟く。
聞こえた方向に目を向けると、そこには天井の柱にぶら下がる男の姿が――、
「なんだいあれは!大変だ!早く助けないと!」
「――いえ、大丈夫です」
「大丈夫だって!?あれのどこが大丈夫なんだ!君は狂っているのかい!?」
「落ち着いてください必偶様、ここは自殺を含んでも死亡率0%の学園・・・・獅子神学園ですよ?この程度・・・・日常茶飯事です」
――――そういう恵は、天井にいる男とは反対の方向に目を向ける・・・・同じくそこに目を向けると、そこから素早い影が――、
「・・・・?!なんだあれは!」
それは忍者だった。
黒い装束を身にまとい、口元を隠している忍者は、 天井にぶら下がる男を柱の上へと持ち上げている。
「・・・・獅子神学園専用の防衛軍の一人です。生徒に命の危険があれば即刻駆け付け、すぐさま助けます・・・・あれが、死亡率0%の理由の一つです」
恵は、この展開をさも予測していたかのように話し、「さっ、行きますよ」とクラスへ行くのを催促する。
「へぇ・・・・あの人は、どんな生徒でも助けてくれるのかい?!」
「えぇ、当然です。たとえ屋上から飛び降りようとも、地上に着く前に防衛軍の方が助けてくれるでしょう」
「わあ!それはすごい!じゃあ――ちょっと実験してみよう!」
偶然は、天井に向けて指を鳴らす。
その音と偶然の言葉に反応して、恵はピタリと止まって偶然の方を見る――――、
「?!――あなた、何を――」
――――ガランガラン!と・・・・柱が降り注ぎ、その真下にいるのは必偶 然。
恵のその言葉も遅く、気づいたころには土煙が舞っていた――――、
「!?――――大丈夫ですか?!」
落ちてきた柱に向かって、恵はそう声をかける。
突然の出来事に、天井にぶら下がって悲鳴を上げていた男も、その出来事をまったく無視していた周りの人間も、その奇妙な出来事に、みんな意識を向けていた。
「・・・・へぇ、結構やるじゃん」
「・・・・!?」
土煙がやみ、そこにいたのは突っ立っている偶然の姿・・・・そして、その周辺を囲むように刺さっているくない・・・・そのくないからは、まるでバリアのように紫色の膜のような壁が張り巡らされていた。
「・・・・防衛軍特性の防護くない・・・・」
「まるでATフィー〇ドみたいだね!いいものが見れた!」
偶然は天井にいる忍者の方を向くと――、
「守ってくれてありがとう!流石防衛軍だ!こんな僕でも守ってくれるなんて!」
手を横に広げ、天井にそう叫ぶ。
「――――だけど・・・・これは不慮の事故だし、それを防衛軍が守ってくれるのは当然なんだよね・・・・だから――――――僕は関係ないね!」
偶然は、ニヤリと笑って・・・・自分には関係なかったと――そう言いきる。
「・・・・あなた・・・・!何をしているんですか・・・・っ!」
恵は、そんな偶然に――確かな怒りを込めて、説教のようにそう言う。
「何を――?うーん・・・・勘違いしないでくれよ!これは不慮の事故で、たまたま、偶然起こった事なんだ!だから、まるで僕が狙ってやったかのように言わないでくれ!」
偶然は、そんな恵にそう弁解する。
「・・・・あなた、一体なんなんですか・・・・」
「――――僕は必偶 然・・・・偶然くんと呼んでおくれよ!」
ニッと笑って、偶然は悪びれる様子もなく――ただ空気を読まずに、まるで新入生の自己紹介かのように、畏怖の目を向ける恵に――そう言った。