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偶然という男

「おい!さっさと出すもん出せ!」


 ヘラヘラと笑いながら、その集団・・・・数えて三名の不良グループが僕を脅す。

 背面は壁、前には不良たち・・・・逃げ場はない。


「怖いよ!誰か助けてくれ!か弱い僕が路地裏で襲われている!」


「うるせぇ!」


 バンッ――――と、不良のリーダー格のような男が近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。

 なんて怖いんだ!なんて恐ろしいんだ!これがラノベならば、僕は主人公に助けられるモブなのだろう!


「おい!お前ら!」


 表通りから、不良たちに呼びかける声がする。


「わ!誰か助けに来てくれたんだね!君は僕のヒーローだ!」


「あぁ!?」


 聞こえた声にそう声をかけると、低い声で脅すように答えられる。

 おかしいな?これがラノベなら――――誰かが助けに来るはずなのに。


「お前、何勘違いしてんだ?さっさと出すもん出せって」


 そこに立っていたのは巨漢の大男、ガタイがよく、まるでボディビルダーのような体格をしている。といえば、どれだけの筋肉があるかは容易に想像できるだろう。

 そして・・・・なにやら不良グループと仲がいい。

 大男はこちらにゆっくりと近づくと、リーダー格の男と場所を入れ替える。


「ひどい!助けだと思ったら仲間だったなんて!」


「誰がお前の仲間なんてするかよ!いいからさっさと出せよ、そうしたら・・・・痛い目は見ずにすむかもなぁ?」


 ニタァ・・・・と、大男はこちらを見て笑う。

 どうやら僕は勘違いしていたようだ!本当のリーダーはこの大男だったんだね!


「すいません!これで許してください!」


 ポケットに手を突っ込み、大男の手にそれを渡す。


「へっ、ちゃんと持ってんじゃねえか・・・・」


 そう言って大男が手を開くと、そこにあったのは一枚のレシート・・・・。


「・・・・てめぇ・・・・なめてんのか?」


 ビキビキビキと、大男の頭に薄く血管が浮かび上がる。


「ん?どうしたんだい!持ってるものは出したよ!これで許してくれ!」


「てめぇ・・・・!」


 大男が右腕をコンクリートの壁に叩きつける・・・・すると、そこには大きな穴ができていた。


「やべぇよ・・・・兄貴が怒っちまった、あいつ死んだよ・・・・」


「ああーあ、俺しーらね」


「『鉄腕の熊(アイアンベアー)』の名を持つ兄貴を舐めたバツだな」


 後ろにいる不良三人が、笑いながらそう言う。

 『鉄腕の熊(アイアンベアー)』、この地方では有名な不良の一人・・・・出会ったら真っ先に命乞いをしろ、とまで言われている不良の一人だ。


鉄腕の熊(アイアンベアー)に会うなんて、僕はなんて不幸なんだ!こんなところに居てられるか!僕はこの場所から逃げさせてもらう!」


「ちょ、おい待て!」


 大男の横から表通りに向かう――――不良たちはそんな僕を止めようと、腕を広げたりして立ちふさがるが、()()()逃げることに成功する。


「くそ!おい待て!」


 表通りに逃げた僕を、大男は走って追いかける・・・・大男が路地裏から出た瞬間、その男の前に写ったのは一台のトラックだった。


「うお、うああああああああああああああ!」


 ()()()()突撃してきたトラックに、大男は踏み潰されてしまう。

 急ブレーキをしたトラックの下は、その大男で鮮血に染まっていた。


「「「兄貴!」」」


 不良グループが咄嗟に駆け付け、トラックの下を覗く・・・・微かに唸るような声が聞こえ、それが大男の声だということが分かる。


「かわいそうに!偶然にも通りがかったトラックに轢かれてしまうなんて!でも――――これは偶然に起きてしまった事故・・・・「不慮の事故」だ、だから僕は――――関係ない!」


 腕を横に広げ、高らかにそう謂う。

 運が良かったみたいだ!僕にはトラックが突っ込んでこず、()()だなんて!


「て、てめぇ!」


 顔を真っ赤にして怒る不良を制止するようにもう一人の不良が「ちょっと待て」という。


「あ、あいつの服装を見ろ!」


「・・・・!?あいつの服装、あの制服・・・・極めつけにあの腕章、まさかあいつ――――」


「「「『獅子神学園』の生徒だと――――!?」」」


 今の僕の服装は、上下黒色のよくある学生服だ。

 しかし、目立つのはその腕章――――赤色の生地でできたその腕章には、獅子の駆けるような姿が描かれていた。


「おいおい!急に物珍しいものを見るような目で見ないでくれ!僕はただの一般人さ!」


「一般人・・・・?馬鹿言え!その腕章は兄貴でも貰えないほど貴重なものなんだぞ!つまり、最低でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 不良の一人が叫び気味にそういう。

 確かに――――この腕章は国から支給される物で、かなり厳しい検査と試験を合格しなければいけない。

 その厳しさから貴重すぎるものとして扱われ、売れば生活には困らないとまで言われるほどだ。

 だからこそ皆が欲しがり、この老若男女問わないこの試験を受けるのだが、毎年人口の9割ほどが受け、その9割9分が落ちるといわれている。


「まったく、僕はたまたま受かっただけさ!偶然にも試験官の目に留まったんだろう!」


「とぼけやがって・・・・こんな奴なら喧嘩を売らなきゃよかったぜ・・・・」


「仕方ねえだろ!暗がりでよく見えなかったんだからよ!」


 この腕章に怯えるように、不良たちは言い訳をし始める。


「・・・・ところで、僕を一番脅してたのって――――誰だっけ?」


 そう言って不良たちを見ると、不良たちは身震いし、お互いの顔を見合わせる。

 そして、押し付けるようにそれぞれがそれぞれに指を指し始める。


 人間はなんて醜いんだ!自分に危機が迫っていると感じると、すぐさま人を売るなんて!


「・・・・俺だよ、クソッたれが」


「――――!?」


「わあ・・・・君が生きているようで安心したよ!それしても凄いね!トラックを()()()()()()()()なんて!」


 不良たちの後ろから聞こえる声は、大男のもの・・・・そちらを見ると、大男が血まみれのままトラックを持ち上げ、こちらを睨みつけているのが分かる。


「俺があいつらに喧嘩を売るよう指示した・・・・だから俺と戦えクソッたれが」


「なんて酷いんだ!まさか君が全部仕組んでいたなんて!」


 大男は、持っていたトラックをさらに上へと持ち上げると、こちらをさらに睨みつける。


「お前を倒して腕章を手に入れれば・・・・俺は金持ちになる・・・・それどころか、お前よりも強いってことで腕章を貰えるかもなぁ!」


「とんでもない!僕はただの一般人さ!僕を倒しても何もないから許しておくれよ!」


「もう・・・・遅せぇ!」


 そういうと、大男は「うおおおおおおおおおおおおおおおお」と雄叫びを上げながらトラックをこちらへ投げ飛ばす。


 ――――トラックが迫ってくる!当たったら大変だ!でも・・・・僕には()()()()


「――――!?」


 トラックが当たる直前、幸運にも上から鉄柱が振ってくる。

 そして、それはトラックの前に立ちふさがるかのように地面に突き刺さり、トラックを止める。


「な・・・・!」


「運が良かった!たまたま上で工事をやっていて、不幸にも鉄柱が降ってきたが、幸運にもそれがトラックの前に落ち、僕には外傷がつかなかったなんて!」


 しかし微かに砂埃のようなものが肩についている・・・・これはツいてない!


「おっと・・・・今の衝撃で、不幸にも君の上に鉄柱が落ちてきそうだ!」


「何を言って・・・・!」


 そういって大男が上を見上げると、確かに上から鉄柱がいくつか降り注ぐ。


「あ、あああああああああああああああああああああああああ!」


 鈍い音が鳴り、男の悲鳴が聞こえなくなる。

 代わりに聞こえるのは、街中を歩く人たちがざわめく声だ。


「かわいそうに!たまたま落ちてきた鉄柱が君に突き刺さるなんて!でも――――――僕には関係ない!」


 これは不慮の事故だから、僕には関係ない。

 

 そして、すぐ近くにある時計台にチラリと目をやると――――、

 ――――おっと!もうこんな時間だ!学校に遅れてしまう!


「じゃあ!僕には学校があるからそろそろ行かないと!」


 そう言って、学校のある方向へと向かう――――その光景を、怯えるように不良たちは眺めている。

 きっと、目の前で人が死んだことに驚いているのだろう!でも僕には関係ない!

 不幸にも不良に絡まれた気がするけど・・・・終わり良ければすべてよし!さ、今日は入学式だ!


「ちょ、ちょっと待てよ・・・・!」


「ん?僕かい?」


 不良の一人に呼び止められ、立ち止まる。


「せめて・・・・名前を教えろよ!名前も知らないやつに兄貴が殺されたなんて、そんなの信じられるか!」


 そういう不良の一人を、周りの不良は「やめとけよ」と止めようとするが、やはり他の二人も納得がいかないらしく、その声ははっきりとしていない。


「・・・・しょうがないなぁ!」


 再度不良たちに体を向け、はっきりとした声で、確実に聞こえるように話す。


「僕の名前は必偶 然(ひつぐう しかり)――――――偶然くんと、呼んでおくれよ!」


 ニコッと笑い、愛想よく言うが・・・・不良たちはまだ敵意を向けるようにこちらを見ていた――――――

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